115話 魔神の正体
放課後。
みんなを部室に集めた。
誰ひとり欠けることなく集合した。
ついでにいうならば、ローラ先生はいない。
内緒話をするには絶好の機会だ。
というわけで、みんなに今朝の出来事を説明した。
混乱させるかもしれないが、ここにきて変に隠し事をしていたら、そのせいで取り返しのつかない事態に発展する可能性がある。
そのため、一切の隠し事なしで全てを説明した。
まず最初に、始祖魔法使いアニスのこと。
それから、改めて魔神が転生していることを語り……
最後に、魔神の正体がアニスであることが高いということ。
それらを順々に説明して……
話の内容、密度故に30分ほど時間がかかった。
「お兄ちゃん。それじゃあ……始祖魔法使いさまが、私たち人の敵……ということなんですか?」
さすがにこの内容には驚いているらしく、エリゼを始め、みんな複雑な顔をしていた。
今の生活、世界に魔法は欠かせないもので……
魔法は文明の発展に大きく貢献してきた。
それなのに、その魔法を開発した人が人類の敵と言われたら、戸惑ってしまうのも無理はないと思う。
「それはどうかしら?」
異を唱えたのはアリーシャだった。
困惑は未だ残っているが……
それでも冷静に落ち着いて、情報を整理しようという意思が見えた。
「レンの話を聞いたら、確かに始祖魔法使いさまが全ての元凶に思えるけれど……それ、本当に本人なのかしら?」
「あ……」
アリーシャの言いたいことに気がついた様子で、エリゼが小さな声をこぼした。
「ホムンクルスを簡単に作り、面倒なプログラムをこしらえて、さらにメッセージを残す。おまけに魔神のことも知っている。相当に厄介な相手であることは間違いないと思うわ。でも、だからといって=始祖魔法使いさま、と断定するのはどうかと思うわ。相手がそう名乗っただけで、確証なんてものはなにもないんだから」
「うん、そうだね」
メルが同意というように頷いた。
「ボクらはまだ情報が足りない。今回の黒幕が始祖魔法使いなのか、それともその名を騙るまったくの別人なのか。判断するにはまだ早いかな」
「まあ、そういうこと」
話をまとめるように、メルの話を引き継ぐ。
「俺が話しておいてなんだけど、決めつけない方がいいと思う。こうに違いないと断定することで視野が狭くなり、普通なら気づくことも見落としてしまうかもしれないからな」
「でも、ある程度はまとめておいた方がいいでしょ?」
「それはシャルロッテの言う通りだな。せっかく、相手の方から接触してきてくれたんだ」
「わかっていることは、えっと……本物か偽物かわかりませんが、敵は始祖魔法使いさまを名乗っていること、ですね。あとあと、常識外の力を持っていること。魔神のことも知っています」
「本物の始祖魔法使いか、魔神なのか、その検証は後にして……ひとまず厄介な敵がいる、という認識で問題ないと思うわ」
「だな」
魔神の謎に近づいたようで、また遠ざかったような……
なんともいえないもどかしさがあった。
「謎といえば……なんであんなことをしたのか、それも謎なんだよな」
「メッセージのことです?」
「ああ」
エリゼの問いかけに頷いた。
あのメッセージが残されていたことで、敵がいるという確信を持つことができた。
嘘か真実かそれはわからないが……
敵は始祖魔法使いであり、魔神であることも判明した。
あんなメッセージを残せば、色々なことに気がついてしまう。
敵と名乗るのならば、なぜ、敵に塩を送るような真似をするのか?
そこが不透明だ。
あれこれと考えてみたけれど、さっぱりわからない。
「うーん……いじわるな人なのかもしれませんね」
ぽつりと、エリゼがそんなことを口にした。
「ん? それ、どういう意味だ?」
「えっと、特に根拠なんてないですよ? ただの思いつきですから……」
「それでもいい。エリゼの思いつき、教えてくれないか?」
「えっと……なんとなく、いじわるな男の子を連想したんです。ほら、子供の時って、好きな女の子に素直になれなくてちょっかいをかける男の子がいるじゃないですか? あれと同じような感じで、今回の敵も、特に大した理由、目的はなくて、お兄ちゃんにちょっかいを出すことが目的だったのかなあ……なんてことを思いまして」
「なるほど……うん、なるほど」
目から鱗が落ちたような気分だった。
まさか、そういう考えもあるなんて……
突拍子のないように見えるが、実はエリゼの推理は当たりかもしれない。
メッセージに残されていた敵も、特に目的なんてないって言っていたからな。
「そうなると、根本的なところにあるのは愉快犯のような思想か……?」
「それ、めちゃくちゃ厄介じゃない?」
「だよな……」
シャルロッテの言う通り、愉快犯を相手にするほど厄介なことはない。
例えば金目的。
例えば復讐。
そういった動機で犯罪を行う者の行動原理はわかりやすく、ある程度、先を読むことができる。
しかし、愉快犯の場合はそうはいかない。
犯人が楽しいと思うことを実行して……
その楽しいの基準は犯人だけにしかわからない。
詳細な調査を重ねれば思考をトレースすることも可能かもしれないが……
あいにくと、そこに至るまでの情報はない。
あと、基本的に愉快犯の思考ってぶっとんでいるからなあ……
常人が先を予測しようとしても、失敗してしまうのが常だ。
見ている世界が違うのではないかと思うくらい、まるで異なる考えをするんだよな。
そういう相手は前世でたくさん見てきて……
厄介さは骨身に染みて理解している。
「お兄ちゃん、どうします?」
「そうだな……」
まずは力をつけて……
それから情報を集める、という方針だったのだけど……
そんなことをしている場合じゃないのかもしれない。
「予定をいくつか繰り上げた方がいいかもしれないね」
「メルもそう思うか?」
「念の為に、っていう感じだけどね。まだ平気な気もするけど……夕立のように、突然、災厄が降ってきそうな気もするんだ。だから、動ける時に動いておいた方がいいかも」
「だな」
メルの意見に賛成だ。
できることを今しておこう。
「シャルロッテ」
「なに?」
「クラリッサさんに会うことはできるか?」
「え? 母さま? えっと……ちょっと家でスケジュールを確認しないといけないけど、たぶん、大丈夫だと思うわ。レンは気に入られてるし。でも、なんで? まさか……あたしをくださいとか!?」
「むぅ……お兄ちゃん、どういうことですか!?」
「シャルロッテの戯言だよ……」
頼むから真に受けないでほしい。
「それじゃあ、母さまになんの用なの?」
心なしかシャルロッテが残念そうにしていて……
そんな態度が、エリゼをますます疑心暗鬼に陥らせていた。
というか、アリーシャとフィアも不機嫌そうにしないでほしい。
「前に魔神のことを周囲に対して伝えるかどうか、っていう話をしただろう?」
「したわね。でも、あたしらの話なんて信じてくれないだろうから、それは流れたじゃない」
「でも、クラリッサさんならあるいは……とも話したよな? まあ、証拠を集めてからの説得、っていう流れだったが……もう時間がないと仮定して動いた方がいい。クラリッサさんに話をして、国を動かしてもらおう」
ちょっと忙しくなってきたので、月曜の週一更新になります。




