呼び出し
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私は液晶端末を開いてメッセージ欄を確認する。母親が帰りの時間を心配して送って来たのかと思ったけど、どうやら違うみたいで、西村さんからだった。
西林さん。あのデバッグの会社に努めている会社員。語尾が特徴的で、優しい人という印象だ。ふくよかな体型も相まってかもしれないけれど。
「今日、こんな夜中にでてこれるかな?」
気がつくと9時半過ぎ。もうそろそろみんな帰らなくちゃいけない頃だし。帰りに寄ってくくらいならできるかな。そう考えた私はメッセージを打ち込む。
「はい。今外にいるので、裕翔も連れて帰りに寄りますね」
すると、すぐにメッセージが返ってきた。
「今日は綾音さんだけでいいよ」
「え?」
思わず声に出してしまう。うん? おかしいな。基本二人共招集されるはずなのに。
「? どうかしたのか?」
「いや、なんか私、会社行ってから帰るね」
「おう、なら俺も」
「ううん、大丈夫だって。今日は私だけみたいだから」
「? そんなこと今まであったか?」
「う~ん、そうだよね。あ、裕翔のデータじゃダメな理由があるんじゃない?」
「まぁそんな事もあるか」
「なんの話じゃ? 馬鹿っプルよ」
「なんでもねぇよ! つか、見てたのかよ……お前!」
「なんの事じゃか。しらんしらん」
「顔が笑ってるよ、一葉ちゃん……」
「でも。これはほんとになんでもないから。皆そろそろ帰ろ?」
私は一葉ちゃんにそう言って、次に談笑している二人にも声をかける。
「そうだね、もう結構遅い時間だし」
「いや〜、今日楽しかった!」
クリスマス『イブ』なんかに働いているなんて西林さん達は真面目だなぁ。
なんて事を考えながら、電車に揺られること数分。私が会社に行くときは皆と一つ違う駅で降りなければならない。やっぱ断っちゃおうかな。とか、色々考えたけど。西林さんにやっぱ悪いよね。
「綾音、またな」
皆と違う駅で降りた私に裕翔が手を振る。皆も手をふっていた。
さぁて、とっとと終わらせてかえるぞ!
「うん、じゃあね!」
私は手を振り返した。
✽ ✽ ✽ ✽
『あんた、いつ帰ってくんの? 割と遅くなる?』
いつ帰ってくんの? って聞かれるって事は母さんは今家にいるってことだ。はて?
「今最寄り駅についたとこ。もうすぐ帰るよ。ってか母さん、今日会社じゃないのかよ?」
『え? なんでよ。会社自体、休みって朝に言ったでしょ?』
「おい。何でだよ!!」
俺は母さんに怒ったのではない。自分の記憶力のなさに腹が立ったのだ。
そうだよ。言ってた。朝に。今日は会社が珍しく休みだとかなんとか。
「悪い母さん、母さんに怒ったんじゃないんだよ。なんかさ――――」
俺は皆に聞こえないように小声で事情を説明した。
『それはおかしいわね。そんな事聞いてないわよ。っていうかどっちかって言うと綾音ちゃんの方がおまけって感じだから、綾音ちゃんだけ呼ばれるってのはまずないはずだけど。それに、上司の私に話が回ってこないのは何よりおかしいわ』
「そっか。俺ちょっと見てくるわ」
『はいはい。ま、私も行くわ。少し変だし』
何か変な予感がしたのか。母はあとから行くと言ってくれた。
母の行動力に感謝しつつ。
「じゃ、」
俺はそう言い電話を切った。
「わり、俺遊園地に忘れモンしたわ。とってくる」
「あ、ちょっと!」
俺はもう一度電車に乗り込んだ。
別に何かおかしな事が起こっている訳でもない。西林さんが何かテストを頼みたいから、綾音を呼び出したのだろう。
俺を呼ばなかったのは、そのテストには俺のデータではだめな理由があるとか。そういう可能性の方が全然ある。多分俺の取り越し苦労だ。後で笑い話にされるだろう。母まで巻き込んで。
ホント馬鹿な話で終わればいい。
――でも。
――もし西林さんが犯罪に巻き込まれていて。何かの関係で綾音が関わりを持ってしまっているなら。
なんて。
そんな可能性の低い話で俺は綾音のもとに向かってる。
綾音と会う口実かもしれない。無意識で。
帰り道にこんな馬鹿な男の話を聞かせてやろう。
――――いつもみたいに愉快に笑ってくれるだろう。
――俺の大好きな笑顔で。
✽ ✽ ✽ ✽
「西林さん〜?」
呼んでみるけど、返事はない。あたりはしんと静まり返っていた。なんだか怖い。ピエロとかでてくるんじゃあ……。
