27話 二次試験開始
俺とエリゼとアリーシャ、三人が並んで訓練用のダンジョンの中を歩いていた。
ランタンの光がゆらゆらと揺れて、通路を照らしている。
「はぁ……どうしてあたしが、あなた達と一緒に……」
「いいじゃないか。パーティーを組まないといけないんだから、どうせなら顔見知りの方がいいだろ?」
「さっき出会ったばかりじゃない」
「気にしない気にしない」
「がんばりましょうね、アリーシャちゃん」
「はぁ……」
にっこりと笑うエリゼを見て、反論する気力をなくしたらしく、アリーシャはため息をこぼすだけで、それ以上は何も言わなかった。
「……足手まといになるようなら、切り捨てるわよ」
「その場合は、アリーシャも失格になるな」
「ぐっ」
「諦めろ。一緒に組んだ以上、がんばるしかないんだからな」
「はぁ……」
再び、アリーシャはため息をついた。
「ホント、しっかりしてよ? 一次試験は突破してるし、魔法は使えるっていう話だから、それなりの力はあるんだろうけど……足は引っ張らないでね?」
「大丈夫ですよ、アリーシャちゃん」
なぜかエリゼが答える。
「お兄ちゃんが一緒なら、絶対に合格できますよ」
「その根拠は?」
「お兄ちゃんがお兄ちゃんだからです」
「はい?」
「お兄ちゃんは、すごく頼りになるんですよ? いつもいつも、私のことを助けてくれて……世界で一番のお兄ちゃんなんです! だから、お兄ちゃんが一緒にいれば、なにも問題はないんです」
「……あなたの妹って、もしかしてもしかしなくても、ブラコン?」
「……ノーコメント」
アリーシャの視線が痛い。
と……次の瞬間、アリーシャの顔が鋭いものに変化する。
「止まって」
言われるまま、俺とエリゼは足を止めた。
「どうしたんですか……?」
「どうやら、お迎えが来たみたいね」
ランタンの光に集まる虫にように、魔物が姿を見せた。
子供のように小さく、やせ細った体。
それでいて、目が大きく、ぎょろりと尖っている。
ゴブリンだ。
下級の魔物で、一対一ならば苦労することはない。
ただ、ゴブリンは群れで行動する。
現に、目の前に現れたゴブリンも、10匹ほどの群れを形成していた。
こうなると、少し厄介だ。
戦いに慣れていない者が相手をしたら、数の暴力に飲み込まれてしまい、あっという間にやられてしまう。
まあ、俺なら、魔法の一撃でまとめて吹き飛ばせるんだけど……
それでは、エリゼの成長に繋がらない。
学院でうまくやっていくつもりなら、これくらいは乗り越えてもらわないと。
あと、アリーシャの実力を確かめたい。
なので、今回は俺は、サポートに徹することにしよう。
「いきますっ」
エリゼが杖を構えた。
「……」
アリーシャは無言で剣を抜いた。
訓練用のため、刃にカバーがあてられているものの……
一目で業物とわかる剣だ。
刀身は輝いていて、柄には綺麗な細工が施されている。
アリーシャは刃のカバーを外して、いつでもゴブリンを切れるように構えた。
「俺が魔法でサポートをするから、二人は……」
「そういうのいらないから」
言って、アリーシャは一人で突撃した。
止める間もない。
そして……戦場に一陣の風が吹いた。
アリーシャは風のような動きで、一気にゴブリンとの間合いを詰めた。
それに気がついた相手が、慌てて棍棒を振り上げるが、遅い。
アリーシャの剣が閃いて、ゴブリンの首が斬り飛ばされた。
突然、仲間がやられてゴブリン達が動揺する。
その隙に、さらにアリーシャは突撃した。
剣を振るい……
剣を薙いで……
剣を落として……
ありとあらゆる方法で斬撃を繰り出して、ゴブリン達を屠る。
そして……
気がつけば、10匹もいたゴブリン達は、アリーシャ一人の手で全滅させられていた。
「へえ、すごいな」
