104話 魔法研究会、発足
魔法学院は、文字通り魔法を学ぶところだ。
しかし、なにもかも魔法だけに特化しているわけではない。
歴史を学ぶ授業もあれば、算術を学ぶ授業もある。
それだけではなくて、運動をすることもあるし、時に道徳について学ぶこともある。
時に、まったく関係ない知識や技術が魔法の力を伸ばす時もあるし……
なによりも、いくら優れた魔法使いでも、一般知識、教養が備わっていない人物なんて、どんなところにいっても役に立つわけがない。
なので学院では、基本は魔法がメインではあるが、その他、幅広い教育が行われている。
部活動もその一環で、生徒たちが自主的に学び、自主的に部を運営することに意義があるとされて、積極的に取り組んでいる。
そんなわけで、新しい部の設立許可は簡単に降りた。
魔法を研究する部という、ありきたりなテーマであり、他の部とかぶるところが多いものの……
そこは学院の懐が深く、人数が揃っているということもあり、許可してくれた。
ただ一つ、問題があった。
「顧問かぁ……」
設立許可は降りたのだけど、まだ活動許可は降りていない。
顧問がいなければ部活動を行うことはできないのだ。
そう説明されて、顧問を見つけるように言われてしまった。
「うーん、どうしたもんかな」
「な、悩ましい問題ですね……」
「いざとなったら、そこらの適当な教師を掴まえればいいんじゃない?」
食堂で昼ごはんを食べながら、フィアとシャルロッテと一緒に頭を悩ませる。
普通に部活を設立するなら、シャルロッテが言うように適当な教師で構わないんだけど……
俺たちの場合は、魔神に対抗するために強くなる、っていう目的がある。
そのことはなるべく外に知られたくない。
特に大人が関わると厄介だ。
普通は信じてもらえず、つまらないウソをつくなと怒られてしまうだろう。
やるならば、しっかりと証拠を揃えて、クラリッサさんのように、話を聞いてくれる人に話をすることだ。
それまでに下手なことをしてしまうと、嘘つきの前科持ちとなり、信じてもらえる可能性が低くなってしまうかもしれない。
だから、できるだけ内密に進めたいんだよな。
「やっぱり、本来の目的は秘密にしつつ、こっそりとやるしかないかな?」
「でも、それだと活動に支障が出るんじゃないの? 本末転倒じゃない」
「で、でも、シャルロッテさま。普通に話をして、納得してもらえる先生なんて、い、いないと思いますけど……」
「それは、まあ」
話が堂々巡りで先に進まない。
問題が問題だけに、簡単に解決することができないんだよなあ……
ホント、どうしたもんだろ?
「お兄ちゃん」
「レン」
ふと、エリゼとアリーシャが現れた。
二人もごはんなのだろうか?
でも、今日はパンの気分だからと、購買に行ってたような気がするんだけど……
不思議に思っていると、二人の後ろからさらにもうひとり、人影が。
「こんにちは」
ローラ先生だ。
ウチのクラスの担任で、優しいと評判の先生。
若くて綺麗なことから、女子からの人気も高い。
「どうしたんですか? ローラ先生もごはんを?」
「いえ。実は、エリゼさんとアリーシャさんから部活の顧問になってほしいと頼まれまして」
「え?」
「魔法研究部……でしたっけ? 魔法を文化的な側面から研究する。とても良い部活だと思います。私でよければ、顧問を引き受けたいと思います」
「え? え?」
「他の先生たちには、私から連絡をしておきますね。部室については、もう見当をつけているんでしたっけ? なら、そちらは問題ないとして……他に必要なものがあれば、随時、言ってくださいね。遠慮する必要はありませんから」
「え? え? え?」
「私、そこそこ忙しくて毎日顔を出すことは難しいんですけど……なるべく顔を出すようにするので、一緒にがんばっていきましょうね。あ、と……そろそろ行かないと。それじゃあ、また授業で」
止めるヒマもなく、ローラ先生は立ち去ってしまう。
代わりにエリゼとアリーシャを見ると、二人は一仕事やり遂げた、というような感じでドヤ顔をしていた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。私、やりましたよ! ちゃんと顧問を見つけてきましたよ」
「これで問題は解決ね」
「いや、あの……」
突発的な展開についていくことができず、呆然としてしまう。
俺たち、あんなに頭を悩ませていたのに……
それなのに、エリゼとアリーシャがこんな勝手をしてしまうなんて。
……でも、待てよ?
ローラ先生は、教師陣の中で生徒に一番親しくしてくれる先生だ。
本当の事情を話したとしても、ひょっとしたら受け入れてくれるかもしれない。
そうでなくても、こちらの頼みはある程度は聞いてくれそうだし……
言い方は悪いが、俺たちにとって都合がいい存在だ。
実は、ローラ先生に顧問を務めてもらうというのは、最善なのでは?
担任という近いところにいたせいか、なかなか気づくことができなかった。
「え、えっと……これで問題は解決なんでしょうか?」
「たぶん?」
あまりの急展開に、ついつい疑問形で答えてしまう俺だった。
「でも……エリゼとアリーシャって、ローラ先生を知っていたんだな?」
クラスが違うから、関わりはないと思っていたんだけど……
「なにを言ってるんですか、お兄ちゃん」
「クラスは違うけど、ローラ先生は授業を担当しているじゃない。普通に顔を合わせる機会はあるわ」
言われてみれば、それもそうか。
「すごく優しいし、綺麗ですし、前から尊敬していた先生です。顧問になってくれてうれしいです」
「顧問の話が出た時、あたしたち、まっさきにローラ先生のことを思い浮かべたの」
二人は直感でローラ先生を顧問に選んだらしい。
その直感は正しく、たぶん、最善の人選であり……
エリゼとアリーシャ、なかなかに侮れないな。
「なにはともあれ……ありがとな。これで、無事に魔法研究部を発足することができるよ」
「えへへ。お兄ちゃんのためなら、私はなんでもしますからね」
頭を撫でられて、エリゼはご機嫌だった。
こんなことでいいなら、いくらでもしよう。
「それじゃあ……これからがんばろうか!」
「「「おーっ!!!」」」
みんなが手をあげて、やる気たっぷりの声をあげた。




