遊園地にて
「おぇぇ……」
俺は。ジェットコースターが嫌いだ。なぜなら気持ち悪いから。視界の全ての風景が混ざり合い、混沌とした幻想を網膜に刻みこんできやがる。それだけではない。そう言える、それはこの腹部より伝達されてきた感覚の事だ。胃液が重力に抗い、重力を押しのけ(実際はそうではないが)喉を焼き焦がす。しかも、運が悪いときは喉を焼き焦がした胃液が口という城門をすり抜け、再び外界に舞い戻って来るのだ。――Reverse。
いや。全然格好良くないよ。
こほん。つまり――俺は遊園地に来ていて、ジェットコースターで気持ち悪くなったと言う事をなんとなく、漠然と察して頂けたら取りあえずなんの問題もない。
「先輩、はい。お水です」
「あ、すまん。ありがとう」
最初にこんなにみっともない姿を晒しておいてなんだが今日は夜ぐっすり眠れるくらいまで思いっ切り楽しもうと決めているのだ。その理由は言うまでもない。? 言わないと分からない? ったく、しゃーねーな、明日はサンタクロースの襲来ってわけだ。
襲来と言う物言いはどうかと我ながら思う。勿論、かく言う俺も、家に小さなツリーを作り、キラキラと輝く飾りを多量に使用し彼の襲来を待ち望む側なのだから。しかし、不法侵入罪に当たるのでは、法に抵触してしまうのでは、とサンタを慮ってみる。
「あはは! 裕翔はなんも変わってないね!」
腹を抱えて笑う綾音。そんな綾音は茶色の温かそうなコートを羽織っていた。チェックのマフラーを巻いて。うん。似合ってる。
「は? 何言ってんだお前。吐かなかっただけでも進歩しただろうが」
つーか、元々お前が小さい頃、遊園地来たときはしゃぎにはしゃいで俺を引っ張り回してジェットコースター乗りまくったせいだからな。と、言いたいところだけど。楽しかった思い出なのでなんか指摘できない。
無念だ。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「おお、ヤンキー。大丈夫だけど金はないぞ」
「ぁあああああ!! もう! マジで勘弁して!! 出来心だったの!」
何故か金髪になってた沙織が心配してくる。
本人曰く、激しい怒りで金髪になったんだとか。いや、伝説の戦闘民族かよ。
そんな沙織を見て、死ぬほど笑ってたっけ。母さん。
「ブッフォ!! クレイジー!!!! ハハハハハハハハハハハハ!」
なんとなく想起してしまったけど、実際のところ凄い親だと思う。娘が金髪になって帰ってきたというのに。普通グレたと思うだろ。そう思わないって事は俺等を信用してるからなのか、抜けてんのか。
後者で確定だな。
「さてさて、次は何処に行きますか?」
少し回復してきたところで、皆に聞いてみる。
「ジェ――――」
「却下だ! さっき乗っただろ! 何回乗るんだよ!」
殺す気か。いや、見たところツッコミ待ちだったか。綾音の満足そうな表情から察する。なら、手前の大嫌いのをセレクトしてやろうじゃん?
「どうします?」
そう言う翠咲は白のセーターと黒のスカート、そしてストッキングを履いていた。可愛いな、と率直に思う。
「フォールリフトとかどうじゃ?」
一葉はグレーのパーカと紺のスカートそしてスニーカー。子供っぽい。
「いや、お化け屋敷だ」
「「「!?」」」
「――い、いや、それは」
「駄目だ。お化け屋敷に行く」
「ごめんって! 無理やりジェットコースター乗せたのは悪かったから! 勘弁してくれんしゅ――」
噛んだ。
✽ ✽ ✽
「は〜い、じゃんけんで順番を決めます」
遊園地のお化け屋敷は五人では入れないらしいので、じゃんけんで二人と三人に分かれることになった。結果、俺と翠咲。一葉、綾音、沙織という組み合わせ。
「じゃ、最初行ってくるわ」
と、いうもののピエロの館ってお化け屋敷じゃないよな? カテゴリー的には同じなのだろうか。
『この館は呪われたピエロが孤独の中、朽ちていった場所。ピエロは時を越えてこの館に再び降り立つ…………』
でましたよ。案内された部屋で見るよね。こう言う事前説明。
「……」
「先輩、震えてます?」
「……震えないぞ。これは武者震いだ」
「震えてるんですね」
「…………うるせ」
『それでは、館の何処かにあるピエロの人形を探して、この封印のお札を貼り付けて封印してください』
そう言うと暗かった部屋が明るくなり、係員の人が札を配る。
怖くないと思ってた。けれど、怖いな。雰囲気がホントにリアル。木が軋むし、基本暗いから何処に脅かし役がいるのかも想像がつかない。所々に蔦が絡みついており、まさに呪いの館と言った感じではあった。
「さて、行きましょうか」
「……ぉぅ」
「入る前からそんなんで最後まで持ちます?」
「いざとなったら、俺を置いて逃げろ」
「アハハハハッッ! なんかめっちゃ深刻! というか、先輩そんなに怖がりなら、なんでお化け屋敷に行こうとか言い出したんですか」
明るそうに笑っているけれど、翠咲は声が震えてる。そのとおりだよ。後悔しかない。いや、なんか綾音のし返しになってないような気がしてならない。これはもう確信の域に達してると思う。ごめんね。翠咲、沙織、一葉。一葉は特におこちゃまだから相当怖がるんだろうな。でも、綾音はそれすらも凌駕するだろうが。
二階に上がる階段を上る翠咲にくっついて俺も二階に上がる。
階段を上る際に、翠咲が突然振り向いたので「えええ!? 何!?」と、大袈裟に反応してしまう。
「先輩、私これでも怖いんですよ? い、い、一緒に行きましょうよ」
「そうだな。こっちの方が後ろから急に来たりしたとき一目散に逃げれるしな」
「置いてかないで下さいよ?!」
「どうだかな……」
「お願いしますよ!?」
二階に上がり廊下を歩く度にギシギシと音がなり、ヒヤヒヤさせる。ニ階には3つの扉がある。その中にピエロがいるかもしれないので全部開けなきゃいけないのだけど、開けたくない。
「まず一番奥の部屋から探しましょう」
翠咲の目には覚悟が見えた。これは……俺も覚悟を決めなければならない。
「分かった」
部屋の前に来てドアノブに手をかける。
「……開けるぞ」
「……はい」
慎重にドアを開けると暗闇の中で、マネキンが首を吊っていた。
こっわ。このシチュエーションがすでに怖いわ! なんで子供も入るんじゃないのここ!? 苦情とか来ないの!?
