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101話 今度はアメ・エリゼバージョン

 休みの日。

 街に出て、広場の噴水の前に移動した。


 この噴水は大きくて綺麗で、よく待ち合わせに利用されている。

 かくいう俺も待ち合わせが目的だ。


「たぶん、そろそろ時間なんだけど……」

「お兄ちゃん!」


 ぽすっ、と横になにかがぶつかる感触。

 見ると、にこにこ笑顔のエリゼが俺の右腕に抱きついていた。


 ちょっと痛い。

 いや、かなり痛い。

 ギシギシと骨がきしんでいるみたいだ。

 エリゼはそろそろ、エリクサーのおかげで身体能力が強化されていることを自覚した方がいい。


「おはようございます、お兄ちゃん」

「おはよう」

「それと、おまたせしました」

「大して待ってないよ。約束の時間にはなっていないし、問題はない」

「むぅ……ダメですよ、お兄ちゃん」


 なぜかエリゼが頬を膨らませる。


 俺、なにか失敗しただろうか?


「こういう時は、俺も今来たところだよ、って言わないと」

「なんだ、そのベタベタな展開は」

「女の子はそういうベタな展開が好きなんです。大好物なんです」


 そうなのだろうか?

 アリーシャやシャルロッテ。

 身の回りの女の子を思い浮かべるが、あの二人が好きなようには思えない。

 むしろ、さっさと来い、というような感じだろうか?


「というわけで、もう一回です。トライアゲイン」


 エリゼがタタタ、と俺から離れた。

 え?

 まさか、待ち合わせからやり直すの?


「お兄ちゃん、おまたせしました」


 そのまさかだったらしく、エリゼは何事もないように最初からやり直した。

 ウチの妹、時折、奇妙な行動に出るんだよなあ。


「待ちましたか?」

「えっと……いや。俺も今来たところだよ」

「……」

「エリゼ?」

「はっ!? す、すいません。お兄ちゃんとのデートの幸せを噛み締めて、ついついぼーっとしてしまいました。はふぅ、幸せです」


 そんな大げさな、と思うのだけど……

 エリゼは至って真剣らしく、とても満ち足りた表情を浮かべていた。


 今日は訓練は休みだ。

 呪いも解除してある。

 そんな日になにをするのかというと……アメだ。

 つまり、ご褒美。

 一週間を耐え抜いたから、俺のことを一日、好き放題にしていいことになった。

 なってしまった。


 まあ、無茶な要求でなければ、できる限り要望には応えたいと思う。

 元々、無茶な話をしているのは俺の方だし……

 息抜きになるのなら、俺にできることはしたい。


 エリゼは、俺とのデートを希望した。

 同じ部屋なのだから待ち合わせをする必要はないのだけど、ここは大事なポイントです! と待ち合わせをすることになり……

 そして、今に至る。


「それじゃあ、行くか」

「あ、あの……お兄ちゃん」

「うん? どうした?」


 もじもじと恥ずかしそうにしながら、エリゼがそっと問いかけてくる。


「えっと……手を繋いでもいいですか?」


 すでにエリゼの方から腕を組んできているのだけど……

 という野暮なツッコミはなしにしておいた。


「ああ。ほら」

「わぁ♪」


 手を差し出すと、エリゼはとびっきりの笑顔を浮かべた。

 そして、猫がじゃれついてくるような感じで、手を繋いでくる。


「お兄ちゃんの手、温かいですね」

「そういうエリゼの手は冷たいな」

「むぅ。私の心が冷たい、って言いたいんですか?」

「被害妄想だ。というか、逆だろ? 手が冷たい人は心が温かい、って言われてないか?」

「そうでしたっけ?」

「そうだよ。違っていたとしても、エリゼが冷たい子なんて思ってないさ。エリゼは誰よりも優しくて、温かい子だよ」

「……お兄ちゃん……」


 エリゼがぼーっと俺を見つめて……

 やがて、破顔した。


「よかったです。やっぱり、お兄ちゃんはお兄ちゃんですね」

「うん? どういう意味だ、それ」

「えっと……ここ最近の、魔法大会以降のお兄ちゃんは、どこかいつもと違っていて……なんていうか、ピリピリしてて余裕がないように見えました」


 鋭い。

 さすが、俺のことをよく見ているな。


 魔法大会の後、メルと話をして……

 魔神についての情報が更新されて……

 のんびりと構えているわけにはいかないという事実を知った。

 以降、魔神の対策についてあれこれと考えていたから、心に余裕がなかったことは事実だ。


「本音を言うと、どうお兄ちゃんに接していいかわからない時もあって……ちょっと寂しかったです」

「そっか……ごめんな」

「いいえ、気にしないでください。お兄ちゃんはお兄ちゃんということが、今、はっきりと実感できましたから」

「だから、それはどういう意味なんだ?」

「ちょっとだけピリピリしていても、でもでも、お兄ちゃんの根っこの部分はなにも変わっていなくて……優しくて、世界で一番頼りになるお兄ちゃんのままでした」


 エリゼは一度、俺から離れた。

 俺の前に回り込み……

 じっと目を合わせてくる。


「お兄ちゃんの目も、今まで通り優しい感じです」

「目が優しいって、そんなことわかるのか?」

「わかりますよ。私は生まれてからずっと、お兄ちゃんのことを見てきたんですからね。お兄ちゃん観察の第一人者です」


 そんなよくわからない観察はやめていいのだけど……


「つまり、私がなにを言いたいのかというと……」


 再びエリゼが抱きついてきた。

 手を繋いで、キラキラと輝くような笑顔と共に言う。


「お兄ちゃんは、私の大好きなお兄ちゃんのまま、ということです!」

「なるほど」


 わかるようでわからない話だ。

 でも……

 エリゼを不安にさせていたというのならば、それは申し訳ないことをしたと思う。

 これからは気をつけることにしよう。


「時間がないし、そろそろ行くか」

「ふぇ?」

「デートだよ。今日は、二人で遊ぶんだろ?」

「……はい!」


 ……その日は、日が暮れるまでエリゼと二人で遊んで遊んで遊び倒した。

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