2話 男は魔法が使えない!?
結論から言うと、俺は転生に成功した。
俺は、500年後の未来の世界へ。
名門貴族、ストライン家の長男……
レン・ストラインとして、第二の人生を歩み始めた。
俺はすくすくと成長して……
やがて、8歳になった。
それまでの間にあれこれと試していて……
力も記憶も完全に引き継いでいることを確認した。
転生魔法は、文句のつけようがないくらい、完璧に成功した。
計画通りだ。
これならば、前世以上の力を身につけることができる。
魔神に打ち勝つだけの力を手に入れることができる。
そう思っていたのだけど……
ここに来て、おや? と思うような出来事に遭遇することになる。
――――――――――
「445……446……447……」
自室で筋力トレーニングに励む。
まずは、腕立て伏せ500回。
それから、腹筋500回。
それから……
回数は年齢に応じて変動しているものの……
体を自由に動かせるようになってから、毎日欠かさず、訓練を続けている。
強くなるためには、強力な魔法を覚えるだけではなくて、強靭な肉体も必要だからな。
それに、子供のうちに鍛えておけば、より高いところへ上り詰めることができる。
なので、毎日毎日、コツコツと訓練を繰り返している、というわけだ。
「ふう」
ワンセットが終わり、椅子に座る。
タオルで汗を拭きながら、疲れた体を休める。
「よし、次は魔力トレーニングだ」
ほどよく体が休まったところで、次の行動へ移る。
椅子に座ったまま、手を前に差し出した。
手の平を上に向けて、魔力を集中。
「光<ライト>」
光源を生み出す魔法を使用した。
手の平に、拳大ほどの光の球が生まれる。
「……」
魔力を集中させて、光の球をそのままの状態で維持する。
今使っている魔法は、初歩の初歩のものなのだけど……
どのような魔法であれ、一定の状態をずっと維持するということは難しい。
光の球を顕現させるだけで魔力は消費され続けるし……
集中力が途切れると、すぐに光の球は消えてしまう。
なので、こうして魔法を使い続ける、という行為は魔力トレーニングに最適なのだ。
「っと」
コンコン、と扉がノックされる音が響いた。
それに反応してしまい、光の球が消滅してしまう。
この程度で集中力を切らしてしまうなんて、俺もまだまだだな。
それはともかく、誰だろう?
「はい?」
「レン、お勉強の時間ですよ」
母さんの声だ。
「あ、もうそんな時間ですか」
俺は喜んで扉を開けて、母さんを迎えた。
エレン・ストライン。
それが母さんの名前だ。
優しく、温かい笑みをいつも浮かべているような人だ。
生粋の貴族で、大切に育てられたと聞く。
ただ、世間知らずというわけではなくて、とても聡明な人だ。
知識があるだけではなくて、物の考え方が優れている。
そんな母さんは、俺の家庭教師役を務めている。
普通、母さんくらいの貴族になると、人を雇うものなのだけど……
母さんは、自分の手で子供にしっかりとした知識を教えたい、という考えの持ち主なので、家庭教師役を務めているというわけだ。
「さあ、今日は歴史の勉強からにしましょう」
「はい、わかりました」
母さんと並んで椅子に座り、この国の歴史が書かれた本を開く。
歴史書というほど固いものではなくて、子供向けの絵本のようなものだ。
それでも、俺にはとても興味深い。
500年も経てば、色々と変わるわけで……
あれから、どのような変化が起きたのか? 今、この国はどういう形をとっているのか?
それらを知るのはとても重要なことだ。
「……と、いうわけなのですよ」
「なるほど」
歴史の勉強を始めたのは、ついこの前だ。
それでも、母さんのわかりやすい説明で、この国の歴史や、周辺国家の大体の概要などを知ることができた。
時間のある時にでも復習をして、情報を整理しておこう。
「さて……次はどの勉強をしましょうか」
「母さん。俺、魔法の勉強がしたいです!」
独自の魔力トレーニングを行っているものの……
今まで、この時代の魔法理論に触れたことはない。
子供が魔法書を読む機会なんて、まずないからな。
母さんも俺に魔法を教えるつもりはなかったらしく、向こうから与えてくれることはなかった。
日々、トレーニングを重ねて……そして、力と記憶を引き継いでいることを確認できた。
今の体にも、ある程度、慣れてきた。
この先のことを考えると、そろそろ、新しい魔法理論を取り込み、次のステージに進んでおきたいところだ。
「魔法、ですか……それは……」
なぜか、母さんは難しい顔をする。
8歳の子供に魔法は早いということだろうか?
