16話 ドラゴンスレイヤー
その後……
なぜ俺がダンジョンにいるのかを説明して、同行を申し出た。
最初、父さんは反対したけれど……
俺に助けられたところを突かれると何も言えず、最終的に、同行を許可してくれた。
最初からこうしていればよかったのかもしれない。
なにはともあれ。
レッドハートの採取を目指して、全員で地下五階を目指した。
以降は順調に進むことができた。
そして……
「見つけたぞ!」
父さんが歓喜の声をあげた。
その視線の先に、赤い花が咲いている。
あれがレッドハートなのだろう。
「これでエリゼが助かるんですね」
「ああ、そうだ。この薬草があれば、オロゾ病を治療することができる」
父さんはうれしそうな顔をして、レッドハートをそっと摘んだ。
アラムもうれしそうな顔をしている。
たぶん、俺も似たような顔をしているだろう。
よかった。
これでエリゼを失わないで済む。
……安堵の吐息がこぼれそうになった時だった。
「グルァアアアアアッ!!!」
通路の奥からおぞましい唸り声が聞こえてきた。
それと同時に、ズシンズシンと重い足音が近づいてくる。
やがて、姿を現したのは……
「ど、どどど……ドラゴンっ!!!?」
アラムが悲鳴をあげた。
父さん達は悲鳴こそあげていないものの、おもいきり顔をひきつらせている。
「バカな!? どうして、こんなところにドラゴンが……ここは、まだ地下5階なんだぞ!?」
「ぜ、絶対にないとは言い切れませんよ。獲物を追いかけてきたとか、他の冒険者を追いかけてきたとか……そういう理由で、下層の魔物が上層に現れることは、稀にですがあることですから」
「くっ、だからといって、どうしてこのようなタイミングで……!」
父さんと冒険者達は顔を蒼白にしていた。
一方の俺は、そんな彼らを不思議そうに見ていた。
「えっと……父さん。何をそんなに慌てているんですか?」
「レンはあいつが見えないの? ドラゴンよ、ドラゴン! ああもうっ、私達はもう終わりよっ!!!」
なにやらアラムが発狂しているが、無視無視。
「レン……動けるか?」
「はい? そりゃまあ、怪我なんてしてませんから」
「なら、アラムを連れて逃げてくれ。ここは、俺が食い止める!」
「そんな、大将!」
「無謀ですよ!」
「無謀だろうと無理だろうと、やらねばならんのだ!」
父さんと冒険者達が、そんなやりとりを交わしていた。
まるで、この世に別れを告げるみたいだ。
不思議だ。
どうしてそこまで慌てているのだろう?
相手は、ただのドラゴンじゃないか。
「あのー……父さん? なんで、そんなことをするんですか?」
「なんで、って……そうでもしないと、逃げ切れないだろう」
「逃げる必要が? 相手は、ただのドラゴンですよ? 見たところ、グリーンドラゴンだ。エンシェントドラゴンとかカオスドラゴンだったら、慌てる気持ちもわかりますけど……ただのでかいトカゲ相手に、そこまでうろたえなくても」
「で、でかいトカゲ……?」
父さんがぽかんとした。
他の冒険者達もぽかんとした。
なんだ?
俺、何かおかしいことを言っただろうか?
グリーンドラゴンなんて、大した敵じゃないだろう?
前世の俺ならば、一撃で終わらせることができる。
俺じゃなくても、きちんと修練を積んだ者ならば、苦戦するようなことはない。
父さん達は、いったいなぜ、そんなに慌てているのだろうか?
難易度でいうのならば、さっきのゾンビの群れの方がよっぽど厄介だ。
ゾンビ達は複数いる上に、的確に急所を潰さないと倒せないからな。
その点、ドラゴンは一体だけだから、大した問題にならない。
「レン、どうしてしまったんだ? 恐怖のあまりおかしくなってしまったのか?」
「いやいや、人を勝手におかしい人扱いしないでくださいよ」
「しかし……」
「あっ、そういうことですか」
なるほど、父さんの考えを理解した。
父さんは、ドラゴンを敵視しているわけじゃない。
ただ単に、レッドハートのことを心配しているんだ。
ブレスでも吐かれたら、せっかくのレッドハートがダメになってしまうかもしれないからな。
「なるほど、父さんの考えはわかりました」
「そうか、わかってくれたか。なら、レン達は先に……」
「そういうことなら、俺がコイツの相手をしておきますね」
「は?」
父さんの目が点になった。
冒険者達の目も点になった。
アラムは……発狂するあまり、頭の血管でも切れたのか気絶していた。
「なにをバカなことを!? ドラゴンの相手をするなんて……はっ!? まさか、レン……そういうこと、なのか? お前も、エリゼのために命を賭けると……? そういう覚悟を持って……」
うん?
