40話 今、なにかした?
「っ!?」
シャルロッテの魔法が直撃した。
防ぐことも避けることも、どちらも間に合わなかった。
無防備なところに、一撃を受けてしまった。
思わず目をつむり、身構えてしまうのだけど……
「……うん?」
何も起きない。
痛みもないし、精神的な疲労もない。
って、そうか。
試合に気をとられて忘れていたが、結界が張られているんだっけ。
そのおかげで無傷、というわけか。
でも、おかしいな?
怪我はしなくても、魔力にダメージがいくという話だったのだけど……
俺の魔力は大して減っていない。
まだまだ余裕があるくらいだ。
「え? 今、直撃したよね?」
「レン君、ピンピンしているよね?」
「もしかして、あの一瞬で防いでいたの?」
観客席にいるクラスメイト達がざわついた。
見ると、ローラ先生も驚きの表情を浮かべていた。
この結果は、やっぱり、おかしいことらしい。
「ちょっとあんた!」
シャルロッテが、びしっとこちらを指さしてきた。
「あたしの魔法をまともに食らって、なんでピンピンしてるのよ!?」
「そんなこと言われてもな……」
俺も謎だ。
「先生! 結界、ちゃんと作動しているんですか?」
「それは……ええ、もちろんですよ。作動しているからこそ、レン君は無傷だったのですから」
「でも、魔力にダメージがいってるように見えないんですけど? バグっているんじゃないですか?」
「えっと、それは……」
想定外の事態に、ローラ先生も困っているみたいだ。
しばし、考えるような素振りを見せて……
ふと、思いついたような顔をする。
「もしかしたら……」
「なんですか? やっぱり、結界がバグっているんですか?」
「いえ。結界はきちんと機能しています。レン君にダメージも通っているはずです」
「でも、あいつ、なんともない顔をしてるんですけど」
「それは……実際に、なんともないからでは?」
「へ?」
シャルロッテが、ぽかんとした。
観客席のクラスメイト達もぽかんとした。
ついでに俺もぽかんとした。
そんな俺達に、ローラ先生は丁寧に説明をする。
「つまり、ですね……ハッキリと言ってしまうのはアレなのですが……シャルロッテさんの魔法一発では、レン君の魔力をゼロにすることはできない、ということですね」
「そ、そんな……今のは、第5位の魔法なのよ!?」
『氷烈牙<フリーズストライク>』は、本当は第9位なんだけどな。
「それでも、レン君にとっては大したことはないんですよ。目に見えるほどのダメージを負うほどではなかった……だから、こうして何事もなかったようにしている。そういうことなのだと思いますよ」
「えっ、ちょ……な、なによそれ。それがホントだとしたら、こいつ、どれだけの魔力を持っているのよ……?」
これでも、前世では賢者と呼ばれていた身だ。
魔力量には自信がある。
「あたしの魔法でもほとんどダメージを与えられないなんて……それだけの魔力を持っているなんて……男なのに、そんなことありえるわけ……」
シャルロッテは衝撃を受けた様子で、ぶつぶつとつぶやいていた。
……今、攻撃したら、確実にヒットするな。
とはいえ、それはやってはいけないような気がした。
場の空気を読むというか……
そんなことしたら、色々と台無しだ。
「う、ううんっ、そんなことあたしは認めないし!」
なにかしらの結論を出したらしく、シャルロッテは再びこちらを睨みつけてきた。
どうやら、動揺は収まったみたいだ。
「調子に乗るのもここまでよ!」
「いや……俺、まだ、大したことはしてないんだけど」
「う、うるさいわねっ。あんたがとんでもない魔力を持っているなんて、認めないんだから! 男のくせにっ。どうせ、なんかインチキをしてるんしょ? あたしの魔法で、あんたを倒して、そのことを証明してみせるんだから!」
シャルロッテは、再び戦闘態勢に移行した。
対する俺は……
「……ちょっと実験してみるか」
せっかくのこの機会、逃すのは惜しい。
今の俺は、この時代の魔法にどれだけ耐えられるのか?
