48話 ルームメイト
すべての授業が終わり、放課後になった。
全寮制なので、帰宅ということにはならない。
ローラ先生の案内で寮へ向かう。
寮は、学院の敷地の奥にある。
入ってすぐのところに校舎。
その左手に訓練場などのグラウンド。
右手は、教員室や特別教室が並ぶ棟。
そして、それらの建物の裏手……山の麓に寮が建てられていた。
校舎まで、歩いて五分。
遅刻することのない距離で、朝に弱い人も安心だ。
「はい。みなさん注目。ここが、今日からみなさんの家になる寮ですよ」
校舎の外観は、ちょっとした城と思えるくらいに大きく、綺麗なものなのだけど……
対して、寮は古めかしい外観をしていた。
石造りの三階建て。
横に長く、山の麓に沿うようにして建てられている。
見栄えをよくしようとしているのか、周りに観葉植物などが植えられていている。
ただ、年季をごまかすことはできず……
細かいところにヒビが入っていたり、屋根の一部が剥げていたり、わりとボロい。
エレニウム魔法学院の歴史は長いと聞くが……
もしかしたら、寮は一度も建て替えられていないのかもしれない。
「え、えっと……見た目はこんなですが、快適に過ごすことができますよ? 色々な魔法具が揃っていますからね。夏は涼しく、冬は温かいですし……あと、ちゃんとお風呂もありますし、食堂は広いですし……各部屋にキッチンも設置されていますし……と、とにかく、なにも問題はないので心配しないでください!」
俺達が微妙な顔をしているのを見て、ローラ先生は慌ててそう言った。
必死にごかましている感じがして、ますます微妙な印象を受けてしまう。
「それじゃあ、今から部屋割りを発表しますね。一部屋六人となっています」
「えっ、六人も?」
誰かが驚いて、その声にローラ先生が反応する。
「はい。一部屋、六人になりますよ。大丈夫です。一部屋一部屋がかなり大きいので、六人でも余ってしまうくらいですから」
「はいはーい。質問! レン君は、どの部屋になるんですか?」
別のクラスメイトがそんな質問をした。
うん、いい質問をしたね。
俺もそこは気になっていた。
なにせ、学院で唯一の男だ。
常識的に考えるなら、一人、別の部屋にして隔離するべきなんだろうけど……
「レン君は、二階の奥の部屋ですね。他のクラスの子と一緒になってもらいます」
あれ?
俺、隔離されないの?
「レン君、一人じゃないんですか?」
「男ということで、特別扱いはしませんからね。第一、あなた達は意識しすぎですよ。レン君は男の子ですが、まだ12歳なんですからね」
そう言われると、そのとおりかもしれない……なんてことを思う。
「はいはーいっ、じゃあ、私がレン君のルームメイトに立候補します!」
「あっ、ずるい。抜け駆け禁止って決めたじゃんっ」
「そういうことなら、あたしもあたしも! レン君、お姉さんと一緒に暮らそ?」
クラスメイトが我先にと手を挙げて、俺の所有権について揉め始めた。
珍獣からクラスメイトにランクアップして……
さらに、愛玩動物にランクアップしたみたいだ。
……あまりうれしくない。
「はい、みなさん。落ち着いてください。部屋割りはすでに決まっているので、レン君と同じ部屋になることを希望しても無駄ですよ」
「なーんだ、残念……」
「レン君。今度、部屋に遊びに行ってもいい?」
「というか、私の部屋に遊びにこない?」
「あっ、また抜け駆けしてるし!」
女子が3人集まるとかしましいというが……
30も女の子がいるから、かなり大変だ。
「生徒同士の交流は問題ありませんが、勉学もしっかりとしてくださいね」
ローラ先生に釘を刺されてしまい、クラスメイトたちがおとなしくなる。
「では、部屋割りを発表していきますね。さきほど言ったように、レン君は二階の奥の部屋になります。はい、これが鍵です」
「どうも」
ローラ先生から鍵を受け取る。
「あと……フィアさん」
「は、はい」
「フィアさんも、レン君と一緒の部屋になります。はい、鍵をどうぞ」
「……ふぇ?」
鍵を渡されたフィアは、きょとんとするのだった。
――――――――――
寮は三つの部屋に分かれていた。
まずは、リビングダイニングルーム。
かなり広い。
