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25話 死神に魅入られた少女

 エリゼも無事に一次試験を突破した。

 エリゼが付いてきたことは予想外だけど……

 ここまできたら、どうせなら合格してほしい。

 一緒に授業を受けられるとしたら、それはそれで楽しそうだ。


 ただ……


「見ていたかしら、エリゼ? 私の活躍を」

「えっと……はい、一応」


 アラムも一次試験を突破していた。

 コイツは落ちても良かったんだけどな……


 まあ、仕方ないか。

 性格はともかく、魔法の腕はそれなりにある。

 最近は、毎日、母さんに稽古をつけてもらっているみたいだからな。


「これからは私の動きを参考にするといいわ。なんなら、稽古をつけてあげても……」

「えっと……すいません。私はお兄ちゃんと一緒の方がいいので」

「くっ……」


 すげなく振られてしまい、アラムがこちらを睨んできた。

 今のは、俺は関係ないだろ。

 八つ当たりはやめてほしい。


「……まあいいわ。また後で会いましょう」


 知り合いに声をかけられたらしく、アラムは見知らぬ女とこの場を離れた。

 俺とエリゼ、二人になる。


「あのあの……お兄ちゃん」

「うん?」

「ちょっと今更なことを聞きますけど……えっと、その……怒っていますか?」

「ん? なんのことだ?」

「その……勝手についてきたから、もしかしたら怒っているんじゃないか……って」

「驚きはしたけど別に怒ってはいないさ」

「そうですか……ほっ。よかったです。ひょっとしたら、怒られるんじゃないかと思いました」

「そんなことはしないさ。ただまあ、なんで着いてきたのか、ってところは気になるけど」

「えっと……お兄ちゃんと一緒にいたくて」

「……そんな理由?」

「そんな、じゃないですよ。私にとってはすごく大切なことなんです! お兄ちゃんと離れ離れになってしまうなんて、考えられませんから!」

「離れるって言っても、一生っていうわけじゃないし、数年だけだぞ?」

「数年『も』ですよ! お兄ちゃんがいない生活なんて、絶対に無理です! 私、お兄ちゃん欠乏症になって、どうにかなっちゃいますよ」


 なんだ、その怪しい病気は。

 でもまあ……

 兄冥利に尽きることを言ってくれる。


 懐かれているなあ、ということは自覚しているのだけど……

 まさか、ここまでなんて。

 うれしいにはうれしいのだけど、エリゼのブラコンっぷりがちょっと心配でもある。


「ところで、試験はあと一つなんですよね?」

「ああ。一次と二次。両方を突破した者が入学できるらしい。本来は、三次もあったらしいが……思っていた以上に数が絞れたらしいから、二次で終わりなんだってさ」


 さきほど、試験官がそんな説明をしていた。


「次の試験はなんでしょう? あまり難しくないものだといいんですが……文字の読み書きとかなら自信あります!」

「そんな試験ないだろ。魔力を計るためのものなんだから」

「ですよね……うぅ、ちょっと不安になってきました」

「大丈夫さ」


 不安そうな顔になるエリゼの頭を、ぽんぽんと撫でた。

 エリゼはくすぐったそうなうれしそうな、そんな顔になる。


「今のエリゼなら、どんな試験が来ても突破できるさ」

「そうでしょうか……?」

「俺の言葉が信じられないか?」

「いえ! お兄ちゃんの言葉なら、なんでも!」

「なら、信じてくれ。エリゼなら大丈夫だ」

「お兄ちゃん……」

「せっかくだから、一緒に合格しような」

「はいっ! 一緒に合格して、これからもお兄ちゃんと一緒に過ごします!」


 よし。

 不安が吹き飛んで、エリゼが元気になった。

 やっぱり、ウチの妹は笑顔の方がいい。


「……あれ?」


 ふと、エリゼが明後日の方向を見た。


「どうしたんだ?」

「あの子、どうしたんでしょうか?」


 エリゼの視線を追いかけると、小さな女の子が見えた。

 歳は俺と同じくらい……たぶん、12歳前後だろう。

 俺達のような子供は少ないので、目立っている。

 でも、それだけじゃなくて……


 一目で印象に残るような外見をしていた。

 その理由は髪だ。

 燃えるように赤い色をしてる。

 真紅の髪は長く、リボンで束ねていた。

 そして、同じく赤い瞳。

 意思が強そうな感じで、凛とした雰囲気をまとっている。


 服も赤い。

 赤いブラウスにスカート。

 それにマント。

 剣士なのか、剣を手にしていた。


 全身を赤で統一した女の子は、人の輪から外れていて、一人、ぽつんと佇んでいた。

 ここにいるということは、一次試験を突破した受験者だと思うんだけど……


「確かに変だな」


 ここは、エレニウム魔法学院の入学試験の場だ。