耐久力というか……そんな実験をしておきたかった。
シャルロッテとの試合?
ぶっちゃけ、今はどうでもよくなっていた。
それよりも、今の俺がどれだけ通じるのか、それを試してみたい。
そのことで心はいっぱいだ。
強くなる手がかりを得たら、そのことに夢中になってしまい、他のことが気にならなくなってしまう。
俺の悪い癖なのだけど……
今更、簡単にやめられないんだよな、これが。
「くらいなさいっ、火炎槍<ファイアランス>!」
シャルロッテの魔法が炸裂した。
第10位の魔法だ。
しかし、かなりの魔力が込められているらしく、生成された炎の槍は通常のものよりはるかに大きい。
それを……俺は、真正面から受け止めた。
ゴォッ!
炎が荒れ狂い、火の粉が散る。
それでも……俺は、平然とその場に立っていた。
精神的な疲労はないに等しい。
確かに、魔力は削られているみたいだけど……
それでも、俺の全体の魔力量からしてみれば、ほんの一部にすぎない。
「な、なんで平然としてるのよ、あんたは!?」
「さっき、ローラ先生が解説した通りだからじゃないか?」
「ぬぐぐぐっ……」
シャルロッテの顔が赤くなる。
今にも湯気が出てきそうだ。
ヤカンかな?
「あたしは、あんたのことなんて、ぜぇえええええったいに認めないんだから!」
「強情だなあ」
「うっさい、黙れ!」
シャルロッテは俺を射殺す勢いで睨みつけて、
「火炎槍<ファイアランス>! 火炎槍<ファイアランス>! 火炎槍<ファイアランス>! 火炎槍<ファイアランス>! 火炎槍<ファイアランス>!」
魔法を連発した。
炎の雨が降り注ぎ、破壊の力が渦を巻く。
それでも、俺は何もすることなく、避けることも防ぐこともせず、仁王立ちしていた。
次々と炎の槍が激突するけれど、俺の魔力が枯渇することはない。
それどころか、10分の1も減らせていない。
「こ、このっ……氷烈牙<フリーズストライク>!」
再び、第9位の魔法が炸裂した。
少しだけ身構えてしまう。
第9位の魔法を連続で食らうと、それなりのダメージを負うかもしれない。
そう覚悟をするものの……
「な、な……なんで平然としてるのよぉおおおおおっ!!!?」
シャルロッテの魔法を受けた後も、俺は、その場から動くことなく、立ち続けていた。
ただ、さすがに今回は無傷というわけにはいかなかったらしい。
ちょっとだけ目眩がした。
魔力が失われたことが原因だろう。
たぶん……
感覚からして、残りの魔力は90%くらいだろうか?
今までの攻撃で、10分の1が失われたことになる。
シャルロッテの攻撃が全て直撃した場合、10%の魔力を失うことになるのか……これは、興味深いデータだ。
きっと、今後、どこかで活かされることになるだろう。
さて。
このまま魔法を連打されたら、さすがに、いつかは魔力が枯渇してしまうかもしれない。
そろそろ反撃に移った方がいいな。
……なんてことを思うのだけど。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……な、なんで……うぅ……」
シャルロッテは肩で息をしていて、ふらふらと倒れてしまいそうだ。
どうやら、魔法を連打しすぎて、一撃も食らっていないのに、自分の方の魔力が枯渇してしまったらしい。
見事なまでの自爆だ。
このまま放っておいても、勝負はつくんだけど……
それは、彼女のプライドが許さないだろう。
だから俺は、
「火炎槍<ファイアランス>!」
「えっ!? あっ、ちょ……きゃあああああっ!!!?」
魔法を直撃させて、残り少ないシャルロッテの魔力をゼロにした。
これで、勝負は俺の勝ちだ。
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