34話 アリーシャの力
いつものように体力トレーニングをして、それから、魔力トレーニングに移る。
「光<ライト>」
光球を生み出して、そのままの状態で維持。
第10位の魔法とはいえ、ずっと顕現させた状態というのは、なかなかに骨が折れるのだ。
エレニウム魔法学院に入学できることになったけれど……
入学はしばらく先だ。
なまってしまうかもしれないので、日々のトレーニングは欠かせない。
と、コンコンとノックが響いた。
「どうぞ」
「失礼するわ」
アリーシャが姿を見せた。
アリーシャがウチで暮らすようになって、少し。
あれから、ちょくちょくと俺の部屋を尋ねてくるのだけど……なんでだ?
「あ……」
アリーシャは魔法を使っている俺を見て、目を丸くした。
何か大事な話があるのだろうか?
だとしたら、トレーニングしながら、っていうのは失礼だな。
「ちょっとまってくれ」
「あ、うん」
最後に、魔力を適当にコントロールして……
空気に溶けるように、光の球を消した。
供給する魔力を少しずつ減らしていくことで、このような現象を発生させることができる。
繊細なコントロールが要求されるから、なかなか難しいんだよな。
「もしかして、トレーニングの最中だった?」
「ああ」
「珍しい方法ね……どうやっているの?」
「これは……」
別に隠す必要もないので、素直にトレーニングの内容を教えた。
すると、再びアリーシャの目が丸くなる。
「どうした?」
「いえ……あなた、無茶苦茶なのね」
「無茶苦茶? なにが?」
「男なのに魔法が使えるってところもそうだけど、こんなトレーニングをしているなんて……普通、できないわよ」
「そうなのか?」
「あたしは無理かな。魔法を常時発動させておくなんて……全力疾走を続けるようなものじゃない。どうやったらそんなことができるのよ」
「努力かな」
断っておくが、俺も最初から魔法を操れたというわけじゃない。
むしろ、初級の魔法すら使えない落ちこぼれだった。
でも、俺は負けず嫌いなのだ。
周囲が蔑み、哀れむほどに対抗心を燃やして、努力を積み重ねた。
その結果……今に至る、というわけだ。
「ところで、アリーシャはどうしたんだ? 俺に何か用?」
「あ、うん。大したことじゃないんだけど……どうしてるのかなあ、って気になって」
「なんだ、それ?」
「もう……察しなさいよ、ばかっ」
なぜか怒られた。
理不尽だ。
「でも、せっかくだから、あたしも一緒にトレーニングしようかしら。模擬試合でもする?」
「お、いいな」
対人戦は貴重だ。
一人では得ることができない経験を積むことができるからな。
エリゼを相手に対人戦をしてもいいんだけど……
体が弱い頃のイメージが抜けなくて、いまいち、集中できないんだよな。
「じゃあ、庭に出るか」
「ええ」
アリーシャと一緒に庭に出た。
幸いというべきか、アラムに見つかり、あーだーこーだ言われることはなかった。
「エリゼは誘わないのか?」
「今は、お姉さんと一緒に出かけているみたい」
納得。
道理で、うるさい声が飛んでこないわけだ。
「それじゃあ、いくわよ!」
「こいっ」
アリーシャが剣を構えて、俺は杖を構えた。
当たり前だけど、訓練用のもので刃を落としてある。
ただ、鉄の棒に違いないので、あたれば痛いで済まない場合もある。
「ふっ!」
アリーシャが一気に踏み込んできて、剣を振るう。
速度は申し分ない。
俺と同じ、12歳とは思えないくらいの力だ。
俺は杖を盾にして、アリーシャの剣を受け止めて、時に払う。
「やるわねっ」
「アリーシャもなっ」
アリーシャの剣技は、子供のものとは思えないくらい洗練されていた。
魔法も剣技も衰退しているこの時代、驚くものがある。
なかなか反撃に移ることができない。
このままだと、押し込まれてしまう可能性があるな……
それほどまでに、アリーシャは手強い相手だ。
ならば、無理矢理にでも反撃に出よう。
「風嵐槍<エアロランス>!」
大きく後ろに跳んで距離を開けると同時に、魔法を放つ。
風で編み込まれた槍が、アリーシャに突撃して……
「それを待っていたわよ!」
「なっ!?」
よりにもよって、アリーシャは魔法を剣で受け止めた。
第10位の魔法とはいえ、訓練用の剣を叩き折るだけの力はある。
普通ならば、アリーシャの剣は折れてしまうのだけど……
そのような事態にはならなかった。
魔法が触れた瞬間、剣が光を放つ。
アリーシャは不敵な笑みを浮かべて……
風をまとう剣をこちらに見せつけた。
「それは……?」
「これがあたしの奥の手……魔法剣よ」
「魔法剣……」
「見ての通り、剣に魔法をまとわせることで、その威力を一気に跳ね上げることができるの。その威力は……まあ、実際に試してみた方が早いわね。いくわよ。無茶はしないで、防御に専念して」
再びアリーシャが駆けてきた。
風をまとう剣を振り下ろす。
それを杖で受け止めると……
「ぐっ!?」
ズシリと、今までにはなかった『重さ』を感じた。
明らかに威力が増している。
それだけじゃない。
剣にまとわりついた風が嵐のように暴れて、こちらの手元を狂わせる。
「っと……ここまでね」
アリーシャが剣を引いて後ろに下がった。
その意味をすぐに知ることになる。
杖にヒビが入っていた。
訓練用のものとはいえ、鉄でできているのでそれなりに頑丈だ。
それにヒビを入れるなんて……
「すごいな」
「でしょう?」
アリーシャは得意そうな笑みを見せた。
「魔法と剣技を一体化させる……そんなこと、考えたこともなかった。それ、どこで習得したんだ?」
「独学よ。あたしは、ほら……一人で生きていくしかなかったでしょう? だから、こういう力が必須で……で、ある時思いついたの。剣技と魔法を一緒にしたら、もっと強くなれるんじゃないか、って」
「なるほど……文字通りの魔法剣士、っていうわけか」
その発想力がうらやましい。
思えば、前世の俺は、強くなるために突飛な試みをすることはなかった。
教科書通りの訓練を積み重ねて、セオリーに従い戦術を組み立ててきた。
それでも、『賢者』と呼ばれるくらいには力を得たものの……
でも、それだけでは足りなかった。
魔神に打ち勝つことはできなかった。
この時代、魔法も戦術も衰退していて、半ばあきらめていたものの……
それは早とちりだったのかもしれないな。
アリーシャのような発想力こそが、俺が求めていたものなのかもしれない。
「どうしたの?」
「え?」
「なんか笑ってるけど……」
「……いや、なんでもない」
こんな時代に生まれて、最初は戸惑っていたのだけど……
でも、そんな必要はなかった。
俺の視野が狭かっただけで、強くなる方法はあちらこちらにあふれている。
というか、こんな時代だからこそ、そういった特殊な戦術に巡り会えるのかもしれない。
俺はまだまだ強くなることができる。
そのことを思い、俺は笑みを浮かべるだった。
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