 剣士が門を叩くようなところではない。


「もしかして、魔法剣士なのかな? だとしたら、納得がいくが……」


 ちなみに、魔法剣士というのは、名前の通り魔法と剣を使う者を指す。

 魔法も剣も得意……近接も遠距離も両方こなせるという、オールラウンダーだ。

 どちらも得意、なんていう人はなかなかいないので、けっこう貴重だったりする。


「それも気になりますが……」

「うん? エリゼは他に気になることが?」

「えっと……うまく言えないんですが、なんとなく、でしょうか? 目が離せないというか放っておけないというか……とにかく気になってしまって」


 エリゼって、たまに勘が鋭くなるんだよな。

 これくらいの年頃の女の子には、たまに見られることだ。

 あの女の子にはなにかあるのかもしれない。


 とはいえ、いきなり話しかけても相手にされない可能性もあるし、警戒されてしまうかも。

 どうするべきか……?


 なとど迷っていたら、


「あの……」


 エリゼはとんでもない行動力を発揮して、女の子のところまで歩き、話しかけていた。

 止める間もない。

 こうなると、放っておくわけにはいかない。

 俺もエリゼと女の子のところへ向かう。


「……なに?」


 女の子はわずかに顔を動かして、暗い表情で答えた。


「はじめまして。私、エリゼっていいます。エリゼ・ストラインです」

「そう」

「……」

「……」

「ダメですよ」

「え? なにが?」


 女の子は適当にあしらおうとしたみたいだけど、エリゼが食らいついた。

 というか、なにがダメなんだ?


「挨拶をしたら、ちゃんと応えないとダメなんですよ」


 今のは挨拶じゃなくて、自己紹介だと思う。

 まあ、エリゼの中ではどちらも同じなんだろう。

 同年代の女の子相手には、エリゼはわりとガツガツといくことがあるんだよな。


「……こんにちは」

「はい、こんにちは」

「これでいい?」

「まだダメですよ。あなたの名前を聞いていませんから」

「ねえ、この子はなに?」


 女の子の視線がこちらに向いた。

 疲れたような顔をしている。


「俺の妹」

「そういうことを聞いてるんじゃないんだけど……って、もしかしてあなたも受験生? 妹さんの付き添いじゃなくて?」

「ああ、そうだよ。レン、っていうんだ。よろしくな」

「あなた、男じゃない」


 女の子は、なんでここにいるの、というような顔をしていた。

 どうやら、俺の試合を見ていないらしい。

 まあ、俺とエリゼ、両方の名前も知らないから、そうなのだろうとは思っていたが。


「そうだけど、なんでか知らないけど魔法が使えるんだ。だから、ここを受験することにした」

「……ウソみたいな話だけど、ウソはついていないみたいね」

「あっさりと信じるんだな」

「一応、人を見る目はあるつもりだから」


 納得してくれたみたいでなによりだ。


「まあ、エリゼのことなら諦めてくれ。たまに強引になるんだ、エリゼは」

「そうなのね……はぁ」

「えっと……お名前は?」


 エリゼは笑顔で、もう一度、尋ねた。

 それに根負けした様子で、女の子が応える。


「あたしは、アリーシャ・フォルツよ」

「アリーシャちゃん……はい、よろしくおねがいします」

「ちゃん、って……」

「あれ? ひょっとして年上でしたか?」

「あたしは12歳よ。あなたは?」

「わたしは10歳です。でもでも、2歳くらい、誤差の範囲内ですよね。なので、やっぱり、アリーシャちゃん、でいきます。よろしくおねがいします」

「よろしくするつもりはないんだけど……」

「アリーシャちゃんも受験者なんですよね? ここに残っているってことは、一次は合格したんですか?」

「まだ話が続くのね……はぁ」


 アリーシャは諦めた様子で吐息をこぼして、淡々と質問に答える。


「察しの通り、あたしも受験者よ。一次はもちろん突破したわ。これでいい?」

「そうなんですね……すごいですね。その剣、もしかして、アリーシャちゃんは魔法剣士なんですか?」

「そうだけど……」

「剣も魔法も使えるなんてすごいですね。私、まだまだ魔法をうまく扱えなくて……うらやましいというか、尊敬します」


 エリゼはキラキラとした眼差しを向ける。

 アリーシャは……そんなエリゼを見て、苦い顔をした。


「……やめて」

「え?」

「そんな顔をしないで。あたしなんて、大したことないし……生きているだけで迷惑をかける存在なんだから」

「それはどういう意味なんだ?」


 その言葉が気になり、ついつい横から口を挟んでしまう。


 アリーシャは自嘲めいた表情を浮かべて……

 冷たい声で言う。


「あたしは死神に魅入られているの」

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