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54話 一週間後

 学院生活が始まり、一週間が経過した。


 最初は男は俺一人ということもあり、やや不安ではあったけれど……

 無事にクラスメイトたちに受け入れられた。


 唯一の男ということで、色々と騒がれるところはあるものの……

 それ以外は、わりと順調に学院生活を送っていた。


 魔法や戦術の勉強の方は……まだ、なんともいえない。


 魔法を専門とする学院だけあって、そのレベルはそれなりのものだ。

 外にいた頃と比べると、授業のレベルは高い。


 ただ、それでもまだ、俺が求めるレベルには遠く……

 やはり、この世界の魔法、戦術は衰退しているのだな、と実感した。


 最も、まだ一週間だ。

 これから授業が難しくなるかもしれないし、思わぬところで学べるものが出てくるかもしれない。

 簡単に見切りをつけるなんてことはしないで、しばらくは様子を見てみるつもりだ。


 ……とまあ、それなりに順風満帆な日々を過ごしていたのだけど。

 一つ、気になることがあった。


「……あっ、まただ」


 いつものように、エリゼとアリーシャと一緒に学食で昼を食べている時のことだった。

 学食に併設されている購買で、大量のパンを買うフィアの姿が見えた。


 また、パシらされているんだろうか?

 でも、この前、話した時の印象からすると、シャルロッテはそんなことをするような性格に見えなかったんだけどな……


「むぅ……お兄ちゃんが、また他の女の子を見ています」

「浮気ね」

「こらこら。人聞きの悪いことを言わない」


 アリーシャも悪ノリしないでくれ。


「だいたい、知らない相手じゃないだろう?」

「本当ですね。フィアさんです」

「聞きづらいんだけど……あの子、いじめられているの?」


 フィアがパシらされていることに気がついたらしく、アリーシャが心配そうに尋ねてきた。


「よくわからないんだよな……本人に聞いても、自分で言い出したこと、って言うし」


 とはいえ、わからないで済ませていい問題でもないな。

 気になるし……

 ここらで一度、確認しておくことにしよう。




――――――――――




 放課後。

 人気のなくなった教室で、シャルロッテと二人きりになる。


「こんなところに呼び出すなんて……ふふーん。わかったわ。あんたも、あたしのかわいい顔にやられちゃったパターンね? でも、おあいにくさま。かわいいシャルロッテちゃんの恋人になりたいなら、もっと自分を磨くことに。レンは悪くないけど、良いとも言えないから」


 こんなところに呼び出したせいか、シャルロッテは盛大に勘違いをしていた。


「違う違う。告白なんかじゃないから」

「あら、そうなの? おかしいわね……あたしの美貌にやられない男がいるなんて」


 かわいいっていうのは否定しないけど、性格が歪んでいるからなあ……

 キツイところもあるし、彼女になってほしいとは思わない。


 って、話が逸れた。


「なら、どうしてあたしをこんなところに?」

「それは……」

「はっ!? ま、まさか……あたしの体に目がくらんで、その野獣のような性欲をぶつけようと!?」

「被害妄想がたくましいな。というか、俺はまだ12歳なんだけど」

「あら。年齢なんて関係ないわ。男なんてみんなケダモノじゃない。お母さまがそう言ってたわ」


 シャルロッテの母親も、色々な意味でめんどくさそうだな……


「とにかく、そういうのでもないから。聞きたいことがあるんだよ」

「聞きたいこと?」

「あー……ズバリ尋ねるが、フィアをいじめてるのか?」

「はぁ? あたしがフィアを?」


 直球に質問をぶつけてみると、シャルロッテがきょとんとした。

 本気で驚いているという感じで、演技をしているようには見えない。

 しらばっくれているようにも見えない。


「どうして、あたしがフィアをいじめていることになるのよ?」

「この前……というか、ちょくちょく見かけるんだよ」

「なにを?」

「フィアがパシらされて、大量のパンを買わされているところ。その時、シャルロッテに頼まれた、って言っていたんだよ」


 購買で見た光景を簡単に説明した。


「フィアがそんなことを……」


 今初めて知った、というように、シャルロッテは驚いていた。

 やはり、演技をしているようには見えない。


「今まで、昼はどうしていたんだ?」

「あたし、学食って混むから嫌いなのよ。それで、いつも教室で食べているんだけど……」

「そのために、パンをフィアに買いに行かせていた?」

「そ、そんなことしないわよっ! ただ……」

「ただ?」

「……いつも、友達が持ってきてくれて、それをもらっていて……あっ、ちゃんとお金は払っているからね? あたしが買いに行こうとした時もあったんだけど、わざわざあたしが行く必要はない、自分が行くから……って言われて」

「ふむ」


 フィアは、シャルロッテに頼まれたと言った。

 しかし、シャルロッテは、友達がパンを持ってきてくれたと言う。


 この話の食い違いは、どういう意味なのだろうか?