怖さの紛らわし。
「びっくりしたけど、まあ、予想通りっつーか」
「そうですね」
「ソウダネエ…………!」
あ、あれ? 後ろから声が……。
首を錆び付いたかのようにゆっくりとぎこちなく後ろに向ける。
「うああああああああああああああああああああああああああ!?」
「わああああああああああああああああ!?」
後ろには顔を手で持っているおかしいなピエロがいた。それなのに手で持っている顔の方は笑顔。そのギャップが恐ろしい。
全身の毛が逆立ち、バック転した。してないけど。
翠咲の方を見ると何が抜け出ていた。おーーい!!
「おい!? 逃げるぞ!!」
翠咲の手を引いて三階の階段をかけ上がる。
「はあ……はあ……!」
「こっわぁ……。いや、あれは……!」
「先輩、痛いです……」
どうやら翠咲の手を怖さのあまり強く握りすぎていたらしい。慌てて手を放し、謝罪を入れる。
「すまん! 大丈夫か?」
「はい……」
「行こうぜ。とっととお札貼り付けて出ようぜこんなとこ」
「そうですね。これは心臓に悪いです」
「ソウダネ! デヨウ! デヨウ!」
「「ついてくんなよぉ!!!」 」
あらんかぎりに叫ぶ。翠咲は涙声だった。
〇〇〇
「あった! マネキンの足元にあるなんて気づかないって普通……!」
「此処に辿り着くまで凄く大変でしたね。ウエディングドレスを着たピエロに、オルゴールから飛び出してくるピエロとか、壁画のピエロとか……」
さっき翠咲が上げた中で1番タチが悪かったのは壁画のピエロだ。壁画からは何もないと油断して、そして疑わなかった。壁からピエロが出てきた時は心臓がバック転した。してないけど。
「ああ。でもこれで……」
「「遊戯終了!!」」
「きゃああああああああああああああああああああああ!!!!」
どこかで聞き慣れた絶叫が2つこだます。サイヤ人と綾音だ。
どうやら、ささやかな仕返しにはなったようだ。
✽✽✽
「こんなもの、ただのおもちゃであろうに。そんなにひびらんでも良かろうに」
涙を流しながら、抱き合う二人を見て一葉は深く溜息をついた。
「私はどっちかって言うと、腹が立っているのじゃが」
それもそのはず。このお化け屋敷の受付で「ごめんね。このお化け屋敷は中学生以上じゃないと入れないんだよ」
「どっからどう見ても中学生ではないか!! あんなものは侮辱以外の何ものでもないわ!」
「あああ……。一葉ちゃんがなぜか怒ってるよぉ……」
「呪いよ。呪いできっと……あああ……」
「納得いかんー!!」
「「ひぃ……」」
ドンマイ。
✽✽✽
なんだかんだあって夜になった。
はく息がより白く見える。あたりはライトアップされ、キラキラと輝いていた。遊園地の本領発揮と言ったところか。
もうすぐで、パレードが始まる。その前に皆に渡しておかなくてはならないものがあった。
「いやぁ〜楽しかった。カーレースは特に!」
「それにしても、沙織と一葉はなんであんなにゴーカート速いんだよ」
ホントにやばかったんだよ。これはまじ。
カーレースをしようって流れになったのだが。「だが」と、逆説になっている時点で察してもらって結構だか、言ってしまえばクレイジー。狂気のレースだった。
入り口に『安心安全ゴーカート!!』って書いてあんのに、一葉、沙織の二人は一般の人を牛蒡抜きしだすし。どんなドライビングテクニックだよ。それだけじゃなく、綾音は俺の車にぶつかってくるし。終わってから注意されるし。一葉にだけスタッフが何も注意しなかったから、一葉は「ラッキー」なんて言ってたけど。
察してしまった俺達は少し胸が痛くなったり。
楽しかったけどね。
「――あ、そうだ。皆にこれ、クリスマスプレゼント」
「ありがとうございます!」
「ありがと」
「ありがとう」
「ありがたい」
「これは――チョコ?」
「チョコクッキーだ。おっと、パレードが始まるぜ。もうすぐ九時だ」
パレード。
心臓が別の意味で今度は飛び出そうになる。
――――緊張。
幼馴染の事を恋愛対象として見ていない女子って多いらしいしな。
…………だけど。決めたんだ。今日この気持ちを伝えるって。
もう受験勉強が本格的に始まったら遊べないし、違う学校になったら、永遠にもうチャンスは来ないかもしれない。
今の、関係が……壊れてしまうかもしれないけど。それでもだ。
俺はなんとなく。
一つ溜息をついた。
それは俺の目に白く映り。周りの目にもそう映っただろう。
それと同時に降り出した白いものも。
「雪か」
パレードが始まる。
9900pv突破しました!!!
1万までもう目前!ホントにありがとうございます!
ブクマ、コメントお待ちしてます!




