大切なもの
最終話です!
今まで読んでくれた皆さん、本当にありがとうございました!
またいつか、新しい作品でお会いできたらと思っています。これからもどうぞ宜しくお願いします!
「…………」
俺は布団に寝かされていた。布団にくるまれてぬくぬく、あったかい。さぁ二度寝をしようかな。
妙に頭が痛いし、この愉快な時間に身を委ねたい。
「ああ!! ちょちょ、また寝ないでよ」
「……え? なんで……」
「気持ちはわからなくはないよ、でも君は私の話を聞かなくてはいけないんです。それはあなた自身の有益のため、そして私の有益のため。つまり、利害の一致のため」
「その話が俺の利益になるか、決めるのは俺で、そして話を聞くかどうか決めるのは俺だ」
「聞かないとその判断さえ決めれないよね?」
おっしゃる通り。まぁ、無視して寝ようなどとは考えてはいないのだが。
「おや、ずいぶん素直に聞いてくれるみたいだね」
俺は、布団から体を起こし、目の前の男性の言葉を待つ。
やっと覚醒してきた意識。目の前は混沌としていた。大声で泣いている妹、そして誰かわからない男性。俺は素直な疑問を口にする。
「君、誰?」
「初めまして。白井裕翔君。俺の名前は………えっと……山葉和也って言うんだ。もう一度、俺と友達になってよ」
そう言って、山葉和也なる人物は、右手を差し出してきた。
(話ってそれか。思ったよりもずっと短かったな。しかも……。)
一瞬、「もう一度」と言う言葉に疑問を抱いたが差し出された右手を無下にするつもりは一切ない。俺はその右手を「よろしく」と言いながら、握り返した。彼の右手は女の子かって、思ってしまうくらいに細かった。
✽
目を開けると、視界がぼやけていた。すぐに水の中にいると理解する。そして焦ることなく、緑色の水の水位が下がるのを待つ。水が何処かに消えてしまうと、今度は透明の扉が音をたてて開く。同時に、先程まで微かに響いていた駆動音がより鮮明に聞こえた。
俺は、取り敢えず着替えようと自身のクローゼットに歩み寄る。クローゼットを開けると必然的に扉部分についている鏡に目がいく。そこには他でもない自身の上半身がうつされていたのだが………。
「……かなり痩せたな。俺」
自分自身を見て、驚いてしまう。約1週間と言う短い時間だったが思いのほか体にきているようだ。頬が若干コケて見える。
着替えを済ませ、卵型のVRシステム『Dive Room』を見つめる。因縁といえばこいつが始まりだな。
半年前、デバッグの手伝いに始まり、綾音の事件。そして再会はつい1週間前。そして、仮想空間に閉じ込められ。
最終的に半年前の過去を断ち切って俺はこうして『Dive Room』を見つめている。
長かったようで短い。
そんな1週間だった。閉じ込められたのが俺の誕生日だったのもなにかの偶然だったのか。それはもうわからない。しかし、俺自身何か変わったように感じた。それは1週間前はベッドから、日の光を浴びながら興味もなくただただ見つめていた『ダイブルーム』を今は、ダイブルームからそのベッドを見つめている。
そう思うと、やはり。記憶が戻ったのだと嬉しく感じる。
部屋の中は夏なのにとても涼しい。冷房が回っているのだろう。ひんやりと肌寒い室内で俺はベッドに腰掛ける。ベッドの近くにあるはずのバナナの皮はなくなっていた。掃除も、冷房もAIシステム『RORO』さまさまである。
「今では半年前の事もしっかりと思い出せる……!」
俺はそれをとても幸福に感じている。
✽
半年前。山葉和也と、沙織、一葉としばらく他愛もない、距離の図り合いをしていると、医師が病室に入ってきた。
その医師によって俺は不運な事故によって一時的に記憶がなくなってしまったと聞かされた。
余程の事がなければ、半年後には思い出せる。とも聞かされた。
「急いで思い出そうとする必要はありませんから」医師はそう締めくくって部屋から出ていった。
そのおかげで、妹が泣いていた理由と和也の事を思い出せない事に合点がいったのだった。
とは言っても、何かすっぽり抜けてしまっていると言う感覚はどうしても拭えない。
俺は妹、山葉和也、そして一葉にも質問したが、俺の求める返答は返って来なかった。何かお茶を濁されているような気持ちがあったが、これと言って不満はなかった。