 ストレートに考えるのならば……


「その友達、っていうのが怪しいな」


 フィアは、シャルロッテに頼まれて、と言っていたけれど……

 又聞きだとしたら?

 例えば、その友達とやらが、「シャルロッテさんがパンを買ってきてほしい、って言っていたよ」とフィアに告げていたとしたら?

 フィアは、シャルロッテに頼まれた、と思うだろう。

 そして、その友達はどこかでパンを受け取り、自分が買ってきたかのように、シャルロッテのところへ持っていく。


 ……こう考えると、辻褄は合うんだよな。


「とまあ、俺の推理はこんなところなんだけど、なにか心当たりはないか?」

「……あるわね」


 考えていることを伝えて、尋ねてみると、シャルロッテは苦い顔をした。


「一人、ものすごく心当たりのある子がいるわ。フニンって子。たぶん、レンが言う通りのことをしているんだと思う」

「確証が?」

「だって、まさにレンが言った通りのことをしているんだもの。いつもあの子がパンを持ってきているし、昼休みになると、フィアとこそこそ話をしているし……フニン以外に考えられない」


 ふむ。

 どうやら、真犯人は他にいるみたいだ。

 でも、動機がわからないな。


「なんで、そんなことをしているんだろうな?」

「……ごめん。たぶん、あたしのせいよ」

「シャルロッテの? どういうことなんだ、それ?」

「あたしの家って、それなりに有名なところなのよ」

「貴族?」

「そういうこと。で……あたしと一緒にいると、色々とおいしい思いができる、っていう子がたまに出てくるのよね。そのために、フィアを利用して、都合よく使っていると思うのよね……フニンも、たぶんそういうタイプ」

「ちなみに、シャルロッテはフィアのことをどう思っているんだ?」

「大切な友達よ」


 きっぱりと言い切った。


「あの子は、ああいう性格だから……あと、ウチに仕えている家ということもあって、頷いてくれないと思うけど……あたしは、フィアのことは友達だと思っているわ」

「そのわりに、普段、あまり一緒にいないよな?」

「だって、あたしが話しかけると、あの子、ものすごく緊張するんだもん。あんな風にあたふたされたら、申し訳なくなっちゃうわ」


 わからないでもなかった。

 フィアって、小動物みたいだからなあ……

 肉食動物みたいなシャルロッテと一緒にいる、っていうのはなかなか難しいかもしれない。


「もっとしっかりしてほしい、っていう気持ちがあって、ちょっと厳しく接することもあるんだけど……あたしは、大切な友達だと思っているわ」

「友達だからこそ厳しく、か……なるほどな。理解したよ」

「それにしても……ふっ、ふふふ」


 シャルロッテが凄絶な表情になった。


「あたしの知らないところで、ずいぶんと好き勝手やってくれて……!」

「おおう」


 ものすごく怒っているな……

 まあ、それも仕方ないか。

 フィアを体よく使って、自分に近づいてきて……そんなことをされて、良い気分になるわけがない。


「情報提供ありがと、感謝するわ」

「まてまて!」


 シャルロッテが教室を出ていこうとして、慌てて引き止める。


「なによ?」

「どうするつもりだ?」

「もちろん、あの子を問い詰めて、自分がしたことを後悔させてあげるのよ」

「やっぱり……」

「邪魔するつもり?」

「邪魔というか、そんなことをしたら事態を悪化させる可能性がある」

「どういうこと?」


 シャルロッテが口を出すと、真犯人は逆上してフィアに危害を加えるかもしれない。

 あんたのせいだ、余計なことを言っただろう? ……というような感じで。

 完全な逆恨みなのだけど、いじめをするようなヤツは、そんなことは気にしないものだ。


「それじゃあ、どうしろっていうのよ? 放っておけ、っていうわけ?」

「そんなこと言わないさ。ただ、闇雲に真犯人を追求しても、問題が解決しないかもしれない、って可能性があるわけで……だから、全てがうまくいくような解決方法を探ろう。俺も一緒に考えるから」

「どうして、そこまでしてくれるわけ?」

「俺も、フィアのことは友達だと思っているし……シャルロッテも困っているからな」

「……じゃあ、あたしのためでもあるわけ?」


 意外という感じで、シャルロッテが目を丸くした。


「そうなんだ、ふーん……」

「どうしたんだ?」

「なんでもないわ。それよりも、今後のことについて、早く話し合いましょう。ほら、行くわよ!」

「お、おいっ!?」

「~♪」


 なぜかごきげんなシャルロッテに手を引かれて、俺は学院を後にした。

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