表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/138

52話 シャルロッテの過去

 シャルロッテの表情からは、男に対する嫌悪が見えた。


 アラムのように、魔法を使えない男を理由もなく見下しているわけではなくて……

 シャルロッテの場合は、きちんとした理由があるように思えた。


「よかったら話してくれないか?」

「なんで、話さないといけないの?」

「シャルロッテに興味があるんだ」


 これはウソじゃない。


「……まあ、別にいいわよ。調べようと思ったら、簡単にわかることだし」

「そっか。ありがと」

「あと、あたしのことは名前で呼ばないで。そんなこと、許可してないわ」


 ちょっと歩み寄ることができたと思ったら、すぐに睨みつけられてしまった。

 やれやれだ。


「あたしは貴族なんだけど、知ってる? ブリューナク家っていうところなんだけど」

「聞いたことはあるよ」


 俺も貴族なので、横からそういう情報は入ってくる。


「ブリューナク家は、今時、珍しく男が当主なのよ」

「へえ、それは確かに珍しいな」


 ウチは母さんが当主だ。


「跡継ぎが男しか産まれなくて……それで、父さまが当主になったらしいわ。でも、父さまは最低の人よ」

「けっこう言うな」

「事実だもの。権力を盾に、色々とやりたい放題。幸いというべきか、大きな事件はまだ起こしていないけど、小さな事件はしょっちゅう起こしているわ。で、それを権力で握りつぶしている」

「おぉ……」


 こう言ったらなんだけど、典型的な小悪党みたいだ。


「父さまは男だってことを理由に、色々とあったみたいで……そのせいで歪んだ性格になったみたいだけど、だからといって、好き勝手していい理由にはならないわ。母さまは気が弱い人で、父さまにひどい目にあわされてきた。あたしが小さい頃から、ずっとずっとひどい目に……」


 シャルロッテが、怒りの表情を浮かべた。

 それと同時に、拳をぎゅうっと握る。

 胸の内の激情が溢れ出そうとしているのかもしれない。


「父さまだけじゃなくて、その周りの男もくだらない連中ばかりよ。甘い汁を吸うためにすがりよってきて、父さまにへりくだり……好き放題してくれたわ」

「一つ疑問なんだけど……そういうのって、周囲が正してくれないのか? あるいは、さらに上の偉い人とか?」

「もちろん、正してくれるわ。女性の方が力を持っているからね。でも、父さまはずる賢い人だった。表向きは何事もないようにふるまい、女性に媚を売り、母さまを上に立たせるように見せて……でも、裏で好き勝手していて……そんなだから、上はなかなか動くことができなかったのよ」

「なるほど」


 シャルロッテの父親は、魔法という力を持たないが、権力と悪知恵という力は持っていたみたいだ。

 うまく立ち回り、女尊男卑の世の中でずる賢く生き抜いてきたのだろう。


「まあ、それもあたしが10歳の時に終わりを迎えたわ。長年、好き勝手やっていた父さまは、自分はあたしたち女性よりも偉い、って勘違いしたのね。次第に増長していって、周囲の人々にケンカを売るようなことをして……そのまま反撃をくらい、叩き潰されたわ。で、今までのことが明らかになって、家を追放されたわ」

「壮絶だな……」

「あたしはスッキリしたけどね」


 追加で聞いたところ……


 全てを失ったシャルロッテの父親は、街を追われて、姿を消したらしい。

 今は、どこにいるかわからない。消息不明だ。


「男なんて、くだらないわ」


 シャルロッテは不快感を表に出して言う。


「魔法が使えないと、自分には力がないからと卑屈になり、必死になって媚を売る……かと思えば、権力などの力を手に入れたら、増長して好き勝手にふるまう。男なんて、みんな勝手よ」


 シャルロッテの気持ちはわからないでもない。

 産みの親がそんなヤツだとしたら、ここまでひねくれてしまうのも納得だ。


 でも、男の全てをくだらないと判断してしまうのは、どうかと思う。

 父さんみたいに、しっかりとした人もいるのだから。


 なによりも、俺たちはまだ子供だ。

 自分の目で見たものが正しいと限らないし、後で価値観が覆されることもある。

 絶対にこうだ、と決めつけてしまうことは、ちょっと寂しいことのような気がした。


「あたしが男を見下しているのは、魔法が使えないからじゃないわ。サイテーの生き物だから、見下しているの」

「シャル……ブリューナクの言い分はわかったが、それでも、そうと決めつけるには早いんじゃないか? 父親の件も、一部の話に過ぎないだろうし……」

「そんなことわかっているわよ。でも……しょうがないじゃない」


 シャルロッテは、寂しそうに悔しそうに、顔を歪める。


「そういう風に思うようになったんだもの。一度こうと認識した価値観は、そうそう簡単に塗り替えることはできないわ」

「……それもそうだな」

「それに、この人はすごい、っていう男に会ったことがないし……考えを改めようとしても、そうするだけのきっかけがないの。だから、無理よ」

「なら、俺がそう思わせてみるよ」


 気がつけば、自然とそんなことを口にしていた。


「え?」

「俺のことをすごい、って思わせてみせる」

「あんたが?」

「ああ、俺が」


 第一印象は、わがままな女王さま。

 その次は、アラムのような困ったちゃんで、扱いに困る女の子。


 でも、こうして話してみると、そういった印象は消えていた。

 ちょっとプライドが高いだけで、普通の女の子に思えた。


 だから。


 もう少しだけ、踏み込んでみようと……

 そう思ったのだ。


「……」


 シャルロッテがじーっと見つめてきた。

 顔が近い。

 吐息が触れてしまいそうだ。


 そんな至近距離で……


「ぷっ」


 シャルロッテが笑う。


「あははっ。あたしの話を聞いて、まさか、そんなことを言えるなんて……あんた、変わっているわね」

「そうか?」

「変わっているわよ。ものすごく。少なくとも、今まで生きてきた中で、あんたみたいな男に出会ったことはないわ」

「褒められてる……のかな?」

「自分をすごいと思わせてみせる、か……ふふっ、楽しみにしてるわよ」


 シャルロッテが、とんっと俺の胸を軽く叩いた。

 それから、にっこりと笑う。


 その笑顔は、素直にかわいいと思った。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆ お知らせ ◆

ビーストテイマーのスピンオフを書いてみました。
【勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強の少女達ともふもふライフを送る】
こちらも読んでもらえたらうれしいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