「レン。ちょっといいか……って、なんだ、母さんと勉強中だったのか」
扉が開いて、父さんが部屋に入ってきた。
グレアム・ストライン。
熊のように屈強な体をした大男が、俺の父さんだ。
元冒険者で、母さんのところには婿入りした。
その性格は大雑把で大胆。
ただ、デリカシーというものに大いに欠ける。
子供の部屋にノックもしないでいきなり入ってきたところを見れば、わかってもらえると思う。
「俺に何か用ですか、父さん」
「ああ、いや。大した用事じゃないんだ。たまには釣りでもどうかと思ったんだが……勉強中みたいだな」
「すいません。釣りは興味ありますが、勉強はしっかりとしておきたいので……」
「いや、構わないさ。レンの場合は、しっかりと知識を身に着けた方がいいからな。勉強することは、父さんも賛成だ」
俺の場合は?
どういう意味だろう?
「ちなみに、今はなにを勉強しているんだ?」
「さっきまで歴史の勉強を。それで、次は魔法の勉強をしたいと、母さんにお願いしていたところです」
「魔法の……?」
母さんと同じように、父さんも難しい顔になる。
いったい、どうしたというのだろう?
俺が魔法を学ぶと、なにか不都合でもあるのだろうか?
「母さん。そろそろ、レンに真実を教えるべきじゃないのか?」
「ですが……」
「後になればなるほど、問題が大きくなる。今のうちに話をして、今後のことを考えておいた方がいい。そう思わないか?」
「……そうですね、わかりました」
二人ともやけに深刻な顔をしている。
なんだ? 離婚でもするのか?
それはないか。
この二人、それなりの歳を重ねているのに、未だに新婚みたいに仲がいいからな。
どれくらい仲がいいかというと、新しい家族が増えるかもしれないと思うほどに仲がいい。
まあ、仲がいいのは良いことだ。
それよりも、真実とはなんだろう?
「レン、落ち着いて聞いてくれ」
父さんが真面目な顔をして、静かに語りかけてきた。
「お前は魔法を勉強したいのか?」
「はいっ、勉強したいです!」
「そうか……ゆくゆくは魔法使いになりたいのか? それとも、夢は大きく賢者か?」
「えっと、まあ、そんなところですね」
元賢者なんてことは言えない。
「……すまないな」
「え?」
なぜか謝られた。
「レン……お前は、魔法を使うことはできないんだ」
「どういうことですか?」
「魔法という特殊技能は、選ばれた人のみが使うことができる……すなわち、女性のみが使えるんだ。選ばれた存在ではない男は使うことはできないんだ」
「はい?」
父さんは何を言っているんだろう?
魔法は女性だけが使うことができる?
男は扱うことはできない?
そんなことはない。
現に、俺は普通に魔法を使えているじゃないか。
冗談なのだろうか……?
しかし、父さんの顔は真面目だ。
母さんに至っては、沈痛な表情を浮かべている。
「男は魔法を使うことはできないんだ……どんなことをしても、絶対に使うことはできない。現に、魔法を扱うことができた男というものは存在しない」
「でも、落ち込まないでちょうだい。魔法が使えないとしても、人生はそれで終わるわけじゃないのだから」
「そうだ、母さんの言うとおりだ。魔法以外の道を目指せばいい。剣士とか弓士とか……色々あるからな。まあ、魔法の力には遠く及ばないが」
「あなた! レンに未練を与えるようなことを言わないでください」
「す、すまん。つい……」
「とにかく……なにかあれば、私達が相談するように。わかりましたか?」
誰にでも扱えたはずの魔法が、なぜか、女性しか使うことができないと言われている。
いったい、どういうことだ???
次は、明日12時に更新します。
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
よろしくおねがいします!