父さんは何を言っているんだろう?
なにか、ものすごい勘違いをしているような気がした。
「……わかった。レンも男だ。そこまでの覚悟を持っているのならば、もはや何も言わない」
「はあ」
「本来ならば、ドラゴンを食い止めるのは私がやるべきことなのだが……そこまでの覚悟を決めているのならば、レンに任せよう。武器のない私では、大した時間を稼ぐことはできないだろうからな……情けない父親だ。後は任せる。しかし! これだけは約束するんだ。絶対に生きて帰ってくる、と」
「そりゃ、生きて帰りますよ。帰って、エリゼをきちんと治してあげないといけませんからね」
「こんな時でも強がりを言えるとは……お前は、私よりも強いのだな。レン、お前という息子を誇りに思うぞ」
父さんは気絶しているアラムを背負い、冒険者達に声をかける。
「いくぞっ!」
「し、しかし……いいんですか?」
「構わない。私の息子も男だ。覚悟は決めているだろう」
「……わかりました」
冒険者達が、なにやら神妙な顔で頷いた。
そして、泣きそうな顔で俺の頭を撫でてくる。
「君はすごいな……そんな小さな体なのに、俺達の誰よりも大きい」
「えっと……意味がよくわからないんですが」
「ふっ、気にするな、っていうことか。心もできている。君という子を失うなんて、なんて損失になるんだろう……己の無力が恨めしい」
「えっと……とりあえず、早く行った方がいいですよ? 巻き込まれるから」
「ああ……君のその心意気、決して無駄にはしない」
「レン……もう一度言うぞ。お前は、私の誇りだ」
父さん達は、なにかをぐっと堪えるような顔をして……
そして、走り出した。
その背中に手を振り、見送る。
「すぐに追いつきますから、また後でー」
父さん達の背中が見えなくなったところで、ドラゴンと対峙する。
「さてと……それじゃあ、やるとするか。ちょうどいいから、俺の魔法の実験に付き合ってもらうぞ?」
――――――――――
背後から轟音が聞こえてきた。
戦闘が始まったのだろう。
グレアムは、思わず足を止めて、戻りたいという気持ちに駆られる。
しかし、心を鬼にして我慢した。
ここで戻ったりすれば、レンの思いを無駄にすることになる。
また、今の自分はメイン武装を失い、大した力になれない。
レンの力になるどころか、足を引っ張ってしまうだろう。
「くそっ!」
やりきれない思いを抱えながら、グレアムはダンジョンの出口に向かい、駆けた。
走り、走り、走り……
そして、入口に戻る。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
入口についたところでアラムをおろして、膝に手をついた。
もう安全だ。
ここまで逃げれば、そうそう簡単に追いつかれることはない。
「どうしたんですか?」
グレアムの様子に気がついて、門番が怪訝そうに声をかけてきた。
そんな門番に、グレアムは慌てて声をかける。
「地下五階にドラゴンが出た!」
「な、なんですって!?」
「急いで討伐隊を送ってくれ! あと、救助部隊を! まだ、あそこにはレンが……」
「呼びました?」
「俺の息子が残って……は?」
グレアムは、ゆっくり振り返る。
そこには、煤などで少し汚れたレンの姿があった。
「レン……? お前、どうして……ドラゴンは……あ、あぁ……なんとか逃げることに成功したのか。よかった……」
「いえ、逃げてなんかいませんよ?」
「え?」
「普通に倒してきましたけど……なんかまずかったですか?」
「え? 倒した?」
「はい」
「ドラゴンを?」
「はい」
「この短時間で?」
「はい」
「………………」
グレアムは、たっぷりと十数秒、沈黙して……
「色々とおかしいだろおおおおおぉっ!!!!!?」
心の叫びを響かせるのだった。
――――――――――
……後でわかったことなのだけど。
魔法が衰退しているということは、個人個人の力も衰えていることになる。
なので、昔は驚異ではなかったドラゴンも、今の時代では十分な脅威になりえるらしい。
知らなかったとはいえ、俺は、子供がドラゴンを倒すというありえないことをしてしまい……
父さん達に口止めをしておかなければ、変に目立ってしまうところだった。
反省。
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