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あと一話で完結となります!
最後までお付き合い下さい!
「――と、まぁこういう理由があったんだ。思い出した?」
裕翔は大きく息を吸ってから、大きな溜息をつく。
「本当、どうして忘れちまっていたんだか。そう今では思うくらい、鮮明に思い出せるよ、ありがと、母さん」
「……私も嬉しいよ。ごめんね、色々さ。母親なのに」
「うん、こっからでたら見舞いに行くよ」
「へぇ〜、その為にはイブに勝たなきゃ行かないけど? 1回負けた相手だよね? いや、2回か」
「そうだけど、一回はもう少しで勝てそうだった!!」
「負けず嫌い」
「……見栄をはってるわけじゃないよ。かあさん」
「綾音が、襲われていた時に1回。あの一回で俺に力があれば、全て終わってたんだ。母さんも轢かれなかった」
「まぁそだね。でも、モンキーレンチと拳じゃ話になんないよ」
「そこはいいから」
「とにかく。……今俺は、100%誰にも負けないから」
「そ。じゃ頑張ってらっしゃい」
「あ。そういうや母さん。俺の前のデータの名前。どうしてつけたか思い出した。」
「テスタって、名前?」
「うん。あれね、俺がデバッグする人って、意味でつけたんだよ『テスター』からテスタって」
「その名前見た時点で思い出してほしかったわ」
「ははは……」
裕翔はか乾いた笑い声をあげ「いってきます」と、半年ぶりに母親に言ったのだった。
✽
迷宮では、決着の見えた戦いが繰り広げられていた。『オートモード』の前に綾音、もとい『アヤ』の剣は届かず、頼みの綱の加護も完全にレンジを見極められていた。
「はぁ……はぁ……!」
「悲しいことですが、私はアヤさんをゲームオーバーにしてそこに寝ているクソ野郎を殺さないといけないのです。このままやっても勝負は見えているお?」
「何で……!? こんなにあっさりと……」
「う〜んと、さっきも言ったとおり貴女の加護『【火炎】』の能力は超強力だお? でもね……散々テストで見てきたのだからもう、網羅しているのとかわらいなお」
「それに比べ、テスタの創製はパターンが多彩なので実際対処できないんですよね」
迷宮では、決着の見えた戦いが繰り広げられていた。『オートモード』の前にアヤの剣は届かず、頼みの綱の加護も完全にレンジを見極められていた。
「ふっ……!」
アヤが『スキル 神速』によって、距離を埋め直剣を力任せに何度も突き出す。それを見極めてイブは半歩身を引いて首を右左右と交互に傾けて、なんなく交わす。
するとアヤが余ってた方の手を前に突き出す。
「吹っ飛べえええ!」
そう叫んだ瞬間、火の波が辺りを覆い尽くし、イブを飲み込んだ。
「危ない危ない。その威力だけは、本当に恐ろしいお」
その声が聞こえたのはアヤの背後。
「しまっ……!」
「ごめんね」
振り上げたその腕はアヤに振り下ろされる事はなく、『オートモード』が回避運動を取った。そして、イブがさっきいた場所にはシロカがたっていた。
「あー、もう。また……!」
苛立ちの表情を隠さないイブは、着地すると大きく舌打ちをした。
「半年ぶりだな。西林」
「礼儀をしれクソガキ」
裕翔、もといシロカは目の前にいるアヤに声をかける。
「もう記憶は戻ったよ。半年間ありがとな綾音、いや、和也?」
「綾音だょぉぉ……! 思い、出してく、れたんだねえぇぇ………!」
「ちょ、泣くなよ」
シロカは少し距離をとっているイブを睨めつける。そして、いつもの言葉を口にする。
「さぁ1on1だ」
その宣言に嘲笑でイブが返す。
「はっ……! 馬鹿か!? お前はテスタのデータですら、勝てないのに。ましてやシロカのデータで勝てるなんて思ってんのか?」
「ああ。勝つ。『記憶複製』」
想像複製ではなく、記憶複製だ。
シロカの頭から電気が迸り、その電気が脚をめぐり体中に行き渡る。そこにはカズの姿があった。
シロカは自身のデコに右手をあて。アヤの肩を左手でつかむ。
「ペースト!!」
カズが一人増えた。
シロカはカズの姿の綾音を見ると、感謝の気持ちが込み上げてくる。
(半年間、ありがとな。和也。お前のおかげでとても楽しい半年間だったよ)
もう見ることはないであろう和也に別れの言葉を送る。
「え? あの………これは?」
「へぇ、人にもペースト出来るようになったのか。凄い凄い、じゃあ、行くお?」
シロカはイブの言葉を歯牙にもかけずに。綾音の肩から手を離し、今度は綾音の手を掴む。
「ええええ!?……なに!?」
今まで、沢山の苦労をかけた。今まで何回も泣かせた。今まで、ありがとな。
「『記憶複製•分配』!!!」
何も、起きなかった。何もシロカには変化はみられないし、もうコピーの加護の効果も切れ、カズからアヤに戻ってしまっていた。
シロカはすでに別の――ミキの――姿になっていた。それを、アヤにペーストして、効果を解き、またサユリ、イチハと順にアヤにペーストしては、『シェア』と唱え続けた。
「さぁ、やろうか」
シロカは紫の刀身の『紫電』を引き抜き、イブに向かって宣言する。
「? 二刀で来ないの?」
「いいんだよ、勝てるから」
そう言うと、スキルは使用せず地面を蹴った。
