↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/138

31話 前を向いて歩こう

 試験用のダンジョンにベヒーモスが現れたことは、すぐに試験官に知られることになったけれど……

 アリーシャに取り憑いていた死神が解放されたことは、誰にも知られることはなかった。


 試験官達が駆けつけてくる前に、事を終わらせたからな。

 目撃者もいないし、アリーシャに面倒が及ぶことはないだろう。


 その後……


 訓練用のダンジョンは不備があったということで、封鎖された。

 幸いというべきか、一人も死人は出ることなく……

 それは力のある証拠とされて、俺達受験生は、全員、合格を言い渡された。


 一部の試験官は、男である俺まで合格させていいものか迷っていたみたいだけど……

 ベヒーモスから逃げるだけではなくて、倒すことができたのだから文句のつけようがないということで、最終的に合格になった。


 本当は、ベヒーモスを倒したのはアリーシャなのだけど……

 まあ、代わりに死神を倒したから、力を示すことはできた、ということにしておこう。


 そして……




――――――――――




「では、これで試験を終了とする! 合格者には、後ほど通達を送る。入学するまで驕ることなく、日々、鍛錬に励むように。以上!」


 試験官の合図で解散になった。

 あとは、後に届けられる書類などにサインをして……

 それを提出することで、入学が完了。

 来月から、学院生としてエレニウム魔法学院で授業を受けることができる。


「お兄ちゃん」


 エリゼに声をかけられた。


「合格、おめでとうございます」

「エリゼも、合格おめでとう」

「えへへ、これでまた一緒ですね♪ これからもお兄ちゃんと一緒にいられるなんて、うれしいです。とてもとてもうれしいです。きっと、私は世界で一番幸せな妹ですね♪」


 エリゼがうれしそうに、ふにゃりと笑う。

 なにこの天使。

 お持ち帰りしたい。


「アリーシャちゃんも、おめでとうございます」

「……」


 エリゼの隣にはアリーシャがいた。

 しかし、合格したというのにうれしそうではない。

 すごく気まずそうな顔をしている。


「あの、あたし……」

「ストップ」

「え?」

「ここじゃ他に人もいるから、とりあえず、あっちで話そうか」


 そう言って、俺達は人気のない広場に移動した。

 ベンチに並んで座る。


「……ごめんなさい」


 俺達だけになると、アリーシャは頭を下げて、震える声でそう言った。


「あたし、レンに剣を向けて……」

「死神に操られていた時の記憶が?」


 アリーシャは小さく頷いた。


「全部、覚えているわ……」


 アリーシャの手は震えていた。

 そんな自分の手を見つめながら……

 辛い過去を告白する。


「あたし……この手で、色々な人を殺してきたわ……」

「……」

「最初は、盗賊だった。あたしがいた村は小さなところだったけど、あの剣が御神体として祀られていたの。笑っちゃうわよね、その正体を知らず、死神を祀るなんて」

「……それで?」

「ある日、剣の話を聞いた盗賊がやってきた。盗賊達は家族を、友達を、村人を殺して……剣を奪おうとした。あたしはせめて一撃と思って剣を手に取って……」

「そこで死神に取り憑かれたのか?」


 アリーシャは何も言わず、頷くことで応えてみせた。


「気がついたら、盗賊達は全て死んでいたわ。盗賊達を切った記憶はしっかりと残っていて……それから、あたしはあの剣と一緒に過ごすことになったの」

「捨てようと思わなかったんですか?」


 エリゼの問いかけに、アリーシャは首を横に振る。


「死神が離してくれなくて、どうすることもできなかった。それに、ただの子供が何もなしに生きていくことなんてできなかったから……だから、生きるためにあの剣を利用したわ。利用して……そして、殺した」