ちょっとしたスポーツ競技ができるんじゃないか? と思うくらい広い。
ソファーとテーブルがあらかじめ設置されていて、ここでくつろぐことができそうだ。
奥にキッチンが見えた。
こちらはさほど広くない。
二人立つといっぱいになってしまう。
ただ、設備は整っているらしく、魔法具を応用したコンロや冷蔵庫が見えた。
奥にあるのは寝室だ。
二段ベッドが三つ、設置されている。
それと、備え付けの机が六つ。
空いたスペースには収納などが。
寝室兼、勉強部屋というところか。
そして、小部屋が一つ。
こちらには何も置かれていない。
好きに使ってくれ、ということなのだろう。
それから、部屋を入ってすぐのところに、トイレとシャワールーム。
さすがに風呂はないが、これだけでも十分だろう。
ここまで設備が整った家は、なかなか見ることができない。
見た目はボロいから心配していたのだけど……
ローラ先生が言っていたように、ここなら快適に過ごすことができそうだ。
……そうやって、一通り部屋を見て。
それから、ルームメイトを見る。
「……」
フィアはあわあわとした様子で、自分の荷物が入った大きなカバンを手に、入り口の辺りでうろたえていた。
もしかしたら、シャルロッテと一緒の部屋になると思っていたのかもしれない。
彼女の家に仕える者、って言っていたからな。
でも、学院はそんな事情は知らないとばかりに、シャルロッテとは別室にして、俺と一緒の部屋にした。
これから学院で過ごす間、一緒に暮らすのは、今日出会ったばかりのクラスメイト。
さらに、そいつは男ときたものだ。
……そりゃ、戸惑うよなあ。
でも……せっかくルームメイトになったのだから、できるなら仲良くしたいよな。
長い付き合いになるわけだし……
よし!
こういう時は、俺がリードして、彼女の緊張を解きほぐさないと。
「フィアの荷物はそれだけなのか?」
「えっ!? あっ、は、はい……これだけ、です……」
大きめのカバンが一つ。
俺も似たようなものだけど……
俺は男なので、大して必要なものはないんだよな。
「重くない? なんなら、部屋まで運ぼうか?」
「い、いえいえっ! だ、大丈夫です……これくらい、なんてこと……ふぎゃっ!?」
カバンを運ぼうとして、つまづいて、コケた。
そんなフィアの上にカバンが倒れて、押しつぶされる。
「うっ、うううぅ……苦しい、です……」
「大丈夫か?」
カバンをひょいとどかしてやる。
いったい、何が入っているのか?
見た目通り、なかなか重い。
「なにが入っているんだ、コレ? かなり重いじゃないか」
「えっと……身の回りの品や着替えや……い、色々とありまして……」
女の子となると、色々と必要なものがあるんだろう。
大変だなあ。
「とりあえず、寝室に運んでおくよ」
「あっ、いえ、そんな……」
「遠慮しないでいいから。これだけ重いと大変だろ?」
「……は、はい。その……実は、ちょっと無理をしていました……」
「じゃあ、俺に任せてくれ」
「……あ、ありがとうございます」
フィアのカバンを寝室に運んだ。
まだ他のルームメイトが来ていないので、とりあえず、適当な机の横に置いた。
後で自分の机やベッドを決めることになるのだろう。
「しかし、偶然もここまでくるとすごいよな」
「え? な、なんのことですか……?」
「だって、学院では席は隣同士だろ? それで、寮では部屋が一緒……こういうの、なかなかないんじゃないか?」
「そ、そうですね……そう言われると、そんな気がしてきました……」
「これからよろしく」
手を差し出すと、フィアは迷うように視線を揺らして……
「は、はいっ……よ、よよよ、よろしく……お願いしますっ!」
なんだかんだで、きちんと握手に応えてくれた。
やっぱり、この子はいい子だ。
と、その時。
「わぁっ、今日からここで暮らすんですね」
「へえ……中は思っていたよりも広いわね」
玄関の方から聞き覚えのある声がした。
見に行くと……
「エリゼとアリーシャ?」
三人目、四人目のルームメイトは、知っている顔だった。
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