44話 人気者
昼休みが終わり、午後の授業が始まる。
ちなみに、一日の授業は六回に分けて行われる。
一限目、二限目、三限目……というふうに分かれている。
四限目の後に昼休みが挟まれて、後に、五限目と六限目が行われる。
五限目は、一般教養だ。
魔法使いを育成する学校だからといって、魔法のみを学ぶわけではない。
そんなことをしたら、常識をまるで知らない、力だけが強い無能の魔法使いが生まれてしまう。
なので、一般教養を始め、礼儀作法などもカリキュラムに組み込まれている。
この制度に不満を持つ生徒は、多少はいるらしい。
自分は魔法を学びに来たのだ、一般教養を学ぶのならば普通の学院に行く……と。
でも、俺は不満なんて覚えなかった。
むしろ、大歓迎だった。
一気に500年後に転生して……さらに、女性しか魔法を使えない世界になっていたものだから、色々と常識が変わってしまっている。
独自に学習をしたものの、それでも、追いつかないことが多い。
知らないことはたくさんだ。
なので、一般教養の授業はありがたかった。
そして、五限目の一般教養の授業が終わり……
六限目。
魔法の実践授業へ移る。
「ここが、第二訓練場ですよ」
ローラ先生の案内で、俺達ガナスの一同は、第二訓練場へと移動した。
学院に設置されている訓練場は、全部で三つだ。
第一が、午前中にシャルロッテと戦ったところで……
他に、二つの訓練場があるという。
一般教養もカリキュラムに組み込まれているものの……
ここは魔法学院なので、やはり、メインの授業は魔法だ。
そして、魔法は実践を繰り返すことで成長していくもので、そのための訓練場は必要不可欠。
なので、他のクラスとバッティングしても問題ないように、三つの訓練場が設けられているらしい。
第二訓練場は屋外に設置されていた。
いうなれば、スポーツの競技場……というところだろうか?
第一訓練場……俺とシャルロッテが戦ったのが第一訓練場だ……よりも広いスペースが確保されている。
スポーツの競技場で見かけるような、広大なグラウンド。
それが4つ、併設されている。
複数のクラスが同時に利用できることを目的にされたらしい。
第一訓練場とは違い、観客席はない。
代わりに、日差しよけの屋根やベンチなど、簡単な休憩所が設置されていた。
「見た目だけなら、ホント、スポーツの競技場だなあ」
「はいそこ、レン君。ちゃんと先生の話を聞いてくださいね」
「すいません」
怒られてしまった。
「とはいえ、レン君の感想も、あながち的外れというわけではありません。ここでスポーツを行うこともあります。魔法使いとはいえ、体力が必要になる時はありますからね」
何人かのクラスメイトが、えー、という声をあげた。
きっと、運動が得意じゃないのだろう。
「他にも、スポーツに似た内容の授業を行うことがあります。ちょうど、今回の授業がそれになりますね」
魔法の授業なのに、スポーツに似ている?
いったい、どういうことだろう?
クラスメイト達も俺と同じことを思ったらしく、皆、不思議そうな顔をしていた。
そんな俺達の疑問に答えるように、ローラ先生は、近くのカゴからボールのようなものを取り出した。
「これは、今日の授業で使う『マジックコープ』というアイテムです」
「ボールだ……」
「ボールだよね……?」
「ボールよ……」
クラスメイト達が口々に言う。
そのとおりで、ローラ先生が取り出したものは、どこからどうみても普通のボールだった。
そんな俺達の反応に苦笑しながら、ローラ先生は説明を続ける。
「見た目は普通のボールですが、こうして魔力を流すと……」
ボールが発光して、ふわりと浮き上がる。
「このとおりです」
「「「おおおーーーっ!」」」
まさか、そんな仕掛けがあるなんて。
みんなと同じように、俺も驚きの声をあげてしまう。
ボールは淡い光を放ちながら、ローラ先生の手の平の上で、ふわふわと浮いていた。
いったい、どういう仕組なんだろうか?
気になる……解体してみたい。
「これは、魔力コントロールの訓練になります。ボールは、適正な魔力を受けると、この通りふわふわと浮きますが……んっ」
ローラ先生の手に魔力の粒子が集まる。
今まで以上に、強い魔力を込めているみたいだ。
すると、ボールがさらに輝いた。
まぶしいくらいで、目を細めてしまう。
そして……ポンッ! とボールが明後日の方向に飛んでいってしまう。
「魔力のコントロールに失敗すると、見ての通り、ボールはうまく浮かぶこと無く、どこかに飛んでいってしまいます」
「なるほど」
「適切な魔力を適切な方法で流し続ける……できる限り、ずっと。これを繰り返すことで、魔力のコントロール能力が大幅に上昇するでしょう」
前世には、こんなものはなかった。
おもしろそうな訓練だ。
実際に、どれだけ能力が上昇するのかわからないが……
初めての訓練に、俺はわくわくしていた。
「マジックコープの数には限りがあるので、三人一組になって、順番に練習をしてください」
三人組を作る必要があるのか。
さて、どうしたものか?
とりあえず、適当に声をかけて……
「レン君、私と一緒に組まない?」
「あっ、ずるい! 私が先に誘おうとしてたのに」
「へへーん、早いものがちだもんね」
「ねえねえ、あっちの二人よりも私と組もうよ」
「いやいや、ここは私の方がいいよ? 今ならお買い得!」
「なんのセールなの? ほら、こんな人達は放っておいて、私と組もう?」
「えっと……?」
なぜか、クラスメイト達がこちらに殺到してきた。
あちらこちらから誘われる。
なんで?
「ふふっ、レン君は人気者ですね」
ローラ先生が他人事のように言う。
いや、まあ、実際に他人事なんだろうけどさ。
「レン君は、一限目の授業で魔法を使えるということを示して、さらに、とんでもない力を持っていることも証明しましたからね。みんな、レン君に興味津々なんですよ。女の子しかいない環境だと、なおさら、唯一の男の子であるレン君は目立つでしょうし」
そんなことを笑顔で言われても……
ローラ先生、もしかして、この状況を楽しんでないか?
「「「さあ、レン君!」」」
「えっと……」
モテ期到来なのだろうか?
それとも、未だに珍獣扱いなのだろうか?
よくわからないものの……とりあえず、適当に三人組を作るのだった。
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