58話 魔法特訓!
翌日から、フィアの魔法特訓を始めた。
エレニウム魔法学院では、事前に申請をしておけば訓練場を使用することができる。
とはいえ、その競争倍率は激しい。
学院に通う生徒は、皆、一流の魔法使いになることを夢見ている。
そのため、日々の勉学だけではなくて、自己研鑽を積むことも忘れない。
時間の空く放課後などは、訓練場を借りて、特訓をする者が多い。
なので、もしかしたら訓練場を借りることはできないかな、と思っていたのだけど……
わりとあっさりと借りることができた。
……後で知ったことだけど、シャルロッテが手を回してくれたらしい。
「この超絶かわいいシャルロッテちゃんの知恵に感謝することね!」と、本人はおおいに胸を張っていた。
まあ、助かったことは間違いないので、感謝した。
それはともかく。
さっそく、フィアの特訓を始めよう。
屋外訓練場でフィアと対峙する。
「今から訓練を始める。その内容は、フィアにとっては過酷なものになるかもしれない」
「えっ……」
「血を吐き、涙を流すかもしれない。しかし、そこで得たものは必ずフィアの血肉となるだろう。だから、安心して訓練についてくるといい!」
「そ、そそそ、そんなことを言われたら不安ですよぉ……」
「ばっかもーんっ。そんな弱気でどうする!? 気合だ! 気合を入れるんだ!」
「は、はひっ!?」
「返事は、はいじゃない。サーッ、イエッサー! だ」
「さ、さー……?」
一度、こういう軍人みたいなノリをやってみたかったのだけど……
フィアはついていけないらしく、目を白黒させていた。
まあ、当たり前だ。
女性の方が優秀といわれているこの時代で、「サーイエッサー」なんて返事が残っているとは思えない。
というか、悪ノリが過ぎた。
「ごめんごめん。今のやりとりは気にしないでくれ。というか、忘れてくれ」
「は、はぁ……」
フィアの顔には、『本当にこんなことで強くなれるんだろうか?』と書かれていた。
うん、俺もそう思う。
ふざけるのはここまでにしておこう。
ここからは本気だ。
「さてと、特訓の内容だけど……」
同じクラスで同じ授業を受けているので、フィアの実力はある程度把握している。
シャルロッテを100とするならば、フィアは50くらいの力しかない。
他のクラスメイトは、平均で70くらいだろうか?
このままでは厳しい。
まずは、地力の底上げをしよう。
「これを使おうと思う」
指先でくるくるとボールを回す。
マジックコープだ。
常に魔力を注がなければならないということで、この道具は非常に優れている。
うまく扱えば、一気に魔力を底上げできるだろう。
「マジックコープ……ですか? でも、それなら、いつも授業で使っていますけど……」
「ちょっと違った使い方をしてもらう。授業では、ただ魔力を注ぎ込んで、安定させているだけだろ? それだけじゃなくて、こんなことをしてみようと思う」
とりあえず、実践してみることにした。
マジックコープに魔力を注入する。
ふわりと浮いた。
普通なら、この状態を保つのだけど……
俺はさらにもう一つのマジックコープを取り出した。
空いている方の手で魔力を注ぎ込み、両手で二つのマジックコープをコントロールする。
「ふわぁ……」
フィアが目を丸くしていた。
「っと……こんなところかな」
一分ほどが経過したところで、俺は魔力をシャットアウトした。
マジックコープが手の平の上に落ちる。
「見ての通り、両手を使い、マジックコープを制御してもらう」
基本的に、魔力というものは消費すればするほど、その貯蓄量が増えていく。
いうなれば、筋力トレーニングみたいなものか?
鍛えれば鍛えた分だけ、容量が大きくなるのだ。
もちろん、闇雲に鍛えればいいというものではないし、限界を越えたオーバーワークは逆に体を壊してしまう。
しかし、その点を心配する必要はない。
このマジックコープは実によくできた訓練器具で、使った分だけ魔力が増えるようになっているし、セーフティーがかけられているので、オーバーワークになることはない。
ちょっと疲れる程度だ。
「じゃあ、やってみてくれ」
「わ、わかりましたっ」
フィアはおずおずとしながらも、二つのマジックコープを受け取った。
先のがんばってみるという言葉は、ウソではないらしい。
「んっ」
フィアは両手にマジックコープを持ち、魔力を注ぎ込んだ。
マジックコープが発光して、ふわりと浮き上がり……
「あっ!?」
次の瞬間、なにかに弾かれたように、マジックコープが明後日の方向に飛んでしまう。
魔力の制御に失敗したのだろう。
あるいは、注入する魔力量が少なかったのか。
見た感じ、両方が原因だな。
「すいません……し、失敗してしまいました……」
「最初からうまくいくなんて思ってないさ。これからだ。それよりも……」
フィアが魔力を注入する際に、魔力式が見えたんだけど……
やはりというか、歪な形をした魔力式だった。
魔力式というのは、魔法使いが魔法を使うために必要な演算のことだ。
どの程度の魔力を抽出するのか?
どの規模の魔力を展開するのか?
魔法を使う際に必要な計算……というところか?
魔法使いにとっては必須な技能だ。
その魔力式だけど……
フィアが使っていたものは、なかなかにでたらめなものだった。
例えるなら、迷路の中で、まっすぐに進めば出口にたどり着くのに、わざわざ迂回して遠回りをしているようなものだ。
あんな魔力式を使っていたのではコントロールが難しくなる一方だ。
それに、大した力も出ないだろう。
この時代の魔力式を使うのではなくて、俺の前世の魔力式を教えた方がいいのかもしれない。
「フィア、ちょっといいか?」
「は、はい……なんですか?」
「フィアが使っている魔力式なんだけど、変えた方がいいな」
「え? そ、そうなんですか……? 一応、コレ……たくさんの人が使っている、最も汎用的な魔力式なんですけど……」
「俺から見たら欠陥品だよ。まず、ここの式はもっと簡略化できる。それに、ここの計算は……」
俺が知る限りで、もっとも効率の良い魔力式をフィアに教えた。
覚えるのは早いらしく、フィアはすぐにその魔力式を理解してみせた。
ただ、怪訝そうにしている。
魔力式を変えただけで、なにかが変わるのだろうか?
そんなことを考えているみたいだ。
「とりあえず、その魔力式でもう一回やってみてくれないか?」
「わ、わかりました……んっ」
フィアは、再びマジックコープに魔力を込めた。
適正な魔力式が使われたことで、先ほどとは比べ物にならない魔力が湧き上がり、マジックコープが太陽のように輝いた。
パッと見だが、先程の3倍の魔力が放出されている。
「わっ、わわわ!?」
フィア自身、その魔力量に驚いたのだろう。
目を丸くして、あわあわと慌てて……
ほどなくしてコントロールを失い、二つのマジックコープがぽーんと飛んでいった。
「す、すごいです……まさか、魔力式を変えただけであんなに魔力が出るなんて……」
「うん、いい感じじゃないか? すぐに魔力式を変換して使うことができるなんて、フィアは才能があるかもしれないな」
「あ、あのっ……レン君!」
「うん?」
「わたし……が、がんばりますっ」
改めて決意表明をするフィアを微笑ましく思い、俺は熱を入れて指導するのだった。
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