49話 仲良くやろうねの会
ひとまず、リビングダイニングに設置されているソファーに座り、顔合わせをすることになった。
といっても、フィア以外は顔見知りなのだけど。
「えへへ……お兄ちゃんと一緒でよかったです。クラスは別々になっちゃいましたけど、でもでも、寮では一緒にいられますね!」
俺と同じ部屋ということがわかり、エリゼはニコニコ笑顔だ。
さらに、猫が甘えるような感じで体を寄せてきている。
こんな調子で、エリゼは将来、独り立ちできるのかなあ……?
ちゃんと嫁に行けるのだろうか?
……いや、でも、エリゼが嫁に行くなんてあまり考えたくない。
どこぞの馬の骨ともしらないヤツにエリゼは任せられない。
まずは、しっかりと半日かけて面談。
それから、一年ほど付き合い、その人柄を確かめて……
「レン、なにか変なこと考えてない?」
アリーシャにつっこみを入れられて、我に返った。
「ああ……いや、なんでもないさ」
「そうかしら」
絶対に変なことを考えていたでしょう、という感じで、アリーシャがジト目を向けてきた。
鋭い。
「それにしても、まさかレンと一緒になるなんて……」
「イヤなのか?」
「そ、そんなこと言ってないじゃない。ただ、なんていうか、その……い、色々と思うところがあるのよ! ばかっ」
なぜか怒られた。
理不尽だ。
「でも、俺はアリーシャが一緒でうれしいよ」
「そ、そうなの……?」
「知らない相手より、気心知れた相手の方が安心できるだろ?」
「そ、その言い方だと、あたしがその……レンの……」
「うん?」
「な、なんでもないわっ」
一人、赤くなるアリーシャ。
さきほどから、ちょっと様子がおかしい。
初めての寮生活ということで、緊張しているのだろうか?
「まあ……あたしも、レンが一緒だと……うれし……じゃなくて、安心できるわ。変に気を使わなくてすむし」
「これからよろしくな」
「ええ、よろしく」
挨拶を交わして……
「……」
ふと、フィアがぽかんとしているのが見えた。
「どうしたんだ?」
「えと、その……みなさん、し、知り合いなんですか……?」
「って、悪い。勝手に盛り上がって」
「い、いえいえいえっ。そんな、決して文句を言っているわけでは……!」
フィアは、あたふたと手を横に振る。
この子は、もうちょっとわがままになってもいいと思うんだよな。
謙虚になりすぎるというか……自分に自信が足りない気がする。
「紹介するよ。こっちは、エリゼ。俺の妹だ」
「よろしくおねがいします」
「それで、こっちは、アリーシャ・フォルツ。試験で知り合った、友達だよ」
「よろしくね」
「は、はひっ……こ、こちらこそ……よ、よよよ、よろしくおねがいしますっ! ふぃ、フィア・レーナルト……でっす!」
フィアは緊張した様子で、何度も何度も頭を下げる。
ただ挨拶をしているだけなのに、すでにいっぱいいっぱいだ。
こんな調子で、うまくやっていけるのだろうか?
