表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/138

125話 魔神の目的

 とんでもないことをさらりと言ってくれる。

 あまりにもさらりと言うものだから、現実感がない。

 冗談か? なんてことを思ってしまうくらいだ。


 しかし、アニスは至って真面目な顔をしている。

 冗談でもウソでもなくて……真剣に、本気で俺達を滅ぼすと言っているのだろう。


「……そんなことを、俺個人に話してどうする?」

「まあ、そうだね。普通ならば、この国の王や……あるいは、各国家のトップが並ぶ場所にでも乱入して、宣戦布告するべきだろう。ただ、そうした場合、面倒なことになるのは確定しているだろう?」


 確かにそんなことをしたら、その場で戦いが発生する。

 それを避けたいのだろうか?


「キミのような強者との戦いなら心躍るところであり、楽しいのだけど……雑魚と戦ってもね。つまらないだけさ。そういう時間の無駄は好かない」

「言ってくれるな」

「事実だからね。まあ、そういうわけで、まずはキミに伝えることにした。キミに伝えれば、自然と上にも伝わるだろう?」


 俺とクラリッサさんの関係を知っているみたいだ。

 こいつの情報源はどこにあるのか?

 わからないが、侮れないものがある。


「それに、私を倒すために特訓をしたのだろう? その成果を発揮するいい機会だと思わないかな?」


 こいつ、どこまで俺達のことを知っているのか……?

 それよりも、なぜ、俺達にここまで強い興味を示すのか……?


 色々とわからないことだらけだ。

 敵であることは確定だが……

 その目的がさっぱりわからない。


「そうだな……そちらの準備もあるだろうし、一週間後がいいだろう。私は君達に……君達の国に戦いを挑もう。領土を拡大するためではなく、資源を得るためではなく、ただただ破壊と混乱をもたらすだけの戦争。血で血を洗うような、泥臭い戦争をしようじゃないか」

「……わかった、一週間後だな?」

「理解が早くて助かるよ」

「お前のような相手に常識は通用しない、ってわかったからな」


 ただ、目的を教えてくれたらありがたい。

 まあ、そんなことは……


「私の目的が知りたいという顔をしているな」

「……なんでわかるんだよ?」

「君は非常にわかりやすいからね」


 なにが楽しいのか、アニスは小さく笑う。

 対する俺は憮然とした顔になる。


「まあ、いいだろう」

「なにがだ?」

「私の目的を教えておこうか」

「……本当か? ウソじゃないのか?」

「そんな意味のないことはしないさ。私とて、元は人間だ。相互理解に励むことくらいはする」

「人間らしさを語るなら、あんたの目的が平和なものであることを祈るよ」

「ふむ。期待されて申しわけないが、平和的ではないな」


 やはりというか、ろくでもない目的らしい。

 まあ、当たり前の話か。


 こいつが始祖魔法使いで、魔神の転生体というのなら……

 一度、世界を滅ぼしている。

 そんなやつが平和的な思考を持ち合わせていることなんて、まずありえない。


 さて、どんな目的なのか?

 聞きたくはないが、聞かないわけにはいかない。

 勝つためには、まずは敵を知らないといけないのだから。


「私の目的は、至極単純なことだよ」

「もったいぶらずに、さっさと教えてくれないか」

「やれやれ、せっかちだな……まあ、君の言うとおりにしよう。私の目的は、強者と戦うことだ」

「戦う……?」


 こいつ、バトルマニアか?

 一瞬、クラリッサさんを連想してしまった。


 ……本人に知られたら、手痛いおしおきを受けてしまいそうだ。

 絶対に内緒にしておこう。


「あんたの言葉をそのまま捉えると、戦うことに意義を見出しているっていう感じなのか?」

「ある意味で正しいが、少し足りないな。より正確に言うのならば、戦うことで自身の力を世界に示して、自信の価値、有り様を証明する……ということになる」

「それは、つまり……」


 少し考えて、


「……やっぱり、戦うことに存在価値を見出しているんじゃないか」


 思わずため息をこぼした。


 こいつの語る目的は、とことん厄介なものだ。

 平和に生きる、なんてことはできない。

 戦いの中でしか生きることができない、狂った兵士のようなものだ。


 己の力だけに存在価値を示す……そして、求める。

 一人で自己完結するならば、それはそれで構わないが、そういうわけにはいかない。

 力を測るには、他者と比べる必要がある。

 そして、激突する必要がある。

 そうでもしないと、力というものを測ることはできない。


「つまり……あんたは、自身の欲求を満たすためだけに、戦いをしていると?」

「そういうことになるな」

「そんな目的なのか……」

「落胆しているようだな。しかし、私にとっては大事な目的なのだよ。私は、戦うために生まれたと言っても過言ではない。故に、戦いを否定することはできない。そのようなことをすれば、己を否定することになるからな」


 戦うために……?

 その言葉が引っかかる。

 どういうことだろうか? 始祖魔法使いの生まれに、まだ俺の知らない情報が隠されているのだろうか?


 不思議に思うものの、その間に、アニスは話を進めてしまう。


「さて……話はこのようなところでいいかな? それとも、まだ話しておきたいことがあるかな?」

「あー……ひとまず、これくらいでいいや」


 アニスの出自は気になったものの、それを知ったからといって、どうこうなるとは思えなかった。

 むしろ、余計なことを知ることで、戦いにくくなる可能性もある。

 なので、今はなにも聞かないことにした。


 こいつは敵。

 魔神の転生体。

 俺が倒すべき相手だ。

 余計な感情は抱かないようにして、ただただ、打ち倒すことだけを考えないといけない。


「では、一週間後を楽しみにしているよ。君ならば、私を満たしてくれると思う。期待を裏切らないでくれ」


 そう言い残して、アニスは消えた。

 まるで最初からいなかったかのようだ。


 できることなら幻覚であってほしいが……

 そんな都合よくはいかない。


「まったく……変な期待をしないでほしいよな」


 俺はため息をこぼしつつ、これからみんなにどう説明しようか? と頭を悩ませるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆ お知らせ ◆

ビーストテイマーのスピンオフを書いてみました。
【勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強の少女達ともふもふライフを送る】
こちらも読んでもらえたらうれしいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