59話 対人戦特訓!
特訓を始めて三日が経過した。
フィアの魔力はどんどん上昇して、今やシャルロッテに匹敵するほどに成長していた。
この時代のおかしな魔力式を捨てさせて、昔の正しいものを教えたということもあるが……
それ以上に、フィアのやる気が大きい。
日が暮れるまで特訓をしているのだけど、それでもフィアは音を上げず、ひたすらに前を向いてがんばり続けた。
やると決めたら、やり通す子みたいだ。
そんなフィアのことは、好ましく思う。
そんな感じで、フィアの魔力は底上げされて、順調に特訓は進んでいたのだけど……
ここに来て、一つの問題が発生した。
「それじゃあ、今日は実戦形式の訓練だ。まずは、適当に魔法を撃ってくれ」
「は、ははは、はいっ」
いつものように訓練場を借りて特訓をしているのだけど、フィアはガチガチに緊張していて……
「ふぁ、ふぁふぁふぁ……火炎槍<ファイアランス>!」
フィアが魔法を放つ。
何度もつっかえたせいなのか、魔力式がめちゃくちゃだ。
それに、しっかりと魔力を練ることができなかったらしい。
フィアが放つ炎の槍は拳ほどに小さくて、おまけに、亀みたいに鈍い。
俺に届くことはなくて、途中でぽすんと消えてしまった。
「えっと……フィア?」
「す、すみませんすみませんすみませんっ!」
ものすごい速度でフィアが頭を下げた。
速射砲みたいだ。
「なんで失敗したんだ? 火炎槍<ファイアランス>なんて、誰でも使えるような簡単な魔法だろ?」
「えと、その……決して簡単ではないと思うんですけど……」
「……そういえば、そういう時代だっけ。ああもう、未だに慣れないな。俺の中で、魔法はこういうものだ、って常識が固まっているからなあ……いい加減、こういう勘違いはなんとかしないといけないんだが……」
「えっと……レン君?」
「ああいや、なんでもないよ。まあ、簡単なものではないとしても、フィアなら問題なく使えるだろう? それなのに、どうして? 単に失敗したとしても、その……あまりにひどい失敗じゃないか?」
「はぅ!?」
フィアが胸を押さえるような仕草をして、がくりと膝をついた。
やばい、言い過ぎたか?
「す、すいません……わたし、豆腐メンタルで……うぅ……」
「いや。俺も、もうちょっと言葉を選ぶべきだったよ。ごめん」
「いえいえ、わたしの方こそ……」
互いに謝り……
それから、話を元に戻す。
「その……実は、わたし……極度のあがり症で……」
ぽつぽつとフィアが語る。
今まで日陰に隠れるように生きてきたので……俺が言ったわけじゃない。フィアが自分で言ったことだ……人前に出ることが苦手らしい。
大勢の生徒に注目されると緊張してしまうし、人と対峙するだけでも緊張してしまう。
見知った人なら、話をする程度には問題はないのだけど……
それでも、訓練など心に負担がかかるような場面では、やはり緊張してしまう。
その結果、まともに魔力式を展開できず、魔力をうまく練ることもできず……
先のような結果になってしまうとか。
「まいったな」
ここにきて問題発生だ。
例えフィアが強くなったとしても、この問題を解決しない限り、まともに戦うことはできない。
魔法大会に出たとしても、すぐに負けてしまうだろう。
この問題も並行して解決しないとダメか。
――――――――――
後日。
放課後……俺とフィアは、改めて屋外訓練場に集合した。
ただ、今回は特別ゲストを呼んでいる。
「というわけで……特別ゲストのシャルロッテだ」
「ふふーんっ、超絶かわいいあたし、見参!」
「えっと……?」
突然のシャルロッテの登場に、フィアは目を丸くしていた。
なんでこんなところに? とでも言いたそうな顔をしている。
「対人戦の訓練は、シャルロッテに担当してもらうことにしたから」
「え、えええぇ!?」
そんなこと聞いてないというように、フィアが驚きの声をあげた。
「そ、そんな……!? シャルロッテさまを相手にするなんて……そ、そそそ、そんなことできませんよぉ……!?」
「でも、俺が相手をしてもあまり効果がないだろう? なら、ここは一つ、ショック療法ということで、シャルロッテに相手をしてもらうことにしたんだ」
ただのクラスメイトを相手にしても、フィアのあがり症を治すことは難しいだろう。
でも、相手が自分が仕える家のお嬢さまなら?
シャルロッテを相手にまともに戦えるようになれば、その他の細かいことなんて気にならなくなるだろう。
「それにしても……自分がフィアを鍛える、って言ってたくせに。それなのにあたしを頼りにするなんて、ダメダメねえ」
「むぐ」
返す言葉もない
「仕方ないだろう。最初は、フィアのあがり症があそこまでひどいものだとは思ってなかったんだ。ただ、強くすればなんとかなると思っていたんだよ」
「ふふーんっ、甘いわね。フィアのあがり症は、稀に見る天然物よ。ちょっとやそっとでは治らないわ。それだけ、フィアの心は豆腐メンタルなんだから!」
「……ぐすん……」
やばい、言い過ぎた!?
「ま、まあ、これから特訓してあがり症を治せばいいわけだから、気にするな!?」
「そ、そうよ! そのために、あたしが付き合ってあげるんだから!?」
「うぅ……すいません、ありがとうございます……わざわざ、豆腐メンタルのわたしに付き合ってくれるなんて……」
根に持たれてしまったかもしれない。
「まあ……とにかく! あたしが特訓に付き合ってあげるから。あがり症なんて忘れさせてあげる」
「で、でも、シャルロッテさまと戦うなんて、そんなことは……」
「それなら、あなたはこのままでいいと言うの?」
不意に、シャルロッテの目が厳しいものになる。
まっすぐと、フィアを見つめていた。
「自分を変えるチャンスがあるというのに、それをみすみす手放すというの?」
「そ、それは……」
「不安?」
「……はい」
「その気持ちがわかる……なんてことは言わないわ。フィアのことは、フィアにしかわからないもの。でも、一つだけ言えることはあるわ」
「それは……?」
「あたしが特訓に付き合うんだから、絶対に成功する、っていうことよ!」
いったい、どこからその自信が湧いてくるのやら。
シャルロッテは胸を張りながら、ドヤ顔で言い放った。
ただ、その心はフィアに届いたらしい。
シャルロッテの想いに感化されるように、フィアの顔にやる気がみなぎっていく。
「わたし……が、がんばりますっ」
フィアが気合を入れるように、小さな両拳をぎゅっと握りしめた。
「レン君とシャルロッテさまが、ここまでしてくれているのに……に、逃げるわけにはいきません! あがり症を克服して……ふ、二人の期待に応えてみせますっ」
「その意気だ」
「よくいったわね」
というわけで、早速特訓が行われることになった。
まずは、マジックコープを使った魔力の底上げ。
その後、シャルロッテとの実戦形式での特訓。
それらを交互に繰り返していき、俺とシャルロッテ、二人でフィアを鍛え上げていった。
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