131話 最後の決戦・3
「有象無象という言葉は取り消そう」
己が傷つけられたというのに、アニスは実に楽しそうに笑った。
痛みを快楽に変えているかのように、愉悦さえ滲んでいる。
「さあ、もっとやりあおうではないか」
アニスの攻撃がアリーシャを襲う。
火、水、土、風……ありとあらゆる属性の魔法が同時に放たれて、アリーシャを襲う。
その一つ一つが第5位以上の威力がありそうだ。
中には、第3位に匹敵するものもあると思う。
アニスにとっては、ただの牽制にすぎないのだろう。
そんなものを連発できるなんて……さすが、始祖魔法使い。
さすが、魔神。
「くっ!」
アリーシャの吸収も、さすがに、複数の魔法を同時に相手することはできないらしい。
右に左にステップを踏んで避けるが、次第に追いつかれていく。
「アリーシャちゃん!」
「アリーシャ!」
エリゼとシャルロッテが加わり、防御を助ける。
「次はボクらの番だね」
「ああ!」
メルと一緒に前に出る。
「み、みなさんに加護を!」
フィアを中心に魔法陣が広がる。
その光に包まれると、体が軽くなるような気がした。
これがフィアの新しい力だ。
身体能力の向上、魔法力のアップ。
さらに、物理、魔法に対する耐性もアップという、とんでもない魔法だ。
いや。魔法というよりは結界かな?
フィアを中心として、半径30メートルに展開される。
その対象は、もちろん、俺たちだけ。
あれもこれもと、色々と欲張った魔法で、とんでもない効果なのだけど……
それなりに欠点もある。
まずは、使用中はフィアは一切動けないということ。
それと、完全に無防備になるということ。
まあ、今回に限り、無防備になるという点は心配していない。
バトルマニアのアニスのことだ。
わざわざ動けないフィアを狙うことはないと思うし、俺たちの力を底上げしてくれるなら、それは望むところだろう。
最後に、使用中は魔力が急激な勢いで減るという問題もある。
何度か実験してもらったところ、保って5分。
なので、できるなら、この5分で勝負を決めたい。
魔神相手に贅沢かもしれないが……
それくらいの覚悟がないとダメだろう。
「倍増<ダブル>」
最初はメルが動いた。
威力を倍増させる魔法を使用する。
単純な魔法ではあるが、威力は抜群だ。
シンプルな分、術式は簡単で魔力の消費も少ない。
ぶっちゃけ、こんな魔法を開発したメルのことが妬ましい。
「神撃<ジ・エンド>!」
威力を倍増させた状態で、メルは特大の一撃を放つ。
第1位の魔法だ。
俺でも、きちんとした準備と鍛錬がなければ使うことができない。
ガッ!!!
瞬間、光があふれた。
世界が白に染まり、音が消える。
この極光で全てを薙ぎ払い、全てを浄化して、全てを消す。
それが、第1位の魔法……『神撃<ジ・エンド>』だ。
これだけの威力。
これだけの破壊力。
いくらアニスでも、無事でいられるとは思わない。
普通に考えて、これで終わりだろう。
でも、油断はできない。
相手は始祖魔法使いであり、魔神なのだ。
こちらの常識が通用しないと思って、問題はない。
だから、念を押しておくことにした。




