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6話 8歳にして母を超えてしまう

「よし!」


 呆然としていた母さんが、なにやら決意したように頷いた。


「レン、私が稽古をつけてあげますね」

「え? どうしたんですか、いきなり」

「男の子なのに魔法を使えるなんて、初めてよ。あなたは、ひょっとしたらとんでもない魔法の才能があるかもしれません。それを育てないなんてこと、親としてありえないわ」

「そうだな……レン、お母さんに稽古をつけてもらいなさい。男だからと魔法のことは諦めていたが……もしかしたら、レンは伸びるかもしれないぞ」

「はい、よろしくおねがいします」


 素直に母さんの話を受けることにした。


 家庭に入る前は、母さんは色々な魔法を扱い、一線で活躍していたと聞く。

 俺の知らない戦い方、技術を持っているに違いない。

 そんな母さんに稽古をつけてもらえれば、さらに強くなることができるはずだ。


 俺はワクワクしていた。


「お父さん、お母さん」


 エリゼがどこか期待した様子で、二人に声をかける。


「ん? どうしたんだ、エリゼ」

「その、あの……わ、私にも稽古をつけてほしいです。お兄ちゃんと一緒がいいです」


 こんな時まで、一緒にいたがるエリゼ。かわいい。


 でも、それはどうかと思う。

 エリゼは体が弱いからな……

 稽古なんかをしたら、体調を崩してしまうかもしれない。


 父さんも同じ懸念を抱いたらしく、難しい顔をした。


「うーん……エリゼのお願いならなんでも聞いてやりたいところだが、こればかりはな……」

「エリゼちゃん。まずは、体を良くすることを一番に考えましょう。元気になったら、いくらでも稽古をつけてあげますから……ね?」

「……はい」


 寂しそうにエリゼは頷いた。

 エリゼも、自分が無茶なことを言っているという自覚はあるのだろう。


 しかし……それだけに、もどかしい思いになってしまう。

 できることなら、エリゼの望みを叶えてあげたいが……

 病弱な体を強くする魔法なんてないからなあ。

 万能の治療薬『エリクサー』でもあれば別なんだけど、そんなものが都合よく転がっているわけがない。

 エリゼには悪いが、今回は諦めてもらおう。


「それじゃあ、私はレンと稽古をしますね。お父さんは、アラムを頼めますか?」

「あっ……そうだったな。わかった、任せておけ」


 今の『あっ』は、どういう意味だろうか?

 もしかして、忘れていたのだろうか?

 哀れ、アラム。


 父さんがアラムが吹き飛ばされた方向に歩いて……

 そして、母さんは家の中から魔法人形を持ち出してきた。


 魔法人形というのは、魔法の訓練に使う的だ。

 魔法に対する高い耐性を持っているため、的としては最適だ。

 さらに、魔法の威力を数値化してくれるという機能付き。


 一度、使ってみたかったんだけど、俺にはまだ早いと断られていたんだよな。

 今にして思うと、俺が男であるということが関係していたのだろう。


「お兄ちゃん、がんばってください!」


 エリゼは、引き続き俺の訓練を見るつもりらしい。

 訓練なんて見ても退屈だと思うが……まあいいか。

 エリゼの声援があれば、力が湧いてくるというものだ。


「もう一度、確認しておきますが……レンは魔法を使えるんですよね?」

「はい、使えますよ」

「そうなのですか……改めて聞くと驚きね。しかし、どこで魔法を覚えたのかしら? 魔法書の類は与えていませんよね?」

「それは……」


 転生したからです。


 ……なんて言っても、普通、信じてくれないよなあ。

 最悪、大人をからかうんじゃない、と怒られてしまうかもしれない。


 それと、男である俺が魔法を使えるという理由は、俺自身もわからない。

 謎だ。

 答えようがないんだよな……


 ここは、適当にごまかしておこう。


「姉さんが魔法を使っているところを、たまたま見て……それで覚えました。それまでは、男が魔法を使えないなんて知らなかったから……普通に誰でも使えるものだと思っていました」

「なるほど、そういうことなのね……でも、見て覚えることができるなんて……やっぱり、レンには魔法の才能があるのかもしれませんね。男の子だからと諦めていましたけど……どうやら、それは間違った判断だったみたいね」


 男というだけで、この扱いか……

 現代の女尊男卑は、けっこうすごいところまできているみたいだ。


 男が魔法を使えないということは理解したものの、それに対する周囲の偏見などは、軽く調べた程度だ。

 まだ細かいところまでは理解していない。

 いずれ、きちんと調べておいた方がいいかもしれないな。


「でも、そうなるとレンは、基礎の理論などを知らないことになりますね。それはいけませんね。いいですか、レン? 直感で魔法を使うなんて、それはすごいことです。しかし、基礎を疎かにしてはいけません。自分が使っている魔法がどんなものなのかきっちり理解しないと、いつか成長が止まってしまいます。逆に言うと、ちゃんと基礎を学んでおけば、さらなる成長が期待できます」

「はい!」

「退屈かもしれませんが、まずは魔法の基礎理論について話しますね」

「退屈なんてことはありません。楽しみにしています」


 本心だった。

 あれから500年……

 どんな形で魔法が進化しているのか、ようやく勉強することができる。


 ものすごく期待していた。

 期待していたのだけど……


「いいですか? レン。そもそも魔法というものは……」


 母さんが基礎の魔法理論を語る。

 その話を聞いて……俺は、軽く混乱した。


 なんだ、これは……?

