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38話 女王さま

 自己紹介が終わり……ちなみに、俺はごくごく普通に、無難な自己紹介をした……改めてローラ先生が話をする。


「さて……これからみなさんは、三年間、魔法について学ぶことになります。魔法理論、実技、研究……ありとあらゆることを学びます。授業内容は多岐にわたり、どんどんレベルが高くなっていくでしょう。なので、必死になってついてきてください。足を止めてしまった人に差し伸べる手はありません」


 つまり、成績不良の者は落第してしまうというわけか。

 おもしろい。

 そんなことを言えるだけの高度な授業ならば、大歓迎だ。


「まあ、真面目に学んでほしい、ということを言いたいわけです。脅すつもりはありませんが……授業についていけない人は、学費を無駄にしてしまいますからね。こちらから退学を言い渡すことはありませんが……自ら去って行く人は少なくありません。そんなことになる人がこのクラスから出ないことを祈ります」


 みんな、自然と顔が引き締まる。

 隣のフィアは、引きつってさえいた。

 自信、なさそうだもんなあ……大丈夫なのだろうか?

 余計なことかもしれないが、ちょっと心配になってしまう。


「では、まず最初に実技に移ります。みなさん、訓練場に移動しますよ」

「え、いきなり実技なんですか?」


 誰かが疑問の声をあげた。

 その気持ちはわからないでもない。

 俺も、最初は魔法理論の書かれた教科書を読むとか、そういう授業を想像していたからな。


「まずは、みなさんの力を知っておきたいんです。入学試験で能力測定は行われたものの……完全というわけではありませんからね。あと、この目で直に確認しておきたいということもあり、まずは実技を行うというわけです」


 なるほど、納得だ。

 まず最初に、相手の力を見極めることは、何事においても大事なことだからな。


「先生、私からも質問いいですか?」


 ピシッと背を伸ばして、一人の女の子が手を上げた。


 俺より二つ上の女の子だ。

 金色の髪は、毛先がふんわりとウェーブがかかっていて、見るものを魅了する。

 それでいて瞳は鋭く、強い意思を感じられた。


 体の凹凸はちょっと残念だけど……

 その分、手足はすらりと伸びていて、見事な脚線美を見せている。

 手も細く、職人が魂を込めて作った人形みたいだ。


 シャルロッテ・ブリューナク。


 俺と同じ貴族の娘で、二歳年上だ。

 その気質は激しい。

 何しろ、自己紹介では『私はこの学院でトップになる者よ!』と真顔で言い放ったからな。

 俺も似たようなことを考えてはいるものの、それを口に出すことはしない。


 そんな言動をとるために、俺はシャルロッテのことを、『女王さま』みたいだ、なんて感想を抱いていた。


「はい、なんですか?」

「どうして、このクラスに男がいるのかしら?」


 シャルロッテがこちらを睨みつけながら、そんな質問をローラ先生に投げた。


「彼もシャルロッテさんと同じ新入生ですよ」

「先生、冗談はやめてちょうだい。あれは男じゃない。男が魔法を使えるわけがないわ」

「まあ、そう思うのも仕方ないですね……ですが、彼……レン・ストラインは男でありながら魔法を使うことができます」


 ローラ先生がハッキリと言って……

 その内容に、クラスメイト達がざわついた。


 さらに、ローラ先生は言葉を続ける。


「レン君の家は貴族ではありますが、その力を使い、この学院に入学したということはありません。彼は、彼自身の力で試験を潜り抜けて、この学院に通う許可を得ました」

「男なのに魔法を……?」


 シャルロッテが動揺した様子で、改めてこちらを見た。


 シャルロッテだけじゃない。

 他のクラスメイト達も、興味津々という視線を俺に送ってくる。

 なんだかんだで、みんな、気になっていたのだろう。


「あの噂、本当だったんだ……?」

「男なのに魔法を使えるなんて、すごいね」

「けっこうかわいいかも」


 あちらこちらで俺に関する話が飛び交う。

 なんていうか、見世物になったような気分で微妙だ。


 っていうか、かわいいってなんだよ、かわいいって。

 そこは、かっこいいって言ってほしい。

 まあ、12歳の子供に対して、それは難しい話か。


「納得できましたか? 今までにないことで驚いているかもしれませんが……レン君は、確かに魔法を使うことができます。なので、彼もクラスの一員となったのですよ」

「……納得できないわ!」


 人の話を聞いていないのか、シャルロッテはキッとこちらを睨みつけてきた。


「男が魔法を使う? そんなことありえないしっ。魔法は、私達女性だけに許された特権なのよ!」

「既存の常識に囚われてはいけませんよ。そういう思考は、魔法技術の発展を阻害します」

「むぐっ」


 ローラ先生にやりこめられて、シャルロッテが悔しそうにした。

 そして、再びこちらを睨みつけてくる。


「ぐぬぬぬっ……」


 おい、待て。

 なんで俺を睨むんだ?

 今の今まで、俺は何も言っていないだろう?

 恨む相手が違うぞ?


「やっぱり納得できないしっ!」


 シャルロッテ女王さまは、かなりのわがままさんみたいだ。

 子供のように癇癪を起こして、大きな声をあげる。


「男が魔法を使えるなんて信じらんない! きっと、なにかのインチキをしたのよっ、そうに決まっているし!」

「ふぅ、困りましたね……」


 わがままを連発するシャルロッテに、さすがのローラ先生も困った様子だった。


「……なら、試してみるか?」

「え?」


 ここで初めて、俺は口を開いた。


 困っているローラ先生を助けるためという理由もあるが……

 それ以上に、インチキだのなんだの難癖をつけられるのはたまらない。

 このまま滅茶苦茶な発言を許していたら、学院生活に不備が起きるかもしれない。

 そんなことが起きないように、わがままな女王さまには、ビシッと言っておく必要があった。


「ローラ先生」

「え? あ、はい」

「この後は、実技なんですよね? そこで、シャルロッテさんと競わせてもらえませんか?」

「競う、って……」

「実際に魔法を使うことで、俺がインチキとかトリックとか、そういうことをしていないことを証明してみせます。そうでもしないと、シャルロッテさんは納得しないみたいだから」

「へえ……あんた、良い度胸してるじゃない」


 シャルロッテが不敵に笑う。


「この私にケンカを売るなんて、1万と2000年早いわ。そのことを証明してあげる! ついでに、あんたが魔法を使える、っていうペテンも暴いてあげるしっ」

「俺が魔法を使える、っていう証明だけじゃなくて、シャルロッテさんを負かしてみせるから。その覚悟、よろしく」

「むぐぐぐっ……なによ、あんた。すっごい生意気なんだけど!」


 どっちがだよ。


「あなた達、勝手に話を進めないでくれませんか? ……といっても、もう止まりそうにありませんね……はぁ。仕方ないですね、二人の対戦を許可しましょう」


 ローラ先生から許可が降りて……


「ふんっ、ギッタギタのボッコボコにしてあげる!」


 俺は、入学早々、クラスの女王さまと戦うことになるのだった。

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