138話 これから
「……うん?」
カーテンの隙間から差し込む朝日で目が覚めた。
ゆっくりと起き上がろうとして……起き上がることができない。
「うわ」
エリゼ、アリーシャ、フィア、シャルロッテ、メルが俺を拘束するかのように抱きついていた。
昨日、お泊り会をして……
そのまま、みんなで寝たのだけど、なんで俺のベッドに?
彼女たちを起こさないようにして、俺は拘束を解いて、ベッドから抜け出した。
リビングに移動して、水を一杯飲む。
それからバルコニーに移動して、朝日を体いっぱいに浴びた。
「ふぅ」
世界は変わらずに綺麗だ。
「……この景色を守ることができたんだよな。なんか、未だに実感が湧いてこないな」
アニスとの戦いから、早くも一ヶ月が過ぎようとしていた。
アニスを倒した後、人形兵器たちは活動を停止。
俺たち人類は勝利を収めた。
あれだけの騒ぎとなると、裏舞台でこっそりしておくことは難しく……
俺たちは表舞台に引っ張りだされて、あれこれと事情聴取を受けることに。
ただ、アニスを倒した功績は認められているため、事件の犯人扱いをされているわけじゃない。
どうしてあんなことができたのか?
どのようにすれば、魔神なんてものを倒すことができたのか?
そんな感じで、俺たちの功績を認めつつ、それに対する質問が多かったような気がする。
そして……
一ヶ月ほどが経ち、ようやく事件は落ち着いた。
俺たちは普通の生活を取り戻して、そのお祝いとして、お泊り会を開いた……というわけだ。
「うーん……やっぱり、日常が一番だなあ」
転生して、色々なことがあったけど……
とても忙しい日々だった。
こうしてのんびりできる日が、今更ではあるが、とても貴重だということに気がついた。
「……これからどうしようかな」
俺は、魔神を倒すために転生して、この時代に生まれた。
そのためだけに生きてきた。
しかし、魔神を倒した今、その目的は失われた。
大げさかもしれないけど、生きる目的がなくなった。
「これから、なにをすればいいんだろう?」
「なにをしてもいいと思いますよ」
「エリゼ」
振り返ると妹の姿が。
寝間着姿のままなので、さきほど起きたばかりなのかもしれない。
優しい笑みを浮かべながら、俺の隣に並ぶ。
「おはようございます、お兄ちゃん」
「おはよう、エリゼ」
にっこりと笑みを交わした。
こころなしか、エリゼの機嫌がいいように見える。
「なにかいいことでもあったのか?」
「はい。朝一番に、お兄ちゃんの顔を見ることができました」
「……みんなは?」
「同性はカウントしません」
謎の乙女理論だった。
「それで、今の話ですけど……」
「聞いていたのか?」
「はい。でも、ちょっとだけですし、よくわからないですけど……お兄ちゃんは、これからなにをしていいか迷っているんですか?」
「うーん……まあ、そうだな。ちょっとした目的があったんだけど、それを達成することができて……それで、これからどうしよう、っていう感じかな」
「なら……私と一緒に見つけましょう」
「エリゼと一緒に?」
「はい。私のやりたいことは、お兄ちゃんのやりたいことです。だから、私はお兄ちゃんのやりたいことを見つけるお手伝いをします」
妹に懐かれているという自覚はあったけれど、少々行き過ぎているような?
でもまあ……嫌われるよりはいいか。
お兄ちゃんなんか嫌い。
なんて言うエリゼを思い浮かべるだけで、死にたくなるような気分になるからな。
「それ、あたしも手伝うわ」
「ふふーんっ、このシャルロッテ様も手伝ってあげる!」
「あ、あのあのっ、わたしも……がんばります!」
「もちろん、ボクも力になるよ」
気がつけば、みんなが起きて、押しかけてきた。
バルコニーはそれほど広くないから、ぎゅうぎゅうだ。
「えっと……狭いんだけど」
「お兄ちゃんは、かわいい妹たちに囲まれているんだから、喜べばいいんです」
みんなに影響されているのか、最近のエリゼは、ちょっと性格が変わっているような気がした。
「……俺、やりたいこと見つかるかな?」
「きっと見つかりますよ」
「そうかな……」
「もしも見つからなかったら、その時は、私がお兄ちゃんのやりたいことを代わりに見つけます」
「え、なにそれ。俺の未来、エリゼに決められるの?」
「お兄ちゃんは、私と兄妹仲良く、ずっと一緒に暮らすんです」
アラムがカウントされていない。
哀れな。
「いいえ。レンはあたしと一緒に、武者修行の旅に出るの」
「超絶かわいいシャルロッテちゃんの家に来ればいいわ」
「え、えと……ゆっくりと一緒に過ごせればいいなあ、なんて」
「せっかくだから、今の世界を見るために、世界一周旅行なんてしてみる?」
みんなが好き勝手にあれこれと言う。
でも……どれも悪くない。
アリーシャと旅をしてもいいし。
シャルロッテの家に転がり込むのも楽しそうだ。
フィアとのんびりした時間を満喫して、癒やされたくもある。
メルと世界一周は、いい時間潰しになるだろう。
「どうするんですか、お兄ちゃん?」
「そうだなあ」
みんなの言葉を受けて、ふと、気がついた。
今の俺は目的をなくした状態ではあるが……
言い換えれば、なんでもできる。
なにをしてもいい、ということか。
そのことをみんなが教えてくれた。
気づかせてくれた。
「ひとまず……」
これからなにをするのか?
どんな人生を送るのか?
それはまだわからない。
ただ、一つ言えることは、みんなと一緒にいたいということだ。
願わくば、
「とりあえず、みんなで朝ごはんを食べようか」
この楽しい時間がいつまでも続きますように。
ここで終わりとなります。
全138話、お付き合いいただいた方、ありがとうございます。
ぶっちゃけてしまうと、途中から迷走しているところがあり……
自分の中で、なかなかに難しい位置の作品になってしまいました。
それでも最後は、なんとか、当初、思い描いた通りの着地にたどり着けたような気がします。
それなりに思い出深い作品となりました。
ありがとうございました。




