124話 宣戦布告
一ヶ月の合宿が終わり……
自分で言うのもなんだけど、俺たちは大幅なパワーアップをして学院に戻った。
これならば、という手応えを感じている。
ただ、クラリッサさんの方の調査は難航しているらしい。
最初は一ヶ月ほどと予測をしていたが、それが伸びて、未だ調査が終わっていないらしい。
それも仕方ないと思う。
相手は始祖魔法使いであり、魔神だ。
簡単に尻尾を掴めるのならば、俺たち個人ですでになんとかしている。
もどかしいけれど、今は待つことしかできない。
……そんな時、事件は起きた。
――――――――――
朝。
息苦しいというか、金縛りのような感覚を得て目が覚めた。
「ふにゃあ……」
いつの間に潜り込んだのやら、エリゼに抱きつかれていた。
通りで息苦しいはずだ。
たぶん、夜中にトイレに行くなどして、寝ぼけて俺のベッドに潜り込んだのだろう。
……いや、エリゼならわざという可能性も考えられた。
「よいしょ、っと」
とりあえずエリゼを横にどかした。
妹はまだすーすーと寝ていた。
すっかり目が覚めてしまった。
ベッドから降りてリビングに移動する。
水を飲んで気分をすっきりさせて……
さて、これからどうしよう? と考える。
まあ、特にやることもない。
みんなの分の朝食を作り、起きてくるのを待つことにしよう。
なんて主夫みたいなことを考えていた時。
「っ!?」
全身がざわっと震えるような、激しい悪寒を覚えた。
獰猛な肉食動物が目の前にいるような、そんな根源的な恐怖。
気が狂ってしまうのではないかと、本気で心配してしまうような……
そんなわけのわからない感覚に飲み込まれそうになる。
「くっ……」
息を吐いて……
吸って……
最後にもう一度深呼吸をして、なんとか心を落ち着けた。
なんだ?
なんなんだ、この感覚は?
いや……このおぞましい気配は、いったい……?
誘われるように、俺は気配の元……ベランダに通じる扉を開けた。
そこにいたのは……
「はじめまして、と言うべきだろうか。それとも、久しぶりと言うべきだろうか」
「お前は……」
「その反応は、私のことを覚えてくれていたみたいだな。うれしいよ」
始祖魔法使い。
魔神。
アニスがそこにいた。
「まあ待て」
反射的に身構えると、アニスは俺を制するようにそう言う。
その言葉に敵意らしきものは一切感じられない。
ただ……
敵意がないだけで、悪意はたっぷりと感じられた。
無自覚に残酷なことをしてしまう子供のような……
そんな笑みを浮かべている。
「今日はキミと戦うために来たわけじゃない」
「なら、なんだ? というか、お前の目的は……そもそも、お前はどういう存在なんだ?」
「ふむ。そうだな……その辺りのことをそろそろ話しておいた方がいいか。妙な憂いを残すことで、キミに……キミ達に全力を出してもらえない方が困るからね」
「どういう意味だ?」
「きちんと説明しよう。ただ……その前に、言わせてもらいたいことがある」
「……聞こうか」
「私……始祖魔法使いであり、魔神の転生体であるアニスは、キミ達人類を滅ぼすと、ここに宣戦布告をしよう」