「でも、それはアリーシャちゃんのせいでは……」

「あたしのせいよ。あたしが、あの剣を使い続ける、って決めたんだから」


 エリゼには悪いが……

 俺も、アリーシャの責任だと思う。


 でも、それは悪いことじゃない。

 むしろ、アリーシャの『強さ』でもあると思う。


 魔剣のせいにして、責任から逃れることは簡単だ。

 でも、アリーシャはそれを良しとしなかった。

 自らの責任として、目の前の事実をしっかりと受け止めている。

 だから、彼女は『強い』と思う。


「学院に来たのは?」

「単に、衣食住を確保したいのと……あと、あの剣がどうにかならないか、って期待していたところもあったわ」

「そうだったんですね……」

「もっとも、あなた達のおかげでそんなことを考える必要はなくなったけどね」


 アリーシャがこちらを向いた。

 そして、もう一度、頭を下げる。


「ありがとう」

「アリーシャ……」

「あなた達のおかげで、あたしは、これ以上、人を斬らずに済んだ。あの剣から解放された。それで、今までのことがなかったわけになるわけじゃないけど……でも、ありがとう」

「どういたしまして。そうやって、前を向いていかないとな。起きたことはどうしようもないから……これからのことを考えて、生きていかないと」

「……」


 気がつくと、アリーシャがじっと俺を見つめていた。


「あなたって、不思議な人ね」

「そうか?」

「魔法が使えるだけじゃなくて……なんていうか、今まで周りにいなかったタイプよ。そう……とても強い人。強くて、でも、力を持っているだけじゃなくて……温かい人」


 そう言うアリーシャの頬は、少し朱色に染まっていた。

 心なしか、瞳も潤んでいて……

 同い年だというのに妙な色気を感じてしまい、ついついドキドキしてしまう。


「なんたって、お兄ちゃんですからね♪」


 そんなことに気づかないエリゼは、俺が褒められたことを、自分のことのように喜んでいた。


「あ、そうだ」


 思い出したようにエリゼが言う。


「アリーシャちゃんは、これからどうするんですか?」

「ん? せっかく合格したんだから、ちゃんと学院に通うわよ。もう暴走する心配もないし」

「あ、いえいえ、それも大事ですけど……学院は来月からじゃないですか? それまで、どうするのかな、と思いまして」

「適当に宿でもとるわ。それなりに路銀は持っているから、安宿なら一ヶ月くらい泊まれると思う」

「そんなのいけません!」

「え?」


 エリゼがぐぐっと詰め寄り、大きな声で言う。


「アリーシャちゃんはかわいい女の子なのに、安宿に泊まるなんて……そんなことはダメですよ」

「か、かわいい……って」


 照れているらしく、アリーシャが赤くなる。


「でも、ちゃんとした宿に泊まるお金なんてないし……」

「だったらウチに来てください!」

「え? あなたの家に?」

「自分でいうのもなんですけど、私、貴族の娘なので。家もそれなりに広いので、アリーシャちゃんが泊まっても何も問題はありません!」

「家に……ということは、一緒に……?」


 ちらりと、アリーシャがこちらを見る。

 その顔は、なぜかさきほどよりも赤い。


「あんたは……その……迷惑じゃないの?」

「ん? 俺? 別にそんなことはないけど」

「本当に?」

「本当だって。そんなウソをつく必要もないし……むしろ、気心知れた相手が増えるのはうれしいぞ。一時的にとはいえ、パーティーを組んだ仲だからな」

「そ、そう……」


 アリーシャは考えるような仕草をとり……

 ややあって、コクリと頷いた。


「それじゃあ……少しの間、お世話になろうかしら」

「はい! 大歓迎しますよ♪」

「これからよろしくな」


 最初に、アリーシャはエリゼと握手をして……

 次いで、俺と握手をしようとして……


「……」

「どうしたんだ?」

「やっぱり、あんたとは握手をしない」

「え、なんで?」

「だって……今の私の手、汚れているかもしれないし……どうせなら、もっと綺麗な時に……でもでも……」


 小さな声なので、後半は何を言っているのか聞こえなかった。


「いいから、ほら」

「あっ……」


 強引に握手をした。


 アリーシャの頬が赤くなり、視線があちこちに飛ぶ。

 それから、視線を逸らしたまま、手を握り返して……


「……よ、よろしくね」

「ああ、こちらこそ」


 今日から一ヶ月の間。

 新しい家族ができるのだった。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆ お知らせ ◆

ビーストテイマーのスピンオフを書いてみました。
【勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強の少女達ともふもふライフを送る】
こちらも読んでもらえたらうれしいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。