なんて考えるのも全部あのお化け屋敷に入ったせいである。
もう。トラウマものだった。一葉ちゃんがなぜか怒っていたし、もうホントに怖かった。
でも自分で言っていて笑ってしまう。なんて馬鹿な事を考えているんだろ。いい笑い話だ。そこで一人の男子が頭に浮かぶ。
この馬鹿げた話、またあった時にでも話してあげよう。
きっと微妙な顔をして笑うんだろうなぁ。
私の大好きな笑顔で。
「ああっと! ごめん!綾音さん」
「わぁぁああああああああ
ああぁぁ!?」
何処からか現れた。西林さんの声に驚いてしまう。
びっくりさせないでほしい。ホントに。心臓が飛び出そうになった。比喩だけど。
「うっほんっ……! それで今日は何すれば良いんですか?」
大声で驚いてしまったのをごまかす為に咳払い。
そしてどんなテストなのかを尋ねる。
西林さんは笑いながら「今日はログインだけでいいよ。夜も遅いし、早く終わらせて帰んないとご両親が心配しちゃうからね」と言った。
「母は今いないんですか? ここに」
「うん。見ての通り今は僕1人だよ」
あっれー。何でこの人だけなんだろ。と少し疑問を抱きつつもまぁ別に問題ないか。と、納得する。だってログインだけなら簡単に終るし。10分もかからない。私だけってのは二人もいらなかったからだ。
「じゃあ、いつもの部屋でログインしてきますね」
「うん、お願いね。替えの服おいてあるから」
そう言って私は冷たく暗い渡り廊下をビクビクしながら渡って2つ目の部屋の扉の前でドアノブをひねり、中に入る。すると自動で明るくなり、もともと白い部屋がより鮮明になる。部屋の中には特に何もなく、白い卵状の球体、VR装置『DiveROOM』が、部屋の端に鎮座しているだけだった。
私は服を脱ぎ、ダイブルームの横に綺麗に畳まれていた白い服を着用する。今回何故かズボンがなかった。
「ズボンがない……。ま、いいや」
少し恥ずかしいけどすぐ終わるし、わざわざそんな事で文句など言いたくなかった。
さして、それを気にする事なくダイブルームの中に入って酸素マスクをつける。ダイブルームのいたるところが冷たくて、震えながら電源を入れると、温かい緑色の液体が流れ込み、徐々に水位が上がっていく。かと言って焦ることもない。いつもの現象なのだから。
「ダイブ」
私はこれもまたいつも通りに呟いた。
そして目をつぶる。耳には「ウイイイン………」と起動音と駆動音以外何も聞こえなくなった。
今度目を開けたときはSKILLmagicの世界の広場にでも居るのだろう。
そして、私の意識は薄れていった。
「ほっ」
目を開けたときは、案の定。ゲームの中だった。空には星が広がり、辺りの酒場や、宿屋の明かりと賑やかな喧騒が聞こえてくる。クリスマスイブだからだろう。広場中央の噴水はライトアップされ七色に変化していた。
少しこのまま立っていると、メッセージが1件来た。予想通り西林さんからだった。
『ありがとう! もういいよ』
その言葉を見て、私はオプションメニューからログアウトを選択した。視界が暗転し、しばらくして「ウウウン………」と先程聞いた音がする。言ってた通り10分も掛からなかった。
私は目を開ける。身体はポカポカして温かい。温泉に浸かっているかのような感覚だった。しかし、水が引くと同時にどんどん寒くなった。早く服を着よ。そう思っていたのに。DiveROOMから出た私は言葉を失った。
「え? ちょっ……!」
西林さんが目の前に立ってた。そのふくよかな体型とその眼鏡、見間違うはずがない。何で……?
恥ずかしさのあまり、大声を出しそうになるが、ぐっとこらえて口を開く。
「あの! 着替えるので、その……外で待っててもらえます?」
西林さんは何もしゃべる事なくただじっと私を見ていた。
恥ずかしい。
私はもう一度。今度は口調を強めて言った。
「すいません。……出てってもらえます? 着替えるので」
温かかった身体も冷えてきていた。すると、ここで西林さんが、静かな口調で私に問いかけた。
「なぁ……。何でだよ」
「え……?」
いつもと西林さんの様子がおかしいので私は眉をひそめた。でもそんなことよりとりあえず出て行ってほしかった。
「どうしてだよって聞いてんだ!! 答えろ!!!」
私は肩を震わせた。いきなり調子が変わって。
――――西林さんの顔は怒りに歪んでいた。