どちらかと言えば、覚えていない事を伝えることは難しかったのだ。実際「あ、俺ってさ……なんか忘れてない?」こんな質問。いや、全部だわって話だよな。
まぁ。みんなは多分察していたのだろうけど。
今思うと、皆事実を喋りたくても、喋ってしまってはいけないのだから、非常に迷惑をかけたと思っている。
そして感謝している。
両親が死んだと言う事実はショックだったが、親の顔が思い出せないので悲しくはあったが、何か欠けている感じがしてならなかった。実際生きているし、和代さんの嘘は割と洒落になんないよな……。
この半年間の綾音の男装と一芝居は、今思うと色々おかしな点があったりする。綾音は何回か一人称が変わっていた時があったし、翠咲は和也の事を知らないと言っていた。ピエロ戦の時「カズさんは高校でのお友達ですか?」と言っていたし。
そう言う事を含めてこの半年間は皆に、迷惑と苦労をかけた。
恩返し。そうだ。この感謝を表すには行動で示すしかないだろう。鉄は熱いうちに打て。明日野郎は馬鹿野郎。
善は急げ。
残る夏休みを捧げて、この『半年の大嘘』に携わったすべての人に恩返しをしなければならない。
ならば、と俺はベッドから立ち上がり、ドアを開けた。
ドアの横の棚に置いてある誕生日に皆で撮った写真が目に入る。よし。まずは、あいつだな。
✽
「弁明は?」
「申し訳ありません………!」
俺は恩を仇で返す結果となっていた。
「違うんだ。これだけは聞いてくれ、沙織」
俺は恩返しの為に隣の沙織の部屋に行ったのだが、丁度沙織はログアウトを終えたところだったようで、まぁ。あとはお察しのとおりだが、下着姿を見てしまったということで。
「なに?」
というわけで、沙織は不機嫌だ。
「俺さ、記憶が無事戻ったよ」
唐突だったからか、沙織が固まる。
「………え?」
沙織は驚いたようで、目を見開いている。そしてこれでもかと見開かれた目から一粒の涙が、とめどなく溢れ出す。
沙織は先程の機嫌はどこへやら。抱きついてくる。
「心配かけたな」
「本当だよ……! 良かった……」
「あ、えと、その。この半年間色々世話かけたから、恩返しがしたくてな」
「そっか……」
そんな会話を交わしていると、インターホンが鳴る。
「見てくる」と、断りをいれてから俺は扉を開ける。
「……」
そこには、半年ぶりの顔があった。そうだ。今まではカツラをかぶって男の子を演じてくれていたんだ。
今の和也……。綾音は、白いワンピースを身にまとい、かろうじてさしこむ夏の日差しにキラキラと反射する茶髪の髪は腰に肩にかかるくらいの長さ。半年前より少し長くなったか。
向日葵を連想するような、そんな彼女の頬は少し赤い。
「あがってけよ、綾音」
「……綾音でそれ言われたの、本当久しぶり」
そう言いながら、明るく笑う綾音につられて俺も笑う。
「良かったのぉ。バカップルよ」
そこに、やってきたのは一葉。腰まである髪を耳にかけなおしながらそんな皮肉を言ってくる。
「悪い。迷惑かけたな、一葉」
「いいんじゃよ」
「……立ち話もなんだ。ささ、あがって」
「そうさせてもらおうかの」
俺は扉をしめ、玄関をあとにし、ダイニングへ行くと沙織がドアを開ける音で気づいたのだろう。振り返って「翠咲もくるって」そう俺に伝言する。
皆が揃うことになりそうだ。
✽
「お邪魔します」
礼儀正しく挨拶をして、靴を揃えて上がってくる翠咲。
「半年ぶりだな、翠咲」
「そうですね〜、先輩」
今日の翠咲は眼鏡をかけていて髪を後ろで結んでいた。眼鏡越しのこの上目遣いを見るのも本当に、久々だ。
(翠咲も来たことだし、そろそろ本題に入りたいとこだが……)
どいつが持ってきたのやら、据置型ゲーム機を持ち込んでFPSをしていた。どうやら1デスごとにまわしているみたいだ。
皆楽しそうにゲームをしていた。笑いながら、時に大きな声をだしたり。十人十色のプレイスタイルで、敵を欺き、キルしていく。
あいつがどんな意図をもってあんな馬鹿げたハックなんかしたのかは俺には分からない。でも、やっぱゲームってのは楽しくないとゲームとは言わないのではないか。無理に閉じ込めて、仮想現実に押し込んで、命をかけて。そんなのは楽しくなんか、ないだろう。
だから、俺は、俺には。こんなにも楽しそうにゲームしている4人を無理にやめさせて話を聞いてもらうなんて。
できるわけもなかった。鉄は熱いうちに打て。明日野郎は馬鹿野郎。
善は急げ。は?
