サチエ戦記~76歳でも戦
略
エピソード01 「ばあちゃんは孫に甘い」
「だからさあ!サチエさ~ん、わかります?」
訪問に来た客は品の無い声を上げた
「いやねえ、前から言ってるじゃないですか!使ってない土地をうちが買い取ればお互いにハッピー!何も問題ない!そうでしょうが!」
なかなか良い回答をしない老婆に対し段々と苛立ちをつのらせているらしい
「ここはお父さんから受け継いだ土地…まえから売らんと言っちょるがね…」
老婆は意外にも怯えることなく 答える
「ここにサインするだげでいいっつってんだろが!」
バン!とテーブルに拳を叩きつけたと同時に僕は見かねて交渉の場に飛び込み助け船をだす
「お茶が入りました」
こんな殺伐とした場はばあちゃんには悪いがとっとと抜け出したい きっとそれは誰もが思うだろう しかしここにはおばあちゃんと若干22歳の若造しかいない 形勢はあまりにも不利だ
「おい!小僧!邪魔すんじゃねーぞ!コラァ!」
罵声が僕に向けられる 身体が萎縮して思わず目を瞑ってしまう…情けない…いつもこんなだ… こんな暴力的な奴にはかまっていられない!
そう思い部屋から出ようとしたとき
「…てめえ、今なんと言ったけ?聞き間違いならいいっちゃけんど…」
ものすごい睨み付けでばあちゃんがゆっくり顔を近づける
「わしの孫のいれた茶が気にくわんか…そうか気にくわんか…」
圧倒された嫌な訪問者が呆然とばあちゃんの顔をみているが理解が追いつかず声がでない
「…死ぬか小僧…」
そうつぶやくと同時に喉元に果物ナイフがあてられている
いつ 何時 ナイフを抜いたか誰も理解ができなかった
「あっ…あっ…」
訪問者は ただ怯えた声を出すだけであったが ゆっくりと果物ナイフを納めたばあちゃんが口を開く
「日向…お客様はお帰りじゃわ…」
僕にそうつげるとゆっくり立ち上がる
圧倒されていた訪問者もやっと現実にもどり急いで書類を片付け逃げるように 玄関から出ていき 帰っていった
「ばあちゃん!大丈夫?」
僕はこれを言うのが精一杯だったがばあちゃんは普段と変わらずお茶をすすり果物の皮を剥いてこう言った
「日向…たべるか?」
まだ残暑も厳しいここ宮崎に優しい風が吹いた
2日後 ここ宮崎県日向市にばあちゃんの雷が落ちる
だれがどうみても 先の訪問者のイタズラであろう…
自宅近くの畑は踏み荒らされ 家の壁には塗料がまかれ
幼いときにばあちゃんに買ってもらった自転車は損壊、走行不能になっていた…
「日向よ」
ばあちゃんが僕の名を呼ぶ
「ちとばあちゃんは電話してくるかい、片付け頼めるけ?」
普段と変わらない口調で僕に片付けを頼む
「う、うん…片付けしとく」
警察にでも電話をするのだろう…しかしせいぜい見回りが強化されるだけで犯人の特定は難しいだろなと思いながら片付けをしていると 電話口のほうからばあちゃんの声が聞こえてくる
「もし…サチエだけど…頼みがあるっちゃけど…うんうん…急で悪いけど…2週間後の日曜日夜8時から花火をあげてくれんかの…うん、一万発でよいっちゃけんど…市長には話しはしとくかい…」
電話を切りまたすぐどこかに電話をする
「署長おるけ?…サチエやけどー…ああ、悪いね…うんうん…いつもの封鎖と立ち入り禁止たのむね…忙しいときにすまんね…うん、うん…じゃあ日曜日夜8時から一時間ね…はい」
このときはただ片付けをしながら僕は聞いていたのだがざらっとした雰囲気を肌に感じていた
「日向」
ばあちゃんが電話が終わったのか僕に口を開く
「再来週の日曜日 花火をあげにいかんけ? おじさんの軽トラ借りてきてくれんけ?」
少し目を輝かせながらばあちゃんは僕に命じた
2週間後 午後6時
日向市は急遽決まった花火大会に湧いていた
こんな時期に花火大会なんて無かったのに 市長の一声で開催が決定 超短期間で花火大会が決まり準備が進んでいた
まあ 夏だし花火大会に疑問を持つ人はほとんどおらず町は活気に溢れていた
「ばあちゃん軽トラ借りてきたよ!いくんでしょ?花火大会」
僕は私服に着替えばあちゃんの準備を待つ
「日向…これ重いが荷台に乗っけといてくれんけ?あとこの箱もやわ…」
ばあちゃんに渡されたのは ギターケース プチプチに包まれた長方形の箱 かなり重い…
「ばあちゃん…乗っけたけどどうすると?これ?」
もちろん疑問に思った が ばあちゃんはこれに答えずに助手席に乗り込んだ
「行こうかねえ!」
少し明るい顔を見て 僕は軽トラを発進させた
