42話 気になるあの子
午前の授業が終わり……
昼休みが訪れた。
「レン君」
クラスメイトに声をかけられた。
「お昼、一緒に食べない?」
「あ、こやつ、また抜け駆けしてるー」
「ねぇねぇ、それよりも私達と一緒に食べない? きっと楽しいよ」
なぜか、クラスメイト達からあれやこれやと昼に誘われる。
朝は、珍獣のように遠巻きに見られていただけなのに……
どうやら、午前の授業……というか、シャルロッテとの試合がきっかけになり、彼女達に受け入れられたみたいだ。
まあ、受け入れるというか、好奇心を刺激した、と言った方が正しいのかもしれない。
みんな、俺という初めての男の魔法使いに興味があるらしく、好奇心を隠そうともしていなかった。
これはこれでよしとする。
一人よりはマシだからな。
とはいえ、今日は彼女達に応えることはできない。
「ごめん。約束があるんだ」
「そうなんだ。残念」
「約束って、なになに? もしかして、彼女?」
「きゃーーー!!!」
一人がそんなことを問いかけてきて、周囲が色めき立つ。
女の子って、そういう話が好きだよなあ。
苦笑しつつ、首を横に振る。
「違うよ。妹と友達だよ」
「へー、レン君って妹さんがいるんだ」
「それに他のクラスの友だち……むむむ、気になるわね」
「まあ、そういうことなら仕方ないか。待ち合わせは食堂? 場所はわかる?」
「ああ、問題ない」
「今度は一緒にお昼食べようね」
「約束だからね?」
「いってらっしゃーい」
クラスメイト達に見送られて、俺は教室を後にした。
――――――――――
学食へ移動して、日替わり定食を注文した。
ここの学食は、先に料理を注文して、それから席を確保するシステムのようだ。
「あっ……お兄ちゃん、こっちですよ」
聞き慣れた声に振り返ると、エリゼとアリーシャが見えた。
二人ともすでに注文を済ませているらしく、席についている。
俺の分の席も確保してくれていたみたいだ。
「おまたせ」
エリゼの隣に座る。
ちなみに、対面にアリーシャが座っている。
四人がけのテーブルなので、あと一人は問題ないのだけど……
周囲の人はジロジロと見てくるだけで、誰も座ろうとしない。
やっぱり、男の俺が珍しいんだろうなあ……
クラスでは受け入れられたけど、学院全体で見たら、まだまだ俺は異物にすぎないからな。
「お兄ちゃんは、何を頼んだんですか?」
「日替わり定食かな」
「お肉とスープとパン……おいしそうですね」
「エリゼとアリーシャは?」
「私は、トーストセットですよ。甘いジャムと果物がついてるんです」
「あたしは、炒めごはん。ごはんがパラパラに炒められていて、けっこういけるわよ」
それぞれの好みが表れていた。
「それじゃあ、いただきます」
「「いただきます」」
みんなで一緒にごはんを食べ始めた。
「二人とも、クラスはどうだった? エリゼとアリーシャは、同じクラスなんだよな?」
エリゼとアリーシャは、俺とは違い、上位クラスの『マーセナル』だ。
エリゼは優れた治癒魔法を使うことができるし……
アリーシャは、魔法剣という隠し玉を持っている。
そのことを考えれば、納得の結果だ。
ただ、うまく馴染めるかどうか……そのことが心配なんだよなあ。
アリーシャは強気な性格をしているから、あまり心配はしていないんだけど……
エリゼは、やや押しに弱いところがあるからな。
そこにつけ入るようなクラスメイトがいたら?
使いっ走りをさせるようなヤツがいたら?
……いかん。
想像したらムカムカしてきたぞ。
「私達は、何も問題はありませんよ。ね、アリーシャちゃん」
「ええ、そうね。うまくやっていると思うわ。友達もできたし」
「でもでも、お兄ちゃんと同じクラスじゃないのが残念です……寂しいです……お兄ちゃん!」
「ん?」
「今のうちに、お兄ちゃん成分を補給させてください」
「……なんだ、それは?」
「お兄ちゃん成分は、お兄ちゃん成分ですよ。それがないと、妹は寂しくて死んじゃいます」
エリゼが手を繋いできた。
「えへへ……お兄ちゃんの手、温かいです♪」
よくわからないが……
妹さまがごきげんなので、よしとしておこう。
「それで、クラスの方はどうなんだ? 馴染めたんだよな?」
「はい。問題ありませんよ」
「そうなのか……ほっ」
うまくやっていると聞かされて、安堵する。
……いや、待てよ?
でも、俺に心配をかけないためにウソをついているという可能性も……
今度、エリゼの様子をこっそりと確認した方がいいかもしれないな。
本気でそんなことを考える俺だった。
「あたし達のことよりも、レンの方はどうなの?」
「ん? 俺?」
「この学院で……というか、この世界で、唯一の男の魔法使いなのよ? 注目されるのが当たり前だろうし……うまくやれているの?」
「んー……」
シャルロッテに絡まれたことを思い返した。
あれは問題といえば問題だけど……
でも、他のみんなには受け入れてもらっているんだよな。
「それなりにうまくやっているよ」
「そうなの?」
「最初はクラスメイト達も戸惑っていたみたいだけど……まあ、一緒に授業を受けるうちに、それなりに仲良くなれたと思う」
「ふーん……そうなんだ、女の子のクラスメイトと仲良くなれたんだ……ふーん」
なぜか、アリーシャの視線がきつくなる。
なんでだ?
俺、何も変なことは言っていないよな?
……とにかくも。
お互いにクラスの話をして……それから、授業などの話をして、学院生活についての話を交わす。
こうして、学食でごはんを食べながら話をするなんて、前世を含めても初めての経験なので、けっこう楽しい。
そうやって昼休みを満喫していると、視界の端に見覚えのある姿が見えた。
「……」
フィアだ。
いつものように……というのも失礼かもしれないが……おどおどとした表情で、食堂に併設されている購買へ向かう。
そこで、一人分とは思えないほどのパンを買っていた。
なんだろう……?
もしかして、パシらされている?
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