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50話 目覚めた朝は……

 翌朝。

 窓から差し込む太陽の光で、俺は目を覚ました。


 寝ぼけ眼を擦りながら体を起こそうとして……


「……ふぁ……」


 ぐいっと引っ張られるような感覚がした。

 見ると、いつの間にかベッドに潜り込んでいたエリゼが、俺の片手にしがみついていた。

 そんな状態で、器用にすぅすぅと寝ている。


「いつの間に……」


 俺、完全に熟睡していたぞ。

 寝ていても、なにかしらあればすぐに目覚めるように訓練をしていたんだけど……


 エリゼのベッド潜り込み術は、俺の気配探知を上回るというのか?

 エリゼ……おそろしい子!


「エリゼ、起きろ。朝だぞ、おーい」


 ボケるのはほどほどにしておいて、そろそろエリゼを起こすことにした。

 もう少し、寝かせておいてあげたいという思いはあるが……

 そんなことをして遅刻したら意味がない。


 エリゼの肩を軽く揺する。


「んぅ……もう少し……」

「朝だぞ。起きないと遅刻するぞー」

「あとちょっとだけ……」

「ダメだ。早く起きろ」

「うぅ……んんんっ」


 エリゼが逃げるように体を捻り、俺の手を振り払う。


「ぐわ!?」


 瞬間、馬車にでも跳ね飛ばされたような衝撃に襲われて、飛ばされてしまう。

 ベッドから落ちて、床に頭をぶつけてしまう。


「いてぇ……そういえば、エリゼって、エリクサーの影響で馬鹿力になっていたんだっけ……」


 朝起こすのも命がけということか?


「……ま、まあ、大丈夫だろう。たぶん。うん」


 今日はたまたまだ。

 初めての寮生活に、なかなか寝ることができなくて……

 それで、起きることができないだけだろう。

 普段は、エリゼは寝起きはいいからな。

 今回だけだろう。


 ……そう思いたい。


「ふぁ……んっ、おはよう。って、レンはなにをしているの?」


 二段ベッドの上で寝ているアリーシャが目を覚まして、床で寝ている俺を怪訝そうに見つめてきた。


「えっと……なにも。まあ、気にしないでくれ」

「そう? まあ、いいんだけど……」


 妹にベッドを奪われた、なんてこと、情けなくて言えるわけがなかった。




――――――――――




「「「「いただきます」」」」


 食堂に移動して、みんなでごはんを食べる。


 学院のように好きなものを選べるわけではなくて、寮の食堂はメニューが一つに固定されているみたいだ。

 今朝の献立は、ごはんと味噌汁と焼き魚。

 それと、海苔と卵焼きと納豆。

 東の国風の朝食だった。


「うー……お兄ちゃん、納豆食べてくれませんか?」


 エリゼが納豆が入った器を差し出してきた。

 ねばねばが苦手らしく、エリゼは納豆が嫌いなんだよな。


 もったいない。

 納豆はおいしいだけじゃなくて、とても栄養があるのに。


「仕方ないなあ……じゃあ、俺の器に」

「はい、ありがとうございます」

「でも、大丈夫か? 納豆がなくなると、おかずが足りなくないか?」

「大丈夫です! というか、納豆があること事態が問題なんです。納豆は悪魔の食べ物なんですよ?」


 真顔でそんなことを言われてしまう。

 となると、あれか?

 そんな納豆を好む俺は、悪魔ということになるのか?


「レンって、エリゼにはとことん甘いわよね」


 アリーシャが納豆をぐるぐるとかき混ぜながら、呆れたようにそう言った。


「ん? そんなことないだろ。普通だぞ、普通」

「じ、自覚がないみたいですね……」


 フィアまでそんなことを言っていた。


 甘いかな?

 これくらい、兄として普通だと思うんだけど……


「やれやれね」


 そう言うと、アリーシャがさらに呆れたような顔をした。

 続いて、なぜか拗ねたような表情を浮かべる。


「……ちょっとでいいから、その優しさをあたしにも分けてほしいんだけど」


 俺、アリーシャに厳しくしていただろうか?

 だとしたら反省だ。


 ……とまあ。

 そんな感じで、あれこれと話ながら朝食を食べていると、


「ふふっ」


 思わずといった様子で、フィアが小さな笑みを見せた。


「フィア? どうしたんだ?」

「あっ!? い、いえっ、その……す、すみません。みなさんのことを笑ったわけじゃなくて、つい……」

「そんな風に思っていないよ。でも、なんで笑ったのかは気になるかな」

「えっと、その……いいなあ、と思って」


 どういう意味なのだろう?


「レン君もエリゼさんもアリーシャさんも、みんな仲が良くて……なんていうか、こう……見ていると温かい気持ちになることができて」

「だから、いいなあ……っていうこと?」

「そ、そうです」


 なるほど。

 フィアの言いたいことは理解した。

 ただ、この子はちょっと勘違いをしているな。


「どうして、他人事みたいに言うんだ?」

「え?」

「フィアだって、同じ部屋で暮らす仲間なんだから。仲が良いのはフィアも一緒だよ」

「そ、そそそっ、そんな!? わたしなんて……」

「はい、ストップ」

「むぐ」


 フィアの口先に人差し指を添えて、それ以上の言葉を許さない。


「エリゼはどう思う?」

「フィアさんは、大事なお友達ですよ」


 エリゼは迷うことなく、にっこりと言った。


「昨日出会ったばかりですけど、でもでも、時間なんて関係ないんです。私が大事なお友達と思っているから、大事なお友達なんです。つまり、フィアさんは大事な……あれ?」


 エリゼが小首を傾げた。

 大事を連呼しすぎて、混乱してきたらしい。


「アリーシャは?」

「そうね……あたしはエリゼみたいに、簡単にそんなことは言えないんだけど……でも、フィアとは仲良くなれそうな気がするわ」

「エリゼさん……アリーシャさん……」


 二人の言葉に感激した様子で、フィアは声を震わせた。


「俺も、エリゼとアリーシャと同じ気持ちだから」

「レン君……」

「というわけだから、フィアは変な遠慮なんてしないでくれよ」

「そ、そういわれても……む、難しいです……」


 たぶん……この子はずっと、周りに遠慮してきたんだろうな。

 自分の気持ちを押し殺して、周囲を優先させて……

 だから、こんな風に、ある意味で不器用な性格になってしまった。


 カウンセリングっていうほど大げさなものじゃないけど……

 俺達で、フィアの心を解きほぐすことができるように、がんばりたい。

 そんなことを思う。


「まあ、今すぐにどうこう、ってことは言わないさ。考え方とかを、ゆっくりと変えていけばいいと思う。それで、そのうち、フィアも俺達と同じ気持ちを抱いてくれたら……って思うよ」

「……わたしに、そんなことができるんでしょうか?」

「できると思うぞ」

「ど、どうして言い切れるんですか?」

「勘?」

「勘、って……」

「ふふっ。お兄ちゃんの勘はよく当たるんですよ」

「こうなったら、レンは止まらないから……犬に噛まれたと思って諦めなさい」


 エリゼとアリーシャが、フォローにならないフォローを入れた。


 ただ、俺の……いや。

 俺達の気持ちは伝わったらしく、


「えと、えと……が、がんばりますっ」


 フィアはぎこちないながらも、笑みを浮かべるのだった。

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