余計なおせわかもしれないが、心配になった。
「そんなに緊張する必要ないぞ? これから同じ部屋で暮らすんだから、変に肩肘張ると疲れるだけだし……それに、フィアなら二人と仲良くやれるさ」
「そっ、そそそ、そうでしょうか!?」
ダメだ。
なんとか緊張を解きほぐそうとしてみたものの、フィアの様子は変わらない。
というか、時間が経過するごとに、どんどん緊張が積み重なっているみたいだ。
最初は顔を強張らせていただけなのだけど……
今は蒼白になり、ガチガチと震えている。
きっと、あれこれと悪いことを考えてしまい、自分で自分を追い込んでしまったのだろう。
そういうことは自信のない子にはありがちなことなので、よくわかる。
「あの……レーナルトさん」
「は、はひっ!?」
「ちょっと図々しいお願いかもしれませんけど……フィアさん、って名前で呼んでもいいですか?」
さすがエリゼ。
アリーシャの時のように、ほぼ初対面にもかかわらず、ぐいぐいと踏み込んでいく。
それでいて、相手に威圧感を与えることはない。
こういうところは真似できない。
エリゼだけの特技というか……
エリゼの人柄がなしていることなんだと思う。
「は、はい……大丈夫、ですよ……?」
「よかったです。じゃあ、これからはフィアさん、って呼びますね? えへへ」
「はぅ……か、かわいい……」
どうやら、エリゼのかわいらしさは男女共通らしい。
フィアが、子猫を見つけたような顔をしていた。
「あたしのことも名前で呼んでちょうだい」
「え、えと……アリーシャ、さん……?」
「ん。よろしくね、フィア」
「は、はい……よろしく、おねがいします……」
アリーシャも、なかなかにコミュ力が高い。
俺達と出会う前は、やさぐれていたところがあったのだけど……
でも、今は角が取れて、それなりに丸くなっている。
元は、こんな性格をしていたのだろう。
「ところで、他のルームメイトはまだなのか? 遅くないか?」
あれこれと話をしているうちに30分ほどが経ったのだけど、新しいメンバーが現れることはない。
「あっ、そのことなんですけど……私達、四人だけみたいですよ」
思い出したようにエリゼが言う。
「えっ、そうなのか?」
「はい。なんでも、人数が合わないとか……私達の部屋だけじゃなくて、他もちらほらと空きが出ているみたいです」
なるほど。
考えてみれば、すべての部屋がいっぱいになるわけじゃないか。
そんなに都合よく生徒が満たされるわけじゃないだろうし……
いっぱいにしたら、新しい生徒がやってきたときはどうするんだ? という問題が残る。
なので、ある程度余裕を持たせるために、いくらか空きを作っているのだろう。
「ということは、しばらくはこの四人で過ごすわけか」
全員、見知った顔だ。
変に気を使うことはないだろうから、色々と楽できるかもしれない。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
くいくい、とエリゼが俺の服を引っ張る。
「仲良くやりましょうねの会をしませんか?」
「うん? 仲良く……?」
「なに、その頭の悪い名前は?」
俺とアリーシャが揃って眉をひそめた。
フィアはきょとんとしている。
「これから同じ部屋で暮らすじゃないですか? だから、仲良くやっていきましょうね、っていう会をしたいんです」
「親睦会みたいなものか」
「そう、それです」
「それはいいと思うが、なにもないぞ? 飲み物は水くらいで……食堂は、確か朝と夜だけだよな? なら、まだ開いていないと思うぞ」
「大丈夫です。こういう時のために、お菓子とジュースを持ってきましたから」
エリゼが引っ越し荷物の中から、お菓子とジュースを取り出した。
わざわざ、そんなものを持ってきていたのか……
そんなものよりも、他に持ってくるべきものがあると思うぞ。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。私、気が利きますよね?」
エリゼがキラキラとした視線を向けていた。
なんていうか……
褒めてほしい、というような顔をしたわんこに似ている。
「……ああ、そうだな。エリゼのおかげで助かったよ」
「えへへ」
頭を撫でてやると、エリゼはうれしそうな笑みを見せた。
「はい。みなさん、どうぞ」
エリゼが紙コップに……これも持ってきたらしい……ジュースを注いで、みんなに配る。
それから、テーブルの上にお菓子を散らした。
「お兄ちゃん。なにか一言、お願いします」
「え、俺が?」
「いいじゃない。あたし、そういう柄じゃないし」
「わ、わたしも無理ですぅ……」
「えっと……」
いきなり言われても困るのだけど……
まあ、適当でいいか。
「じゃあ……なにかの運命なのか、こうして同じ部屋に集まった仲間だ。これから仲良くやっていこう。かんぱい!」
「「「かんぱいっ」」」
……こうして、俺達四人の寮生活はスタートした。
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