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35話 エリゼの力

 いつものように庭で訓練を行う。

 訓練用の剣を構えて、魔法を唱える。


「風嵐槍<エアロランス>」


 目標は……この手に持つ剣。

 風が意思を持っているかのように、剣にまとわりついていくが……


「くっ!?」


 ある程度まできたところで、魔力が暴走する。

 力が弾けて、剣が吹き飛ばされてしまう。


「まいったな……これ、思っていたよりも難しいぞ」


 先日、アリーシャのとっておきの『魔法剣』を見せてもらい……

 ならば俺も、と思い練習をしていたのだけど、なかなかうまくいかない。


「……」


 監督を頼んだアリーシャは、ぽかんとしていた。

 上達しない弟子に呆れているのだろうか?


 いや。

 どちらかというと、驚いているような……?


「レンって、本当に魔法剣を知らなかったの?」

「知らないさ。魔法を剣にまとわせるなんて、そんな発想、まったくなかった」

「知らないっていうのに、その上達速度はなんなのよ……ありえないんだけど」

「ん? 俺、上達してるのか? 今も失敗したばかりだけど……」

「でも、半分くらいは成功してるでしょう? 普通なら、魔法が放たれるだけで終わるのに……そこまでできる人なんて、そうそういないわよ? というか、あたしだって、何年もかけたのに……」


 転生したおかげで、魔法の扱いには慣れているからな。

 未知の技術だとしても、ある程度は取り込めるという自信がある。


「なんか、あっという間に抜かされちゃいそう」

「そんなことないと思うけどな。これ、けっこう難しいから……習得には、まだまだ時間がかかりそうだ」

「そんなうれしそうな顔をして……まったく。戦闘バカなんだから」


 なんてことを言いながらも、アリーシャは笑顔だった。


「あたしも負けていられないわね。魔法剣っていう特技があるだけで、他の面ではレンに負けているし……これ以上、差を広げられないようにがんばらないと」

「うん、その意気だ」


 がんばるアリーシャはかっこいい。


「アリーシャはかっこいいな」

「へ? い、いきなりなによ……」

「そうやって、ひたすらに前を向いているところ。かっこいいと思うぞ」

「か、かっこいいって……女の子に使う褒め言葉じゃないわよ、ばか……」

「それもそうだな……悪い。褒めたつもりなんだけど……」

「でも……まあ、その……そ、そこそこうれしいかも。ありがと♪」


 にっこりと笑うアリーシャは、素直にかわいい。

 ついつい見惚れてしまう。


 すると……


「じー……」


 エリゼが物陰から、こっそりとこちらの様子を伺っているのが見えた。

 まあ、おもいきり見えているからこっそり、と言うのはおかしいかもしれないが。


「いいの?」


 アリーシャが、そんなことを問いかけてくる。


「なにが?」

「わかっているでしょう、エリゼのことよ。最近、ずっと放置しているじゃない。それで寂しがっていると思うんだけど」

「なるほど」


 こういう心の機微は、アリーシャの方が敏い。

 前世で賢者なんて言われても、こういうところはまだまだだ。反省。


「えっと……エリゼ」

「……なんですか?」


 エリゼに声をかけると、警戒する子猫のような感じで返事をされた。


「俺は別にエリゼを放っておいたわけじゃなくて、入学に備えて訓練をしていただけで……」

「そうですね、お兄ちゃんの言いたいことはわかります。アリーシャちゃんと一緒に、楽しく訓練をしていたんですよね」


 楽しく、の部分を強調して言う。

 妙に後ろめたい気持ちになってしまう。


「い、いや、その……」

「アリーシャちゃんと一緒で、楽しそうですよね……私のことなんて、どうでもよさそうですね。つーん」

「そんなことはないって。エリゼのことは大事だ」

「なら、どうして私に構ってくれないんですか? ここ最近、お兄ちゃんは訓練ばかりです。うう……寂しいですよ。妹は適当に構ってあげないと、寂しくて泣いちゃうんですよ?」

「そのことは……悪いとは思ってるよ。ただ、これから学院で過ごすから……それに備えて、できる限りのことをしておきたいんだ。だから、訓練をするしかなくて……」

「むぅ……お兄ちゃんは何もわかっていませんね」


 エリゼがますます拗ねてしまう。

 なんだ?

 俺、何か言葉を間違えたのか?