 これが基礎の魔法理論だというのか?


 ありえない。


 こんなものが魔法理論だなんて……

 だって、子供でも知っているような、ママゴトみたいなレベルの魔法理論じゃないか。

 基礎中の基礎の、さらにその中でもレベルが低い基礎の、さらにさらに誰でも理解できるようなレベルに落とし込んだ内容で……


 要するに、母さんが話している魔法理論は、赤ちゃんレベルのものだった。

 驚くほどに低レベルだ。

 母さんは、なぜこんな低レベルな魔法理論をドヤ顔で語っているのだろうか?


 もしかして、男ということで舐められているのか?

 お前にはこのレベルがお似合いだぞ……とか?


 ……いや。

 母さんはそんなことをするような人じゃない。

 何か意味があるはずだ。


「……そうか!」


 話をする前に、母さんは基礎が大事だと言った。

 その通りだ。

 魔法に限らず、どんな物事でも基礎を疎かにしてはいけない。


 しかし、俺はどうだ?

 前世では賢者ともてはやされて……

 基礎なんて……と、疎かにしていたところがあった。


 きっと、母さんはそのことを見抜いたに違いない。

 だから、あえて基礎の中の基礎から始めることにしたんだ。

 これは、『慢心してはいけない』という教えなのだろう。


「どうしました、レン? ぼーっとしているみたいだけど……ちゃんと聞いていますか?」

「はい、大丈夫です!」


 心を入れ替えないといけないな。

 俺は、低レベルすぎる魔法理論に耳を傾けた。

 低レベルすぎて眠くなってきたが、それでも耐えて、最後まで聞いた。


「よし、魔法の基礎理論についてはこんなところですね。いきなりでわからないことも多いかもしれませんが……どうですか?」

「はい。問題なく覚えました」

「今のを一度聞いただけで? 本当ですか?」

「本当ですよ。なんなら、復唱しましょうか?」

「いえ……疑って悪かったわ。そうよね、レンは嘘をつくような子じゃないし……だとしたら、すごいわ。調子に乗って中級の魔法理論まで踏み入ってしまったのですが、きちんと理解しているなんて」


 うん?

 今、中級の魔法理論と聞こえたような気がするが……まあ、聞き間違いだろう。

 あんな低レベルの魔法理論が中級であるわけがないからな。


「では、今の魔法理論を元に、改めて魔法を使ってみましょう。まずは、私が見本を見せますね」

「はい!」

「いきますよ」


 母さんは手の平を魔法人形に向けて、魔力を集中させる。

 そして、


「火炎槍<ファイアランス>!」


 炎の槍が放たれた。

 魔法人形を直撃して、ゴゥッ! という音と共に炎が荒れ狂う。

 それから、魔法人形の上に『75』という数字が表示された。

 75という数字は魔法の威力を表している。

 普通の魔法使いなら100に達するらしいから、現役を引退したことを考えると、母さんの魔法はなかなかの威力だ。


「ふう……こんなところでしょうか。どうですか?」

「はい、すごいです!」

「お母さん、かっこいいね」


 俺とエリゼに褒められて、母さんはだらしない笑みを浮かべた。

 母さんは親ばかなのかもしれない。


「よし。それでは、次はレンの番ですよ。今のようにやってみなさい」

「わかりました」


 手の平に魔力を収束させる。

 光の粒子が集まり、キラキラと輝いた。

 そして……それを一気に解き放つ!


「火炎槍<ファイアランス>!」


 ゴッ……ガァアアアアア!!!!!


 母さんの魔法の何倍もの巨大な炎の槍が形成されて、高速で射出された。

 魔法人形を飲み込み、紅蓮の炎を撒き散らす。


 魔法人形の上に『999』という数字が表示されるが……

 そこが限界だったらしく、次の瞬間、表示がバグって壊れてしまう。


「……」


 魔法人形が壊れるという予想外の結果を目の当たりにして、母さんは唖然としていた。


「母さん、どうですか? とりあえず、今のが俺の全力なんですけど……でも、これじゃあまだまだですよね。もっともっと強くなりたいんですけど、どうすればいいと思います?」

「え? これでまだまだなんですか? もっと上を?」

「もちろんですよ。これくらいで満足していたらダメになってしまいますからね。俺が目指すところは、もっともっと上です」

「……あ、うん。ソウデスカ」

「母さん?」

「……レン、あなたは免許皆伝よ。私が教えられることはもう何もないわ」

「えぇ!?」

「お兄ちゃん、すごいね!」


 俺は戸惑い……

 エリゼは無邪気に俺の活躍を喜ぶのだった。

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