きっとばあちゃんも花火大会を待ち望んでいたのだろう
「花火大会楽しみだね!ばあちゃん!」とばあちゃんに話しかけた ばあちゃんはにっこりと笑顔で答えた
「久しぶりの花火大会じゃわ…楽しみじゃわー!」
交通規制がかなり厳しく通行止めが多かった
誘導棒をふる警官にとめられる
「すみませんここから先は通行止めになります、迂回をー…」
一瞬警官の顔がこわばる
「特等席…特等席にいきたいんじゃけど」
窓を開けばあちゃんが警官に話しかける
「ああ!花火大会の関係者でしたね、すみませんすぐ開けます!」と通行止めのコーンをどけ僕らを通す
「?ばあちゃん、特等席ってどこ?」
軽トラを走らせながらばあちゃんに問う
「あそこなら極上の花火がみれるわい」
ばあちゃんが指を指す方向には日向市でも有数な大豪邸があったばあちゃんに言われた通りに大豪邸の手前50くらいの位置に軽トラを止める 外はだいぶ薄暗い 豪邸の中からはバーベキューでもしているのか ワイワイと叫び声やらなんやらが聞こえる
「ばあちゃん!8時から花火だからね!」
荷台の荷物を開けているばあちゃんに話しかける
なにやらガチャ…ガチャン!……ジャラララララ
と音はしていたが僕は気にせず花火が上がるであろう港のほうを見ていた
花火大会始まりまであと1分…
相変わらず豪邸からは騒ぎ声が聞こえる パッとみるかぎりなんだかチンピラ見たいな奴らばかりだ すこしこの前のことを思い出して身震いをする この前きていた訪問者とかあそこにいたらどうしようかと思ってはいたが バン!と花火がうち上がる音が遠くで聞こえた
「ばあちゃん!あがったよ!」と興奮した僕が言葉を発した瞬間カッチャ!と何かを引く音が聞こえた…どこかで聞き覚えがあるようなないような?
当たりに光がはじけ 花火が大輪を咲かせた瞬間であった
「戦じゃあああああああああああ!!!!!!」
ばあちゃんの声が聞こえた瞬間 その物体の正体がわかった
M60 7.62ミリ弾を発射する…機関銃⁉️
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!
破裂音が当たりに響き渡りばあちゃんの周辺が閃光が走り続ける
曳航弾も含まれているせいか綺麗な線が豪邸にまっすぐ進む
異常を察したのか 豪邸から罵声や悲鳴が聞こえてはくるが機関銃の発する音でかきけされていく
ガキン!と言う音で弾の発射が止まる
港方向からはなお 美しい打ち上げ花火がうち上がり炸裂していた
あまりの状況に我を失っていたが
「日向、行くぞ!ついてこい!」
との声にしたがい 豪邸に侵入するばあちゃんのあとをおった
豪邸は地獄絵図 吹き飛んだバーベキューセット 血まみれのチンピラが10人単位で転がっている
動いているものはわずかだ
中庭に侵入したばあちゃんをおう
頭の中ではなぜばあちゃんが機関銃をぶっぱなしていたのか
また豪邸にうちこんだのか理解が全く追いつかず ついていくだけであった
豪邸の奥から数人 刃物を持って中庭におりてくる
「なにしとんじゃわれぇ!」
あ、あの自宅にきていたやつだ!頭の中にはそれしかうかばずただその姿をみて また萎縮がはじまる しかも手には刃渡り30センチくらいであろう刃物が握られている
「ばばあ!てめぁか!」
と叫んだ瞬間 ドン!と言う音とともに男はひざから崩れ落ちる
「死ぬか…小僧!」
ばあちゃんの右手には拳銃が握られている
少し銃に詳しいものならわかるであろう
ガバメントが握られていた 出てきた男どもに容赦なく45口径の弾が撃ち込まれる
ドン! ドン! ドン!
気づいたときにはぼくら以外誰も立っていなかった
拳銃の弾が切れ ホールドオープンをし 弾が切れたことを示していた
と、ばあちゃんの左側からあの訪問者が足をひきずりながらも走りこんできた
「死ねばば」 ドン!ドン!ドン!
弾は切れていたのになぜ! と言う顔で崩れ落ちる男…
しかし僕は見ていた 走りこんでくる男をよそにエプロンの中からもう一丁のガバメントを左手で取り出し男に撃ち込んだのを…
ばあちゃんがガバメントをしまうと携帯電話を取り出し話し出した
「署長さん終わったよ…あとはまかせたねえ、ご苦労様」
「日向、花火大会いこうかね」ばあちゃんはにっこりと笑った
それからの記憶はあまりないが たこ焼きを食べたのはかすかに覚えている
やっぱりばあちゃんは 孫に甘い
ー完ー
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