56話 魔法大会
魔法大会。
それは、学院生活で最初に行われる、一大イベントだ。
己の力を示すために、1年の生徒同士での戦いが行われる。
魔法、武術……己の持てる全てを出し切り、力を誇示する。
試合で優勝した者は栄誉だけではなくて、学院から特別な特典が授与されるらしい。
そのこともあり、皆、必死になって挑むという。
元々は、学院が生徒の力を測るために企画したイベントだという。
最初は小規模なものだったらしが……
歴史が重ねられて、生徒数が増えるうちに、全生徒を巻き込む一大イベントに発展したらしい。
……というような説明をシャルロッテがしてくれた。
「なるほど、魔法大会か」
そんなものがあったなんて、知らなかった。
学院に慣れることでいっぱいいっぱいだったから、そこら辺の情報収集は怠っていたんだなあ……反省。
でも、仕方ないだろう?
女の子だらけの学院に、男が一人。
まず最初に、クラスに馴染みたいと思うのは、普通のことだと思うんだよ。
「魔法大会でフィアが力を示せば、相手だけじゃなくて、周りにもその価値を知らしめることができるじゃない? これなら、レンの言う条件をクリアーできると思うんだけど」
シャルロッテがドヤ顔で語る。
ちょっとうざい。
でも、ナイスアイディアであることには違いない。
「でもでも、トーナメント方式で、相手はランダムなんですよね?」
エリゼが疑問を投げかけた。
シャルロッテの説明では、エリゼが言ったように、対戦相手はランダムで決まる。
しかもトーナメント方式だから、目的の相手が途中で脱落しないとも限らない。
よほど運が良くないと、ぶつかることはないと思うのだけど……
まあ、シャルロッテのことだから、その辺りはなにか考えているのだろう。
きっと、秘策があるに違いない。
「……あっ」
シャルロッテが、どこか間の抜けた声をこぼした。
その頬を、たらりと汗が流れる。
「まさか、何も考えてなかったのか?」
「……」
「おい」
「そ、そんなことないわ! あたしが何も考えてないなんてこと、あるわけないじゃない!」
「なら、作戦を教えてくれよ」
「えっと、それは、その……」
みるみるうちに、シャルロッテが涙目になる。
意外というべきか……
シャルロッテは、それなりにポンコツだったらしい。
「でも、作戦自体は悪くないんじゃない?」
アリーシャがフォローするように言う。
「フィアがいじめっ子に勝利することで、相手の意識を変えさせる。また、周囲の人々にも、うかつなことはできないと思わせることができる。レンの言う条件を、ぴったりと満たしているじゃない。こんなことが考えられるなんて、シャルロッテはすごいのね」
「あ、アリーシャさぁん……」
女神を見つけた! というような感じで、シャルロッテがアリーシャにすがりついた。
アリーシャは苦笑しながら、シャルロッテの頭をよしよしする。
「そ、そうなのよ! あたしの立てた作戦は完璧なのよっ」
アリーシャにフォローされたことで、多少は持ち直したらしく、シャルロッテが再び胸を張る。
ちょくちょく、そのポーズをとるのだけど……
シャルロッテはまだ14歳だけど、そのわりに発育がよくて、ちょっと目のやり場に困ってしまう。
「……じー」
エリゼのジト目が突き刺さる。
「お兄ちゃん、どこを見ているんですか?」
「えっ!? い、いや。なにも?」
「ふーん、そうですか……ふーん」
何も言わない方が逆に辛い!
妹の前では、威厳ある兄の姿を保つことができるように、注意しよう。
妹の前でなければ?
その時は……その時だ。
仕方ないよね。
俺だって、男なんだ。
色恋沙汰に興味がないかと言われると、それはウソになってしまう。
って、話が逸れた。
「まあ……確かに、シャルロッテの作戦なら、いいところを総取りできるんだよな」
「でしょう? ふふーんっ」
「でも、エリゼが言うように穴もあるんだよな」
「しゅん……」
シャルロッテが得意げになったり落ち込んだりして、気分の上下が激しい。
ちょっと楽しいな。
ついついからかいたくなってしまうものの、我慢我慢。
今は、対策について話し合わないと。
「いっそのこと、お父さんとお母さんにお願いしちゃいますか?」
ふと、エリゼがそんなことを口にした。
父さんと母さんに?
それは、どういう意味だろう?
目で問いかけると、エリゼが説明をする。
「ちょっとずるい気がしますけど、家の力、っていうヤツです。幸いというか、お父さんとお母さんは貴族だから、学院に働きかけてもらえば、フィアさんの対戦相手を決めることくらいはできるんじゃあ?」
ウチの妹が、いつの間にか黒いことを考えるように……!?
やばい、ちょっとショックだ。
でもでも、そういう考えも生きていくためには必要なわけで、成長したと喜ぶべきなのか?
とんでもなく複雑な気分!
「お兄ちゃん? どうしたんですか、変な顔をして」
「エリゼも成長したんだなあ……」
「ふぇ?」
「いや、なんでもない」
ボケるのはここまでにしておいて……
真面目に考えないと。
エリゼが言った、家の力を使うというもの。
少々、反則な気がしないでもないが……
別に八百長を仕組むというわけではない。
ただ単に、対戦相手を選ぶだけだ。
それほど道義に反しているわけではない。
「でも、そんなことできるの? できるなら、あたしも口添えしてもいいけど……」
シャルロッテが疑問顔で言う。
そう、問題はそこだ。
貴族の力があるとはいえ、学院が素直に言うことを聞くだろうか?
シャルロッテの疑問はもっともだ。
ただ、俺は問題ないと思っている。
「たぶん、大丈夫だと思う」
「どうして、そう言い切れるのよ?」
「前にも似たようなことがあったんだよ」
入学試験の時、ラウルムとかいう姉さんの友達に絡まれた時のことを思い返した。
あの時、ラウルムは自分が貴族だということを明かし、その力を使って、俺と対戦できるように試験官に頼んでいた。
そして、実際に俺と戦うことになった。
なので、やり方次第では今回もうまくいくだろう。
そのことをみんなに説明した。
「なるほどね、それなら問題ないかも」
「あの時のことを覚えていたなんて、さすがお兄ちゃんですっ」
「ちょっとずるい気もするけど……まあ、仕方ないわよね!」
みんな、納得してくれたみたいだ。
「じゃあ、あたしは家に連絡をしておくわ」
「私も、お父さんとお母さんにお願いしてみようと思います」
「頼む」
「あたしはどうする?」
「アリーシャは、いじめっ子のことを調べておいてくれないか? フィアのライバルになるわけだからな。なるべく、多くの情報が欲しい」
「ええ、了解」
これで準備は完了だ。
あとは、フィアに魔法を教えて……
そして、本番を迎えるだけだ。
フィアのためにも、がんばらないといけないな!
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