57話 臆病な自分を捨てろ
「えっ、えぇえええええーーーーーっ!!!? わ、わたしが魔法大会で戦う!? 勝つ!? そ、そんなの無理ですっ、絶対に無理ですぅ!!!」
夜……フィアが戻ってきたところで、話をした。
そして、真っ先に拒否された。
さすがに、この展開は予想していなかった。
どうしよう?
シャルロッテはもう自分の部屋に戻ってしまったし……
エリゼは、家に話をするために、今日は帰宅している。
アリーシャは、さっそく行動を始めて相手のことを探っているので、部屋を空けている。
というわけで、俺が説得しないといけない。
「聞いてくれ、フィア」
「は、はい……」
真面目なトーンで語りかけると、フィアはひとまず落ち着きを取り戻して、話を聞く体勢になる。
「気を悪くしたらごめん。ストレートに言うけど、フィアはいじめられているだろう?」
「そ、それは……」
フィアは否定をせず、暗い顔になる。
つまり、自覚はあるということだ。
「このまま、っていうのはダメだと思うんだ。相手がつけあがらないとも限らないし、なにより、フィアがずっと辛い思いをすることになる」
「でも……」
「だから、今度の魔法大会でいじめっ子に勝つんだ。自分の力を見せつけるんだ。そうすれば、こんなことは終わりになる」
「そ、そんなことできませんよ……わたし、強くなんてないですし……」
「大丈夫。魔法なら俺が教えるから?」
「え? レン君が?」
「こう見えて、誰かに魔法を教えることはそれなりに自信があるんだ。学院一の魔法使いにしてくれ、って言われたら困るけど……つまらないいじめっ子に勝てるくらいになら、できると思う」
「そ、そんなこと……」
自分の手でいじめっ子に打ち勝つ。
そんなことが本当にできるのだろうか?
フィアは自信が持てないらしく、視線を下に向けていた。
その気持ちは、わからないでもない。
きっと、フィアにとっていじめっ子というのは、とんでもなく高い壁なんだ。
一目見て恐れてしまうほどで、簡単に諦めてしまうほどで……
乗り越えられるなんて、思ってもいなかったのだろう。
俺も、魔神という存在を知っているから、その気持ちはわかる。
あんなものをいつか相手にするとなると、心が折れてしまいそうになる。
でも。
諦めたらいけないんだ。
自分で自分の心を折ってはいけないんだ。
どんなにみっともない姿を晒したとしても。
自分の足で立ち上がり、一歩ずつでも前に進まないといけないんだ。
そのための手助けをしたい。
「俺が力になる。エリゼもアリーシャも力になる。それに、シャルロッテも力になるって言っていたぞ」
「シャルロッテさまが……?」
「ひねくれているヤツだけど、フィアのことを心配していたぞ。あと、大事な友だちだ、とも言っていた」
「……」
フィアは、泣き出しそうな、それでいてうれしそうな顔になる。
色々な想いで胸がいっぱいになっているのだろう。
「今の状況でいいなんて、俺は思えない。みんな、フィアの力になりたいんだ。だから、がんばってみないか?」
「……どうして」
フィアの声が震えていた。
戸惑いを含んだ瞳をこちらに向けてくる。
「どうして、そこまでしてくれるんですか……?」
「どうして、と言われても……」
「だって、わたしたち、まだ出会ったばかりで……そんなことをしてもらう義理も義務もないはずで……わ、わからないですよぉ……なんで、そこまで……」
「フィアは、難しく考えすぎていると思う」
「難しく……?」
「もっと簡単に考えようか」
ぽんぽんとフィアの頭をなでた。
反射的な行動だったけれど、フィアはいやがることなく、じっとしていた。
「俺達、友達だろ?」
「友達……」
「友達が困っていたら、助けるのは当たり前だろ?」
「……」
「だから、特に深い理由なんてないんだよ。友達だから、の一言だけなんだよ。そんなものなんだよ」
「……っ!」
フィアの瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。
俺は慌てる。
「ちょっ……え!? ど、どうした? もしかして、頭が痛いのか!? それとも、なんかまずいこと言ったか!?」
「う、ううん……そんなこと、な、ないです……うっ、うううぅ……」
「お、落ち着いてくれ! えっと、えっと……ああもうっ、どうすればいいんだ!?」
前世で賢者と言われていても……
女の子の涙の前では、情けなくうろたえることしかできないのであった。
――――――――――
ほどなくしてフィアは泣き止んだ。
目を少し赤くしつつ……
ハンカチで涙を拭う。
「ご、ごめんなさい……いきなり泣いてしまうなんて……」
「いや、いいよ……それよりも、本当に大丈夫か? 俺、なにかやらかしたとか……」
「い、いえいえ。そんなことはないです! その……」
恥ずかしそうにしながら、フィアが小さな声で言う。
「うれしくて……」
「うれしい?」
「こんな風によくしてもらえるなんて、ほとんどなくて……だから、つい……」
「そっか」
フィアは、どんな思いをして、今までを過ごしてきたのだろう?
彼女の過去を、今までを考えると、胸が痛くなった。
そんな俺の気持ちを察したらしく、フィアが慌てる。
「あっ、でも、その……よくないことばかりだった、というわけじゃないんですよ? そ、その……シャルロッテさまには、本当に、よくしてもらったので……」
「意外といえば意外だけど、らしいといえばらしいのかな?」
一見すると、シャルロッテの性格はひねくれていて、かなりのわがままに見えるのだけど……
きちんと話をすれば、彼女がまっすぐな心を持っているということがわかる。
プライドが高く、自信過剰な性格のせいでわかりづらいが……
シュルロッテは優しい女の子だ。
そのことを俺も理解してくれたことがうれしいらしく、フィアが笑顔になる。
「あの、その……」
「うん?」
「わたし……が、がんばってみようと思いますっ」
フィアは拳をぎゅっと握りしめて、強い口調でそう言った。
「おおっ」
「みんなに、これだけ気にかけてもらっているのに……そ、それなのに、このままにしておくなんて……ダメ、だと思いますから」
「ああ、その意気だ! その調子で、いじめっ子を二度を立ち上がれないくらい、コテンパンにしてやるぞ」
「そ、それはちょっと……やりすぎでは?」
「それくらいのつもりで挑む、ってのがちょうどいいんだよ。フィアは、遠慮しすぎだ」
「そ、そうでしょうか……? うーん」
フィアが悩むところを見ていると、俺の発言が過激なんだろうか? と思えてきてしまう。
そんなことないよな?
わりと普通のことを言っているよな?
でも、周囲からはズレているって言われるし……
あ、なんか自信なくなってきた。
「ど、どうしたんですか? 急に暗い顔をして」
「いや、なんでもないよ。それよりも、これからがんばろうか」
「は、はいっ……そ、その……よろしくおねがいします、師匠!」
いきなり師匠とよばれて、思わず目を丸くしてしまう。
「え? なに、それ?」
「レン君に魔法を教えてもらうわけですから……し、師匠って呼んだ方がいいのかなあ……って」
「それはやめてください……」
「もしかして、照れています?」
「そ、それは……」
「ふふっ……師匠♪」
フィアは楽しそうな顔をして、俺をからかうのだった。
まあ……その笑顔がとても晴れやかなものだから、なにも言うことができず、そのまま好きにさせる俺だった。
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