26話 パーティーを組もう
「死神に……?」
どういう意味だろう?
深い内容のように感じるのだけど……このまま問いかけても問題にならないだろうか?
「それはどういう意味なんですか?」
こちらが迷っている間に、エリゼが踏み込んでしまう。
度胸がいいというか……さすがというべきか……
「言葉の通りよ。あたしは死神に魅入られているの。だから……近づかない方がいいわ」
「えっと……よくわかりません。どうして近づいたらダメなんですか?」
「あたしに近づいた者は、皆……死ぬわ」
ゾッとするほど冷たい声で、アリーシャは淡々と告げた。
「家族も友人も……善人も悪人も……皆、死んだわ。あたしに近づいてくる人は、誰一人例外もなく、死んだ……だから、近づかないで」
……ウソを言っているようには見えない。
アリーシャがどのような経験をしてきたかわからないが、相当ひどい目に遭ってきたことは間違いないだろう。
瞳に生気がなかった。
「……話は終わり。どこかへ行ってくれる?」
「えっと……できることなら、もう少しお話をしたいんですけど」
冷たく突き放すようにアリーシャは言うけれど……
そんなことまるで気にしていないという様子で、エリゼが笑った。
「あなた、人の話を聞いていなかったの?」
「あなた、じゃなくて、エリゼって呼んでください」
「そういうことじゃなくて……ああもうっ」
再びアリーシャがこちらを見る。
「この子、どうにかしてくれない?」
「って、言われてもなあ……」
「あたしに近づかないで。本当に危ないの。あたしは死神に魅入られているから……だから、あたしに近づく人はみんな死んでしまうの。この子も死んでしまうわよ?」
「それはない」
アリーシャのことはなにもわからないけれど……
でも、そこは認めるわけにはいかず、俺はきっぱりと言い切った。
「な、なんで言い切ることができるの?」
「俺が守るからだ」
「お兄ちゃん……頼もしいです♪」
エリゼに危険が及ぶというのならば、俺が全力で排除しよう。
「あなたはいったい……」
アリーシャがさらに話を続けようとした時、
「一次試験を突破した者はこちらへ! 今から、二次試験を開始するっ」
試験官の声が響いた。
それで我に返った様子で、アリーシャは元の冷たい表情に戻る。
「……なんでもないわ。今のは忘れて」
「忘れて、と言われてもなあ……」
なかなかインパクトのある子だから、簡単に忘れることはできない。
アリーシャは、いったい何を抱えているのか?
どんな経験をしてきたのか?
アリーシャのことが気になり始めていた。
放っておくことができればいいんだけど……
こればかりは性分というか、そうすることができないんだよなあ。
「お兄ちゃん、アリーシャちゃん。行きましょう?」
「ほら、アリーシャも行こうぜ」
「……そうね」
ひとまず、今は二次試験を受けなくてはいけない。
俺達三人は話をそこで打ち切り、試験官が呼ぶ場所へ移動した。
――――――――――
学院の裏手にソレはあった。
小さな家一軒ほどの広さの建物。
その中に、地下に続く階段が見える。
その先は深く、光が届くことなく、闇が広がっている。
まるで、街の外にあるダンジョンみたいだ。
「ここが二次試験の会場だ」
試験官が説明を始めた。
「ここは、我々が作った初心者用の訓練ダンジョンだ。入学後は、ここを利用して色々な技術を学ぶことになる。魔法を学ぶだけでは、一流になることはできないからな」
「へえ、あれがダンジョンなんですね」
エリゼが目をキラキラさせていた。
ダンジョンという部分に心惹かれているみたいだ。
今まで、病弱でダンジョンなどに触れる機会がなかったからな。
こういうところに憧れていたところがあるのだろう。
「二次試験は、この訓練用のダンジョンを踏破することだ。訓練用とはいえ、中には我々が捕まえた魔物が解き放たれている。罠も用意してある。いざという時は我々が救助にあたるため死ぬようなことはないが、最悪、大怪我は覚悟してもらいたい」
「……」
物騒な言葉に、入学志願者達の顔がこわばる。
「それでも学校に入学したいというものは試験を受けろ。その覚悟がないものは、ここから立ち去るがいい」
試験官の言葉に、わずかに動揺した人はいたものの……
諦めて立ち去ろうとする人はいない。
俺はもちろん、エリゼもアリーシャも、まっすぐ前を向いていた。
そんな俺達を見て、試験官は満足そうに頷いた。
「その覚悟やよし! では、これより二次試験を開始する。訓練用とはいえ、中は本物と同じくらいの広さがある。そして、地下三階に置かれている証を取ってくることで、試験合格となる」
「質問、いいですか?」
俺は手を上げた。
「なんだね?」
「証とやらを取ってくればいいんですね? それで合格に?」
「そうだ。証を取ってきたものが合格者となる。ただ、甘く見るなよ? さっきも言ったように、中には魔物を解き放っている。それだけじゃない。罠も設置している。慎重に行動しなければ、すぐに行動不能に陥るだろう」
「なるほど……わかりました」
「他に質問のある者は?」
「えっと、じゃあ……」
試験官の言葉に反応する者がいくつか現れた。
皆、あたりさわりのない質問をして、試験官がそれに答える。
「他には?」
ある程度、質問と回答が繰り返されたところで、手を上げる者はいなくなった。
「よし。ならば、これより二次試験を開始するが……その前に、三人パーティーを組んでもらう」
「パーティーを?」
一人で受ける試験じゃないのか?
思わず疑問顔になってしまう。
「学院では集団行動が求められるからな。なので、試験もパーティーを組んで行動してもらい、問題がないかどうか確かめさせてもらう。誰か一人でも脱落者が出た場合、全員、不合格となるから気をつけるように」
新たにもたらされた情報に、志願者達に動揺が走る。
下手な相手とパーティーを組んだらデメリットしかない。
足を引っ張られるだけではなく、最悪、一緒に脱落してしまう。
信頼のできる相手と組めるかどうか。
ある意味で、そこが今回の試験の一番のポイントになるかもしれない。
「エリゼ。私と一緒に……」
「お兄ちゃん、一緒に組みましょう? 私、お兄ちゃんと一緒じゃないとイヤです。というか、お兄ちゃん以外と組むつもりはありませんから」
「そこまで言わんでも……まあ、いいんだけどな」
アラムがエリゼを誘おうとしたが……
エリゼはそれに気づくことすらなく、俺を誘ってきた。
さすがに、今のはちょっとだけ同情してしまう。
まあ、大事なエリゼをアラムなんかに預けるわけにはいかないから、これでいいのだけど。
「三人パーティーなんですよね?」
「ああ、そうだな。三人目はどうする? できれば、確かな相手と組みたいんだけど」
「うーん、そうですね……」
「三人目……」
「三人目……」
俺とエリゼが唸るような声をこぼして、考えて……
それから、兄妹揃って、とある方を向いた。
「な、なによ……?」
俺とエリゼの視線の先……
そこには、アリーシャがいた。
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