表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/138

126話 前夜

 ……瞬く間に時間が流れた。


 アニスに宣戦布告をされた後、俺はみんなを集めて、その足でクラリッサさんに報告をしに行った。

 俺の報告を受けたクラリッサさんは、最初は半信半疑という様子で、微妙な反応を見せていた。


 しかし、最悪の場合は、アニスが攻めてきて国が……いや、世界が滅びるかもしれない。

 そのリスクを無視することはできず、最終的にクラリッサさんは動いてくれた。


 おかげさまで国も動いてくれた。

 クラリッサさんがうまいことごまかしてくれたらしく、大規模な魔物の群れが迫っている、という体で迎撃体勢が整えられることになった。

 同時に民の避難も行われた。

 戦争などの有事に備えて建設されたシェルターに人々が避難して、今、街は静まり返っていた。


「これが嵐の前の静けさ、っていうやつか? ……ちょっと違うか」


 そんな独り言をこぼしながら、俺は、屋敷の二階から街を眺めていた。


 ここはシャルロッテの実家……クラリッサさんの屋敷だ。

 いよいよアニスとの開戦が明日に迫り、俺達は、クラリッサさんの屋敷で待機することになった。

 この屋敷は、有事の際は軍事拠点として利用されるらしく、明日の戦いはここが本拠地となる予定だ。


 国の騎士や宮廷魔法使いなど、たくさんの人がこの屋敷、あるいは周辺の建物に集まっている。

 ただ、いずれも緊張感はあまりない。

 まあ、仕方ない。

 突然、大規模な戦争が起きるかもしれないと言われても、そんな予兆は欠片もなかったため、納得する方が難しいだろう。


 騎士や宮廷魔法使いと一緒にいても、厄介なことになるだけだ。

 傍から見れば、俺達は普通の学生だからな。

 なので、俺達は屋敷の一室を借りて、そこで待機していた。


 部屋は広く、全員が寝泊まりできるスペースがある。

 みんな、リラックスした様子で室内でのんびりと過ごしていた。

 変に気負ったりしていないのはいいことだ。


 一方、俺は、ベランダに出て夜風を浴びていた。

 ぶっちゃけてしまうと、けっこう緊張している。


 いよいよ明日だ。

 アニスと……魔神と激突する。


 前世からの宿願。

 その結果が、明日、出る。


 勝利か?

 敗北か?


 どちらに転ぶのか、まったく想像できない。

 わからない。

 故に、怖い。


「はあ……情けないな」


 いよいよという時なのに、肝心の俺が、こんな状態なんて……

 とてもじゃないが、みんなにこんなところは見せられない。


 なんてことを思うのだけど、


「お兄ちゃん」

「エリゼか」

「どうしたんですか。こんなところに一人で」

「それは、まあ……ちょっとぼーっとしてた」

「ウソです」


 間髪入れずに否定されてしまう。


「お兄ちゃん、緊張しているんですか?」

「……そんなことはないけど」

「ウソです」


 またもや速攻でウソがバレてしまう。

 さすが妹。

 俺のことをよくわかっているみたいだ。


「大丈夫です、お兄ちゃん」

「えっと……なにが?」

「不安になったり緊張したり、それは当たり前のことだと思いますから。それに、そういう風になったとしても、心配することはありません。だって……私達がいますから」

「……エリゼ……」

「お兄ちゃんはすごい才能を持っていると思いますけど、でもでも、一人で抱え込むようなことはダメです。私達のことを頼る、って決めたんですよね? だから、色々と打ち明けてくれたんですよね? なら、ちゃんと頼ってください」

「……そうだな。うん、エリゼの言う通りだ」


 ここまできて、隠し事をしても意味はない。

 エリゼの言う通り、全て打ち明けるべきだろう。


「確かに、緊張しているよ。なにしろ、明日、全てが決まるからな」

「決戦ですね」

「いよいよとなると……やっぱり、平常心ではいられないな。覚悟していたつもりなのに、動揺してしまう」

「それは仕方ないですよ。どんな時も落ち着いている人なんて、普通、いませんから」

「そう言ってもらえると助かるよ」

「でもでも、私は安心していますけどね。心配することなんてありません」

「どうして?」

「だって、こっちにはお兄ちゃんがいますから」


 エリゼはたっぷりの笑顔で、たっぷりの信頼を寄せて、そう言う。


「お兄ちゃんがいれば、絶対になんとかなります。なんとかならないなんてこと、ありえません」

「信頼してもらえるのはうれしいけど、そう簡単にうまくいくとは……」

「妹はお兄ちゃんを信じるのが仕事なんですよ」


 きっぱりと言われてしまい、反論の言葉を失う。

 というか、反論したり否定したり、後ろ向きなことを考える気がなくなる。


「ありがとな、エリゼ」

「どういたしまして。私はお兄ちゃんの味方ですから。あ、一番の味方ですから」


 なぜいい直した?

 誰かに対して張り合っているような感じだけど、誰に?


「お兄ちゃん」

「うん?」

「明日、がんばりましょうね」

「ああ、そうだな。がんばろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆ お知らせ ◆

ビーストテイマーのスピンオフを書いてみました。
【勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強の少女達ともふもふライフを送る】
こちらも読んでもらえたらうれしいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