133話 最後の決戦・5
「天の雷」
アニスが、一言、そうつぶやいた。
たったそれだけの行為で、極大の雷撃嵐が吹き荒れた。
戦場のあちらこちらを紫電が駆け抜けて、逃げる場所なく、全てを埋め尽くしていく。
「ぐっ!」
俺はとっさに魔法障壁を展開した。
三重にした、かなり強固な障壁だ。
それなのに、アニスの魔法を完全に防ぐことができない。
何度か雷撃が突き抜けて、体に衝撃と痛みを与えてくる。
意識が飛びそうになるけれど、かといって、障壁を解除するわけにはいかない。
そんなことをしたら、即、リタイアだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
なんとか魔法を耐えしのぐことに成功した。
成功はしたが……他のみんなは?
慌てて周囲を見ると……
「な、なによ、今の……あんなとんでもない魔法を使えるわけ?」
「あう……シャルロッテさま……」
みんな、フラフラになりつつも、なんとか耐えていた。
よかった。
これならまだ、なんとか……
「続けていくぞ」
死刑を告げる断罪者のように、アニスが無慈悲に言う。
「死の嵐」
巨大な竜巻が顕現した。
全てを飲み込み、食らい付くし、荒れ狂う。
その暴威から逃れることはできない。
今度はどうすることもできず、アニスの魔法が直撃した。
小さな体が宙を舞い……
激流のような風にもみくちゃにされる。
それでもまだ意識を保っていられたのは幸いか。
あるいは、さっさと気絶するなりして、意識を手放すことができず、痛みと恐怖を味わい続けたのは不幸か。
魔法の効果が終わり……
最後に地面に叩きつけられる。
「ぐっ、あ……!?」
たった二発。
それだけの魔法で、俺たちは全員、地面に伏していた。
なんだ、これは?
いったい、どういうことなんだ?
相手は魔神。
そして、始祖魔法使い。
強いとは思っていた、とてつもない相手だと認識はしていた。
でも、まさか、これほどまでなんて。
想像の遥か上を行く。
「まさか、これで終わりか?」
「そんなわけ……ない、だろう!」
痛みの走る体に鞭を打ち、無理矢理立ち上がる。
足は震えていて、手の感覚はない。
それでも不敵に笑ってみせた。
もはや単なる意地だ。
「そうだ、それでいい。もっと私を楽しませろ。さあ、戦うぞ。殺し合うぞ。血を流しあうぞ。それこそが、私の目的。生きる意味なのだから」
「お前は……本当に、なんなんだ?」
戦うことが生きる意味なんて、そんなものは人に限らず、いない。
食べるために戦う。
己の領土を守るために戦う。
子孫を残すために戦う。
そういう意味で、闘争を繰り広げる生き物はたくさんいる。
でも、戦うために戦う、なんてことを言い出したヤツは今までにいない。
コイツが初めてだ。
いったい、なにを考えているのか?
なにを思い、力を振るっているのか?
ここに来て俺は、初めてアニスという個人に対する興味を覚えた。
「それを問い、理解して、どうするつもりだ?」
「わからないけどさ……でも、気になるんだよ。知らずにはいられないというか、今までが知らなさすぎたというか……だから、教えてくれないか? アニス……お前の戦う意味を」
「かまわない。そうすることで、お前の迷いを取り除き、戦いに集中できるというのならば」
アニスはゆっくりと語る。
戦うために戦う。
その理由を口にする。
「私の生きる目的は、戦うこと。なぜ、そういう答えにたどり着いたかというと……私が兵器だからだ」