思わず称賛の言葉がこぼれていた。
それくらいに、アリーシャの剣技は見事なものだった。
この時代、魔法だけではなくて戦術も衰退しているのかと思ったのだが……
アリーシャに限り、それは適用されないみたいだ。
まだまだ甘いところはあるが……
十分に伸び代が感じられる、見事な剣技だった。
魔法剣士なのに、魔法をまったく使わないでここまでやるとは……
なかなかできることじゃない。
「男なんかに褒められてもうれしくないわね」
アリーシャは剣を鞘に収めながら、そう言った。
それを聞いて、エリゼが頬を膨らませる。
「アリーシャちゃん、お兄ちゃんの悪口を言わないでください!」
「なによ、事実じゃない。男は魔法を使えないんだから」
「それはそうですけど……でも、お兄ちゃんは魔法を使えますよ」
「それが信じられないんだけどね……」
「さっきは納得したじゃないですか」
「それでも、そうそうすぐに受け入れられないものよ」
「あとあと、お兄ちゃんに限らず、そういうことを言うのはいけません。人のことを悪くいうと、自分の品位を貶めることになりますよ」
「むぐ……」
圧倒的な正論をぶつけられて、返す言葉が見つからないみたいだ。
「まあいいさ」
「お兄ちゃん?」
二人の間に割って入る。
「俺が男っていうのは確かな事実だからな。アリーシャに足手まといと思われても仕方ない」
「あら、殊勝なのね」
「でも、そのまま、っていうわけにはいかないからな」
アリーシャみたいなタイプは、きちんと力を示さないと、認めてもらうことはできない。
言葉ではなくて、行動を見せないといけないのだ。
だから、実力を見せることにした。
「火炎槍<ファイアランス>!」
「っ!?」
魔法を放ち……
背後からアリーシャに襲いかかろうとしていた、ゴブリンの生き残りを倒した。
「今のは……」
「油断大敵、っていうヤツだ。まだ生き残りがいたぞ」
「……」
アリーシャが悔しそうな顔をした。
「本当に魔法を使えるのね……いったい、どういうこと?」
「俺にとっては、それが当たり前なんだよ」
「なによ、それ。そんなことができる人がいるわけないじゃない。男のあなたが魔法を使えるなんて、できるわけないのに。わけのわからないことを言ってごまかすつもり?」
「でも、実際に魔法を使っただろう? なんなら、他の魔法も見せようか?」
「……」
「とまあ、こんなわけで、俺もそれなりに戦力になると思うんだよな。もちろん、エリゼも。だから、一人でがんばらないで、俺達のことも頼ってくれ」
「……ふんっ」
まだ心を開くまでには至らなかったらしく、アリーシャはこちらに背を向けて、スタスタと歩き出した。
「うーん」
エリゼが難しい顔をする。
「どうしたんだ?」
「私、アリーシャちゃんと仲良くなりたいんですけど……無理なんでしょうか?」
「らしくないな。そんな弱気なことを言うなんて」
「それは、でも……」
エリゼの頭をぽんぽんと撫でる。
「エリゼはエリゼらしく、まっすぐにぶつかればいいさ。そうすれば、きっとわかってもらえる」
「そうでしょうか……?」
「そうだよ」
「……はい、そうですね! 弱気になったらいけないですよね。私、がんばりますっ。ありがとうございます、お兄ちゃん」
「俺は大したことは言ってないさ」
「そんなことないです。お兄ちゃんのおかげで、私、迷いがなくなりました。えへへ、やっぱりお兄ちゃんはすごいですね。私のことをいつも助けてくれます」
エリゼが元気になったところで、俺達はアリーシャを追いかけた。
さて。
この先に、何が待っているのか?
試験の最中ではあるが、少しわくわくしてきた。
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