10話 魔法の修行
それから、週に一度のペースでエル師匠から魔法を教わることになった。
エル師匠はリッチなので、街に入ることはできない。
街の外の丘で待ち合わせをしているのだけど……
毎日街を抜け出していたら、いつか父さんと母さんにバレてしまうかもしれない、というわけで、週に一度のペースにしたのだ。
週に一度、直接指導してもらい……
残りの日々は課せられた課題をコツコツとこなす。
一見すると地味な作業なのだけど……
新しい属性の魔法を覚えるためなので、ぜんぜん苦にならない。
むしろ、毎日が充実していた。
「では、今日の講義を始めるとしよう」
「「はいっ」」
エル師匠の講義も、これで四度目。
つまり、魔法修行が始まり一ヶ月が経っていた。
驚きなのは、エリゼがしっかりと授業についてきていることだ。
魔法の才能があったらしく、エル師匠が教えることをどんどん吸収して、自分のものにしている。
俺の妹は天才かもしれない。
断っておくが、兄バカというわけじゃないぞ?
冷静に物事を観察した上での、至極当然の回答なのだ。
とはいえ。
エリゼは体が弱いから、負担がかかっていないか……そこが心配だ。
今のところ、体調を崩すようなことはないのだけど……
気をつけて見ておかないといけない。
――――――――――
「よし、では今日から実技に移ろう」
講義が終わると、エル師匠がそんなことを口にした。
実技!
講義は講義で面白いのだけど……
やはり、体を動かしたいという思いはある。
楽しみだ。
「まずは、魔法人形を設置しよう」
エル師匠が自分の影に手をつっこみ、そこから魔法人形を取り出した。
闇属性の魔法の一つで、影にアイテムを収納できるらしい。
便利だ。
ぜひ、俺も習得したい。
「そうだな……では、エリゼ嬢からにしようか」
「わ、私ですか……?」
「うむ。エリゼ嬢は才能がある。普通なら、一ヶ月の訓練だけで魔法を使えるようにはならないのだが……エリゼ嬢なら問題ないだろう。さあ、やってみたまえ」
「……わかりました!」
エリゼが小さな拳をぐっと握り、気合を入れる。
それから、両手を魔法人形へ向けた。
「火炎槍<ファイアランス>!」
炎の尾を引きながら、宙を火炎の槍が走る。
そして、着弾。
魔法人形の上に、『83』という数値が表示された。
母さんが確か『75』だったよな?
それでもって、エリゼは初めて『火炎槍<ファイアランス>』を使った。
それらのことを考えると、実はすごい数値じゃないだろうか?
「で、できた……」
初めて魔法を使うことができたエリゼは、感動するように己の手を見た。
何度か手を握ったり開いたりして……
それから、うれしそうに笑顔になる。
「お兄ちゃん、私、やりました! やりましたよ!?」
「ああ、見ていたぞ。すごいな、エリゼは」
「えへへ♪」
頭をなでてやると、エリゼは頬を染めた。
ちょっと照れているのかもしれないが、でも、うれしそうだ。
「ふむ?」
「エル師匠?」
せっかくエリゼの魔法が成功したというのに、エル師匠は難しい顔をしている。
いや、ガイコツだから表情はわからないし、そんな雰囲気、と言うのが正解なのだろうが。
「どうしたんですか?」
「いや……エリゼ嬢ならば、もっと上の数値を叩き出すものだと思っていたのだが……ふむ、見誤っただろうか?」
「確かに。俺のかわいい妹なら、もっともっと上にいけますよね」
「……レンも、大概、兄バカだね」
「当たり前でしょう。あんなにかわいい妹がいて、兄バカにならない方がおかしい」
「おぉう」
きっぱりと肯定したら、なぜか、エル師匠が怯んでしまった。
「……ふむ。もしかしたら」
何か思いついた様子で、エル師匠がエリゼを見る。
「エリゼ嬢。この前、回復魔法も教えただろう? 今度は、それを使ってみてくれないかね?」
「はい、わかりました!」
エル師匠のことだから、何か考えがあるのだろう。
おとなしくエリゼを見守る。
「治癒光<ヒール>!」
優しい光が魔法人形を包み込んだ。
この魔法人形は攻撃魔法だけではなくて、ありとあらゆる魔法の威力を測定して、数値化できるという優れものだ。
果たして、エリゼの回復魔法の威力は?