そんな言葉は知らん。急がば回れ。さっきだって急いだからあのようなことになったのだから。
恩返しはこれからしていこう。夏休みはまだたんまり残っている。
もう忘れることなどないのだから。
「俺も混ぜてくれないか?」
「オッケー、じゃあ今から2コンでone on oneしよー!」
「いいね! 燃えてきたわ」
皆が盛り上がり、ゲーム設定をはなしている。そんな風景をここ半年。全然見たことがなかった。やはり、気を遣わせていたのだろう。でも、これからはそう。いつでも家に遊びにきて、ゲームしてもらって構わない。本当に記憶が戻るってことがいかに幸せか、俺は再認識した。
「抽選の結果、沙織ちゃんと裕翔だね」
「よっしゃ……! 手加減なしで行くぜ?」
「望むとこだよお兄ちゃん」
「ゲームは10ポイント先取。時間無制限使っちゃいけない武器ミニガンと、サプレッサーのみじゃ。それじゃスタートじゃ!」
✽
このマップは2つの家がありその丁度真ん中に電車が2台横たわっている比較的小さいマップだ。
(さてさて、大方の位置は分かる。)
俺はリスポーンした位置から、逆に沙織の大体の位置を把握する。
俺がリスポーンしたのは家の2階部分。なので大方反対側の家のエントランスだろう。
「いた」
家から無防備で出てきた沙織を発見し、俺はスコープを覗き込む。こちらには気づいていないようで辺りをクリアリングしているようだ。
スコープを沙織の頭にあわせ、引き金を引く。
二階に鳴り響く薬莢の音。鼻腔を硝煙の匂いが刺激することはないが、かわりに現実で沙織が仰向けに倒れた。
「よっしゃ、……!」
「あ〜!! そこかよ……!」
俺たち兄妹はそれぞれ思い思いの声を上げ、俺はガッツポーズ。沙織は頭を抱える。
「うまいのぉ。ブランクが全然感じられんぞ」
そして、一葉が感嘆の声を漏らす。
「まぁ……! でもお兄ちゃんの武器がスナイパーって分かったから、距離さえ詰めれば私の勝ちだよね」
そう言いながら身体を起こし、リスポーンした沙織は上手い具合に遮蔽物に隠れながら場所を変えた俺の目の前に迫る。
距離は十米フラット。このレンジではどう考えても沙織のサブマシンガンの方が有利だ。
だが。
「お兄ちゃんを舐めるな」
ボタン、スティックを素早く操作し、沙織の股をスライディングでくぐり抜け銃弾の雨をぬける。そして、沙織が振り向くよりも先に沙織の頭に銃口を突きつけ発砲した。
✽
「おやおや、これでフィニッシュだね!」
「俺の対戦相手は、……やはりお前か、綾音」
順調に試合が続き、特にどんでん返しや波乱が巻き起こることはなく俺と綾音がコントローラーをこの決勝戦で握ることになった。
「裕翔は勿論スナイパーなんだよね?」
「逆に綾音はこのゲーム内で、至近距離じゃないと全然火力のでないショットガンなんだろ?」
「んふふ〜、私は技術でカバーする人だから」
綾音はそう豪語する。こいつは本当に操作が上手い。俺と五分くらい。つまり、寄せられれば確実に俺が負ける。逆に距離を取られると綾音の負けとなる。
実際、そのような展開が続き今は9対9大接戦となっていた。
裕翔の狙撃を車や列車に身を潜めそれをやり過ごす。綾音は基本、裕翔のリロードのタイミングを狙って飛び込んでいる。それは裕翔も理解している。お互い緊迫した雰囲気が漂う。
そんな中、裕翔は不覚にも考えずにはいられない事があった。
俺は、『SKILL Magic』では実際にクリアした後、ログアウトするまで少し時間があった。その際、多くのプレイヤーから救世主だと言われた。結局あのゲームを終わらしたのは他でもない俺だったから。
けれど何故最初にイブは俺を救世主だと言ったのだろうか。多分、1位だった実力があるから、きっと最大の障害になると思っての事だろう。それとも嫌がらせか。
今回は閉じ込められたせいで、命のやり取りをしているようでゲームではなかった。ゲームってのは、こんな風に笑顔で笑いながらするもんだよ。やっぱり。
先程も思った事を反芻する。
また、皆とこんな風にゲームがしたい。できればVRで。この五人となら楽しくないゲームなんか存在しない。今回にしても、皆がいたから俺はがんばれた。そんな存在を忘れていたのだから、馬鹿なものだ。やはりあんな形じゃなくて。皆と笑いながらできるそんなゲームを。
俺は――――五人で一緒にしたいと思った。
誤字の報告を下さった方、感想を、書いて下さった方、ありがとうございます。
ブックマーク等、評価を下さった方々、本当に励みになりました!ありがとうございます。
本当に楽しい連載期間でした。




