119話 新魔法
英気を養い、疲労を取り除く。
そういった目的も今回の合宿にはあるんだけど……
ただ、根本的な目的はやはり強くなることだ。
この合宿で各自、今まで以上のレベルアップをして……
そして来たるべき魔神との決戦に備えたい。
というわけで、さっそく訓練が開始されることになった。
別荘の裏手に大きな広場があり、そこを利用する。
エリゼはアリーシャとコンビを組んだ。
エリゼは体術と治癒術を伸ばす方向で。
アリーシャは剣術と魔法剣を伸ばす方向で。
二人は一緒に訓練をして、時に手を止めて、ここをこうした方がいいのではないか? というようなことを話し合う。
そして再び模擬戦をする。
それの繰り返しだ。
なかなかいいコンビらしく、色々な事を吸収しているのが見てわかる。
この合宿での成長が楽しみだ。
そして、シャルロッテとフィアのコンビ。
主従関係が築かれているだけのことはあり、こちらも息ぴったりだ。
わがままだけど、なんだかんだでフィアのことを気にかけているシャルロッテは、面倒見よく練習に付き合っている。
シャルロッテにそこまでさせてしまうことを、フィアは若干心苦しく思っているみたいだけど……
遠慮しても仕方ないと思ってはいるらしく、おどおどしつつもあれこれと質問を重ねていた。
自分の補助魔法についての可能性を拡げたい。
そんな意思が見て取れた。
そうしてみんなの訓練を見た後……
俺も自分の訓練に移る。
「で、なんでボクなんだい?」
俺が訓練の相手に選んだのはメルだ。
単に余った者同士組んだだけという話もあるが……
これから俺が使う魔法は、メル以外では受け止めきれない可能性があるんだよな。
「メルが一番いいと思ったからだよ」
「ふーん。ボクもレンハーレムの一員にするのかと思った」
「なんだその怪しい名前は」
「君が作ったハーレムだよ」
「そんなものを作った覚えはないぞ」
「やだやだ、無自覚なんだ。まったく、彼女たちは大変だね」
よくわからないことを言ってないで、早く訓練の準備をしてほしい。
「わかってるよ。そういう色恋沙汰を楽しむのは、とりあえず魔神をなんとかしてからだよね」
「色恋沙汰の部分はよくわからないが……そうだな。人生を楽しむのは、脅威を排除してからだ」
足元が危ういところで遊ぶことなんてできない。
しっかりと地盤を固めないといけない。
「じゃあ、まずはボクの新魔法の開発に付き合ってくれるかな?」
俺と同じようなことを考えていたらしく、メルはそんなことを言い出した。
それはもちろん構わない。
というか、興味がある。
同じ転生者であるメルの新魔法……いったい、どんな力を見せてくれるのか?
「とりあえず……一発撃ってみるから、全力で防いでくれるかな?」
「どういう内容なのか教えてくれないのか?」
「それでもいいんだけど、やっぱり秘密にした方が楽しそうじゃない? 君の驚く顔を見てみたいんだよね」
「悪趣味な……」
「ふふ、あの賢者を驚かせる機会があるんだから、フル活用しないとね」
メルはいたずらっぽく笑い……
次いで真剣な顔になる。
「避けようと考えるのはいいけど、下手に反撃しようとか相殺しようとか、そういうことは考えないでね? ……死ぬよ?」
よほどの自信だった。
俺は覚悟を決めて、防御魔法の展開に集中する。
そして……
「倍増<ダブル>」
メルは小さくつぶやいた。
それは魔法の起動のトリガー。
光の粒子がメルの右手に集まる。
しかし、まだ魔法は放たれない。
その間も光の粒子が次々と集まっていく。
「お、おい……これは……」
光がどんどん大きくなり……
やがて太陽のような極光を放つほどに成長した。
「こんなところかな」
メルは小さくつぶやいて、手をこちらに。
「火炎槍<ファイアランス>」
さらに魔法が解き放たれた。
最低の第10位の魔法。
それなのに……
巨大な炎の槍が生まれた。
俺が使う時の比じゃない。
俺の数倍は大きくて……
家ほどの大きさの炎の槍が迫る。
「ちょっ!?」
こんなもの受け止められるか!
「転移<テレポート>!」
防御魔法を中止して、慌てて転移魔法を起動させた。
メルの隣に跳躍。
その直後、巨大な炎の槍が着弾して……
大きな爆炎が立ち上がる。
地面が震えて、大気が震えた。
なんていう威力だ……
隕石が落ちたみたいに、地面に大穴ができているぞ。
魔力が大きければ、その分魔法の威力も上昇するが……これは常識外れだ。
第10位の魔法でここまでの威力を出せるなんて、いったいどんなからくりが?
「今のは?」
「ボクの新魔法……倍増<ダブル>だよ」
「倍増<ダブル>……」
「簡単に言うと、魔力を溜める魔法かな。周囲の大気に漂う自然の魔力をかきあつめて、魔法の威力を何倍にも増幅させる。威力は見ての通り」
「すごいな……うん、正直にすごいと思う」
思わず語彙レベルが低くなってしまうほど、メルの魔法に圧倒されていた。
「これはすごい切り札になりそうだな。うん。ホントすごいと思う」
「でしょー……って誇りたいところなんだけどね。これ、欠点があるんだ。魔力を溜めるのに時間がかかるんだよね」
「そういえばそこそこの間、棒立ちになっていたな」
「そこが欠点。改良はしていくつもりだけど、時間がかかるのだけはどうしようもないかな? 使い所は限られそう」
「なるほど……でも、みんなとうまく連携をとればなんとかなると思うし、頼もしい武器になりそうだ」
「ありがと」
メルはそう言って、パチリとウインクをした。