「はぁ」


 アリーシャが呆れたような声をこぼした。


「あれだけ強い力を持っているのに、妹に対してはてんで頭が上がらないのね」


 ほっといてくれ。


「というか、女の子のことをもうちょっと理解しないと。エリゼは、レンが訓練ばかりして遊んでくれないことを怒っているわけじゃないの。訓練をするならするで構わないから、その時は自分も誘ってほしい、って思っているのよ」

「そう……なのか?」

「そうですよ、もうっ」


 ぷんすかしながら、エリゼが頷いた。


「私もお兄ちゃんと一緒に訓練したいです。仲間はずれなんてずるいです」

「ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど……」


 訓練に付き合わせて体調を崩すようなことになったら……?

 って、ついつい考えてしまうんだよな。


 エリゼは健康な体を手に入れているんだけど、今までが今までだから、なかなか考えを変えることができない。

 でも、それも終わりにしないと。

 余計な心配はここまでにしておこう。


「わかった。じゃあ、エリゼも一緒に訓練をしようか」

「……私が一緒でいいんですか?」

「もちろん」

「やりました! さすが、お兄ちゃんですっ。えへへ……お兄ちゃんと一緒です♪」


 エリゼは花が咲くような笑みを浮かべて、こちらの胸に飛び込んできた。

 さっきまで拗ねていたのが嘘みたいだ。

 ついつい、演技だったのか? なんてことを思ってしまう。


「むぅ」


 今度は、なぜかアリーシャに微妙な顔をされた。


「どうかした?」

「……いいえ、なにも」

「なんでもない、っていうような顔はしてないんだけど……」

「本当になんでもないから。ふぅ……それよりも、今日から三人で訓練をしましょう」

「そうだな」

「私、がんばりますねっ」


 ……というわけで、今日はエリゼを中心に訓練を行うことにした。




――――――――――




「んー……」


 しばらく訓練を続けて……

 それから、エリゼが難しい顔をした。


 魔法人形を使い、攻撃魔法の練習をしている。

 しかし、思ったような成果が出ないらしい。


「魔法って、けっこう難しいですね……」

「そう? エリゼって、まだ10歳よね? それなのに、これだけの数値を出せるんだから、普通にすごいと思うけど」

「私は、お兄ちゃんみたいになりたいんです」

「レンみたいに? ちなみに、レンってどれくらいの数値を出しているの?」

「お兄ちゃんは、魔法人形を壊しちゃいました」

「え?」


 アリーシャがぽかんとなる。


「魔法人形を壊す、って……なに、それ。どれだけ強力な魔法を使ったのよ……まあ、あの死神を倒せるほどだから、今更驚かないけど……」

「その時、お兄ちゃんが使ったのは第10位の魔法でした」

「どういうこと!?」


 驚かないと言ったはずなのに驚いていた。


 まあ、俺のことはどうでもいい。

 今はエリゼの悩みを解決してあげないと。


「エリゼは攻撃魔法が向いていないんだろうな」

「そうなんですか……しょんぼりです。お兄ちゃんみたいになりたいんですけど……」

「そう言ってくれるのはうれしいけど……向き不向きがあるからな。エリゼは、ちゃんと得意な分野があるだろう? それを教えてくれた人……人と言っていいのか? とにかく、教えてくれた人がいるだろう?」

「あっ」


 俺達の師匠のことを思い出した様子で、エリゼが明るい顔になる。

 そして、再び魔法人形と向き合い……


「治癒光<ヒール>!」


 回復魔法を使い、『450』という数値を叩き出した。


「450!?」


 『100』の数値を叩き出せば、いっぱしの冒険者と言われているのに……

 エリゼは、『450』という数値を叩き出した。


 とんでもない数値を叩き出して、アリーシャが驚いていた。

 俺も驚いていた。


 エル師匠に魔法を教わっていた時は、確か……『230』だったよな?

 あれから二年くらいしか経っていないのに、数値が倍になっている。

 二年で倍に成長してしまうなんて……とんでもない成長速度だ。

 エリクサーの影響もあるかもしれないな。


「わぁ……」


 エリゼ本人も驚いていた。


「えっと……これでわかっただろう? エリゼは、回復魔法が得意なんだ。無理に俺を真似ようとしないで、自分の得意な分野を伸ばしていくといいさ」

「はいっ、わかりました!」


 自分の『武器』を見つけることができて、エリゼはうれしそうに笑うのだった。

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