「おぉ、これは……
「『230』……これはまた、とんでもない数字が出たな」
「ふむ。どうやら、エリゼ嬢は攻撃魔法よりも回復魔法の方が得意みたいだな」
「私にそんな才能が……」
「回復魔法の使い手は少ない。貴重な才能だ。その力をきっちり伸ばすといいだろう」
「はい、わかりました!」
エリゼはうれしそうにしながら、元気な声で応えた。
エリゼは体が弱いということで、今まで、守られてばかりだったからな。
でも、自分の魔法で誰かを助けることができるかもしれない。
そのことが誇らしいのかもしれない。
エリゼの笑顔を見ていたら、自然とやる気が出てきた。
よし、俺もがんばろう!
「じゃあ、次は俺の番ですね!」
「うむ。がんばれ」
「せっかくなので、今日は闇属性の魔法を試してみますね」
「闇属性の魔法を? それはまだ早いぞ」
「でも、理論は覚えたので、初歩の第10位の魔法なら、たぶん使えると思うんですよね」
魔法を使う時は、精霊に語りかけて、その力を貸してもらう必要がある。
火属性の魔法なら、イフリート。
水属性の魔法なら、ウンディーネ。
そんな感じで、それぞれの属性の精霊に語りかけることで、初めて魔法を使うことができるのだ。
しかし、闇属性の精霊に語りかけることに成功した者はいない。
なぜかわからないが、闇の精霊シャドウは、人の呼びかけに応えてくれないのだ。
その理由は、シャドウは魔物に味方する存在だから、人に手は貸さない。
力を貸すのは魔の存在だけ……と、言われていた。
でも、エル師匠によると、それは誤った認識らしい。
シャドウも人の呼びかけにきちんと応える。
ただ、他の精霊とはまったく別のアプローチが必要で、なおかつ、消費する魔力量も桁違いなのだ。
それ故に、誰もシャドウに語りかけることができず、失敗が続いていたというわけだ。
俺は、エル師匠から正しいアプローチの方法を教えてもらった。
魔力量にも自信がある。
きっと、闇属性の魔法を使うことができるはずだ。
「ふむ……まあ、試してみるだけなら自由か」
「ありがとうございます」
「先に言っておくが、失敗したからといって落ち込む必要はないぞ? むしろ、失敗するのが当たり前だと思った方がいい。ましてやレンは男だからな、普通の人よりも難しいだろう。わしでも、理論を学んでから使えるようになるまで、数年の歳月を要して……」
「暗黒槍<ダークランス>!」
無から闇が生まれて、槍の形を取る。
ゴゥッ! と漆黒の槍が射出された。
それは魔法人形の頭部に突き刺さり、闇を撒き散らす。
魔法人形の上に、『780』という数字が表示された。
「よしっ、できた!」
「……」
「でも、扱いに難しいですね……微妙にコントロールに失敗してしまいました」
「……」
「数値もまだまだだし……要練習だな、これは」
「……」
「あれ? どうしたんですか、エル師匠?」
「なんでやねん!?」
「エル師匠!?」
大変だ! エル師匠が壊れた!?
「わしでも数年かかったというのに、なんで8歳の子供が一ヶ月で使えるようになるのだ!? ありえないだろう!? ありえないぞ!? ありえなさすぎる!? いったい、どうなっているのだ!?」
「エル師匠、落ち着いて!」
「わし、自信なくなってきた……こんなことで、魔法を極めるなんて……無理だな、そうだな、無理だな……山へ帰ろう……」
「ちょっ……エル師匠!? どこへ行こうとしているんですか!?」
「山へ帰る……ぐすん」
「師匠ぉおおおーーー!?」
俺が必死になってエル師匠をなだめている間、
「やっぱり、お兄ちゃんはすごいです♪」
エリゼはキラキラとした顔で、俺と師匠のやりとりを見守るのだった。
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