両者の剣が甲高い音を立てる。その場で鍔迫り合いが起こる。シロカは、一瞬片手を離しイブに向ける。
すると、火炎の波がイブをの顔面を飲み込んだ。
「は?」
何が起きたか分からないと言った顔をする。イブ。
「これか? これは俺の新たな能力の『分配』だ」
「そ、それか! テスタの創製、綾音さんの火炎、最後の一個がどんな加護なのかわからなかったが……それが3つ目か!!」
イブが激昂する。焦げた顔を怒りに震わせ、剣を握りしめる。
「かかってこい。お前には必ずゲームオーバーになってもらう、そして、遊戯終了だ」
「クソがあああああああ!!」
雄叫びを上げながら、スキル『神速』を駆使し、一度距離を取り、もう一度イブはシロカに突っ込む。物凄い速さで、まさに弾丸のようなスピードで。
イブが上段に構えて振り下ろす。それを予期していたかのようにバックステップで後ろに下がり回避。先程まで城化がいた場所には円上の亀裂が生まれていた。
ある程度、イブから距離を置いたところで、アヤのフレアをイブを中心に囲うように配置する。それとほぼ同時にイブの頭上に隕石が降っていく。
「!? サユリの能力だお……!?」
イブはとっさに、スキル『ディフェンスキューブ』を発動し、隕石を無傷でしのぎ、スキル『アクセル』により天井まで飛躍、フレアから脱出する。迷宮の天井にイブが伸ばした腕は容赦なく、無慈悲に切り落とされる。不可視の斬撃によって。
「カズの能力か……!?」
「それだけじゃねぇよ。どうして、お前の行動は先を越されるかわかってねえみたいだな」
「み、……未来予知か!!!」
「だから、俺はMPを使うスキルはつかわないんだよ」
ピエロと戦ったときは、俺が変にプレイヤー達を助けようとしたせいで、ミキに無駄にスキルを使わせちまったからな。
そのおかげで俺は今、ここに立っている。
――ありがとな、ミキ。
右手をなくしたイブのオートモードは文字通り半減した。
「手が足りないか? まさに猫の手でも借りたい状況だな」
「黙れ。黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!」
「俺は、お前以上に怒ってんだよ!!! 半年前、そして今も、俺らの邪魔ばかりしやがって!!」
両手で剣を下から薙ぎ払い、イブを力任せに上空へ吹き飛ばす。
同時にシロカは上空からサユリの隕石と下からは、アヤのフレアを放ち挟み撃ちにする。
イブは空中でなんとか、バランスを取り『ディフェンスキューブ』を再び発動し、その場を凌ぐ。
煙が立ち込めるなか、イブの左腕を閃光が駆け抜けた。そして、腕が焼き切られた。
「イチハ……の!!」
苦々しく吐き捨て、なすすべなく落下する。
「くっ……あ……!あ!ああああ!!」
「チェックメイトだぜ」
膝をつくイブに対して、シロカは紫の刀身を突きつける。
「くくくくく………これで終わりと思ったのかお? 何でこうもボロボロになるまで、俺が自身の加護を使わなかったと思う!?」
「まさか!?」
そう言ったイブ本人はどこかに消えてしまっていた。
「俺の『穴』は作れる個数に制限などない! 今このエリアにある『穴』の数は47個! どこから来るか予想できるか? 悪いが、未来予知は封じさせてもらったお!?」
どこからか響くその声にシロカは目を見開いて、苦々しい表情を見せた。イブに設定をいじられたのだろう。『未来予知は使えない』とシステムに上書きされたのだ。
「? 未来予知だけみたいだな。いじったのは」
「設定を変えるなんて、そう何回も何個もできないんだお」
そう言って、イブはどこかの穴に姿を眩ませる。
後ろから急に空間が歪み、イブが現れる。腕はもとに戻っていた。シロカもなんとか対応して、激しい剣戟を繰り広げる。しかし、数度打ち合ってはすぐに穴に消えてしまうので、中々致命的なダメージはお互い受けていない。
イブは、1つの穴をあえて歪ませ、その反対方向から顕現した。
完全に逆をついたイブはシロカが振り返るよりも先に、両腕を跳ね飛ばした。
「お返しだお? これで、お前は何も出来ない」
「……! でもな。既に勝負は決まってるんだよ」
「なんかさ、分かってたんだ。ここに来るんじゃないかって。というか、結局切るために俺の近くに来なきゃ駄目だろ。そしたらさ――――」
「罠張るのも容易いよな」
次の瞬間、イブの脚元から無数のレーザーとフレアが荒れ狂った。穴に逃げ込む隙も与えず、オートモードで防ぐ暇も与えず、イブは、後方に吹き飛んだ。
「ぐ……ごっほ……!!」
「策は尽きたかよ?」
イブは迷宮の端に体を預けるようにして動かない。シロカは斬り落とされた腕をコピペして、紫電を握りしめる。そしてゆっくり、イブの前に歩を進めて。項垂れているイブに紫電を構える。
「因縁を絶ち切れ――――【紫電】」
紫色の雷光が因縁を絶ち切るかの如くイブの体を打ち砕いた。
キラキラと結晶が舞い散り。イブが霧散していく。
「………」
周りにはキラキラと眩いくらいの結晶と、『gameclear!!』の文字が迷宮いっぱいに表示された。
終わったのだ。半年前の因縁も、短いようで長かったこの2週間も。
そして俺自身の因縁も。
俺はこの世界を見渡して、心の中で何度目になるかわからない言葉を口にした。
――――ありがとう。
あと一話か。しみじみ




