33話 女の子が我が家にやってきた!
アリーシャがウチに泊まることは、問題なく許可された。
父さんと母さんは、エリゼが初めて友達を家に連れてきたと喜んでいたし……
アラムは溺愛するエリゼに嫌われたくないので、その友達にも良い顔をしていた。
そして、エリゼが言っていたように、ウチは部屋が余っているので、そこらへんの問題もない。
トントン拍子で話が進んで……
さっそく、その日のうちからアリーシャがウチにやってきた。
そして……
――――――――――
「ふう」
夕食を終えて、自室に戻る。
椅子に座り、体をリラックスさせた。
今日は俺達の合格祝いと……
それと、アリーシャの歓迎会ということで、ごちそうが用意された。
貴族とはいえ、その身分に溺れることなく、正しい在り方を身に着けないといけない。
……という信念を持つ父さんと母さんからしたら、今日は、かなり奮発した方だった。
久しぶりの豪華な食事をたくさん腹につめこんで……
楽しい時間はあっという間に過ぎた。
「色々あったものの……無事に合格できてよかった」
これで、ようやく第一歩を踏み出すことができる。
転生しても、女性しか魔法を使うことができなくなっていたり、その魔法が衰退していたり……戦術もおかしなことになっていたり……
強くなること、という目標が達成できなかったからなあ。
エル師匠に色々と教えてもらったけれど……
でも、それだけでは足りない。
もっともっと強くならないといけない。
そのために、学院に入学して……
色々なことを吸収して、学んでいかないと!
「よし!」
やる気がみなぎってきた。
とはいえ、もう夜も遅い。
一応、まだ12歳だ。
まだまだ子供なので、夜更かししないで、ちゃんと寝ないと。
「ん?」
コンコン、とノックが響いた。
こんな時間に誰だろう?
アラム……ってことはないから、エリゼだろうか?
一人では眠れないと、10歳になった今でも、ちょくちょくベッドに潜り込んでくることがあるんだよな。
「はい、どうぞ」
「えっと……おじゃまします」
顔を見せたのは、意外にもアリーシャだった。
「お、そのパジャマ」
エリゼに借りたのか、ピンクの水玉のパジャマを着ていた。
俺の視線に気がついて、アリーシャがもじもじとする。
「どうかしら?」
「うん、すごく似合うよ。かわいい」
「か、かわいいって……い、いざ言われると照れるわね……うぅ」
アリーシャが笑顔になって、次いで、赤くなって落ち着かない仕草をとる。
どうしたんだろう?
今までにない反応を不思議に思う。
「どうしたんだ?」
「えっと、その……ちょっと、二人きりで話をしたいと思って……ダメ?」
「いいよ」
「ありがとう」
アリーシャに椅子を差し出した。
それに座り、こちらを見る。
緊張しているのだろうか?
出会った時からは想像できないくらい、おとなしい。
というか、かしこまっている。
借りてきた猫みたいだ。
「どうしたんだ?」
「いや、その……なんていうか……あー……な、なんでもないわ。気にしないで」
「緊張してる?」
「し、してないし! 意識なんてしてないし!」
もしかして、まだ戦ったことを気にしているのだろうか?
ありえるな。
なんだかんだで、アリーシャは責任感が強いからな。
「ゆっくりしていけばいいさ。お茶でも飲むか? って、給仕さんは寝ちゃったかな?」
「あ、ううん。大丈夫」
「そうか?」
「……」
「……」
妙に気まずい沈黙が訪れた。
「「あの」」
声が重なってしまった。
ますます気まずい。
なんだろう? この空気は。
アリーシャの緊張がうつってしまったのか、俺までぎこちなくなってしまう。
というか……
こんな時間に女の子と二人きりなんて、よくよく考えてみるとまずいんじゃないのか?
12歳とはいえ、俺は男で、アリーシャは女の子で……
って、考え過ぎか。
いくらなんでも、なにかが起きるとは思えない。
まだまだ子供だし……
それ以前、出会って間もないからな。
「……ちょっといい?」
「あ、うん。どうかした?」
「……あなた、レンっていうのよね?」
「そうだけど……え? まさか、俺、名前覚えてもらってなかったのか!?」
「ううん、そういうわけじゃないから。さすがに覚えてるわ」
アリーシャは顔を赤くして、あちこちと視線をふらふらさせて……
ややあって、こちらに視線を固定した。
「……あたしは、エリゼのことはエリゼ、って呼んでいるの」
「ん? うん」
「それなのに、あんたのことはあんた、って呼んでいるわけで……」
「そういえばそうだな」
今、気がついた。
呼び方、呼ばれ方なんて、あまり気にしていなかったからなあ……
「えっと、ね……それはどうなのかな、って思ったわけなのよ」
「そうなのか?」
「だって……あんたはあたしを助けてくれたし……このまま、っていうわけにはいかないわ。恩人に対して失礼だもの……それに、他にも……う、ううん。これはなんでもないから気にしないで」
「おう? まあ……でも、そんなに俺のことは気にする必要ないんだけどな」
「あたしが気にするの!」
「お、おおぅ?」
なぜか怒られた。
なんで?
「ここからが本題。えっと……あんたのことを名前で、『レン』って呼んでもいい……?」
「いいけど?」
「ホント?」
「ホントだって……っていうか、近い近い」
なぜか、アリーシャはものすごく喜び……
ぐぐぐっと近づいてきた。
「じゃあ……試しに呼んでみるわね」
「オッケー」
「えっと……ちょっと緊張するというか、いざとなると照れくさいわね。それじゃあ……」
あたふたとしつつ……
アリーシャは、そっと、俺の名前を口にする。
「……レン……」
名前を呼ばれた瞬間、なぜかドキリとした。
「……レン……」
もう一度、アリーシャが俺の名前を口にした。
「うん」
「レン」
「うん」
「ふふっ……レン♪」
にっこりと笑うアリーシャ。
なにがうれしいのか、俺の名前を何度も呼んだ。
「ねえ、レン」
「うん?」
「その……これからもよろしくね」
「ああ、こちらこそ」
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