100話 第一段階、完了
……あれから一週間が経った。
常時、魔力が消費される呪いを受けるという訓練はなかなかに大変だ。
最初はみんなも悲鳴をあげていたのだけど……
メルが妙なご褒美を提示して、みんなは妙にやる気を出してしまった。
悲鳴をあげながらも、誰一人として諦めるようなことはしないで……
がんばりつづけて、一週間を乗り切ることができた。
そして、放課後。
いつものように空き教室に集合する。
「ふぅ……一週間経ったけれど、なかなか慣れないわね、これ」
肩こりに悩まされる人のような感じで、アリーシャがぐるぐると腕を回した。
慣れないと言っておきながら、だいぶ慣れたように見える。
「私はだいぶ慣れましたよ!」
ぴょんぴょんとその場でジャンプをしてみせて、元気なことをアピールするエリゼ。
ちらちらとこちらを見ている。
褒めてほしいのかな?
「偉い偉い」
「えへへ~」
頭をなでてやると、エリゼがにへらと笑う。
うん。
俺の妹、かわいい。
「前々から思ってたんだけど、レンって妹には甘いわよね」
「え、そうか?」
「そうよ。あたし、それくらい甘やかされたことないんだけど」
「シャルロッテは甘やかすような対象じゃないと思うんだけど……」
「なによ。いいじゃない、あたしも甘やかしなさいよ」
それならばと、シャルロッテの頭を撫でてみる。
「ちょっと、子供扱いしないでくれる?」
「理不尽だ……」
「子供扱いじゃなくて、甘やかしてほしいの。ちやほやしてほしいの。そこら辺、勘違いしないでくれる?」
わがまますぎる。
というか、両者の違いがわからない。
子供扱いも甘やかすのも、似たようなものだと思うのだけど。
「はふぅ……最初は無理だと思ってましたけど、な、なんとかなりましたぁ」
多少ふらふらしているものの、フィアも無事に一週間を乗り切ることができたらしい。
筋肉痛みたいに、体がぷるぷると震えているけれど……
まあ、それは愛嬌ということで。
「それじゃあ、訓練の成果を確認してみるか」
一週間、呪いの制限を受けて生活をするだけ。
普通に考えると、なんの嫌がらせだと思う。
事実、みんなも効果が本当にあるのか、いまいち実感できていないみたいだ。
まずは訓練が無事に進んでいることを確認してもらいたい。
そうすることで、今後のモチベーションを得てほしい。
そのために、成果を確認する必要があった。
一度、教室を後にして……
あらかじめ使用許可を得ておいた個人用の訓練場へ移動する。
それほど広くはないが、簡単な魔法を使う分ならなにも問題はない。
「じゃあ、一旦、呪いを解除するぞ」
「え、一旦?」
アリーシャが顔を引きつらせた。
「もしかして……この呪いは、今後も?」
「もちろん。一週間でそれなりに基礎魔力が上昇したと思うけど、まだまだ足りないし、成長の余地があるからな。しばらくは、ずっと呪いと付き合ってもらうぞ」
「やられたわ……一週間だけかと思っていたわ」
アリーシャがうなだれた。
いつも落ち着いているアリーシャがこうなのだから……
「……これからもずっとなんて、私、やっていけるのでしょうか?」
「あうあう……が、がんばりたいですけど、でも……」
「めんどうね。もっと、ぱーっと簡単に強くなれる方法はないのかしら?」
みんなもげんなりとした顔をしていた。
……一部、微妙にニュアンスが違う顔をしている者もいたが、まあ、それは気にしないでおく。
「今は、これが一番良い方法なんだ」
「本当なんですか? お兄ちゃん」
「ちゃんと魔力が上昇している、ってことを実感してくれれば、俺の言っていることも理解できるさ。というわけで、エリゼ。なんでもいいから、適当に魔法を使ってみるといい」
部屋の中央に魔法人形を設置した。
「なんでもいい、と言われても……」
「なら、第10位の魔法を全力で」
「えっと……はい、わかりました」
その行動の意味はわからないけれど、俺が言うのならば……
というような感じでエリゼが頷いた。
信頼されているのかもしれないが、エリゼは俺の言うことならなんでも聞くな。
もうちょっと、自分で考えるようにしてほしいというか、依存しないでほしいというか……
でもでも、エリゼが離れることは寂しいというか……
うーん、複雑な兄心。
「いきます!」
エリゼが魔法人形に手の平を向けた。
魔力を収束させて、発動のトリガーとなるキーワードを唱える。
「火炎槍<ファイアランス>!」
炎の槍が魔法人形を討つ。
荒れ狂う紅蓮の衝撃に、魔法人形がミシミシと悲鳴を上げた。
ややあって……
『255』という数字がぽんっ、と表示された。
「ふぇ……?」
なにかの間違いでは? という感じで、エリゼがぽかんとした。
でも、間違いなんかじゃない。
以前、100以下の数値を出すのが限界だったエリゼだけど……
今では倍以上の数値を叩き出すほどの力を手に入れたのだ。
「と、いうわけ」
ここは、ちょっとくらい自慢げになってもいいよな。
そんなことを思い、ドヤ顔をしてみせた。
「すっ……」
「す?」
「すごいすごいすごいすごーーーい、ですぅっ!!!!!」
「おおう!?」
エリゼがものすごい勢いで詰め寄ってきた。
「私の魔力がこんなにアップしているなんて……正直、これどうなのかな、なんて思ってましたけど、私が間違っていました! さすがお兄ちゃんです! こんなことができるようになんて、本当にすごいです! お兄ちゃんっ、お兄ちゃんっ♪」
最後はなぜか甘えてきた。
とりあえず、頭を撫でておく。
「ねえ、あたしもちょっと試し打ちしてもいいかしら?」
「あたしもしてみたいわね」
「わ、わたしも……」
みんな、途端にやる気を出した。
さっきまでのげんなりとした様子は欠片も見えない。
「うんうん、うまいじゃないか。いい感じにみんなのメンタルをコントロールしているね。よっ、さすが賢者」
「茶化すな」
「あいたっ」
メルを小突きつつ……
みんなの面倒を見るのだった。




