セーブデータⅡ
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「ただいま」
恐る恐る賃貸マンションの209号室に入る。
人がいるとは思えないほどの静けさ。
俺は生唾を飲み込みリビングへと急ぐ。
(唐揚げ様をさっさと置いて部屋に戻ろう)
リビングへのドアを開ける。
その瞬間、微かな火薬の匂いと破裂音が鼻腔と鼓膜を刺激する。
「うっお!」
驚きのあまり尻餅をつく。
「痛った」
尻をさすりながら視線を戻すとそこには沙織がドアの前
で仁王立ちしていた。
「さ、沙織?」
そっぽを向いた沙織が唇を尖らせて
「その……お兄ちゃん、誕生日おめでと」
「あ……」
そうだ。すっかり忘れていた。今日は、7/11は俺の誕生日だ。
差し出された手を掴んで起き上がり、沙織と一緒にリビングに入る。
「すげぇ」
そう感嘆の声が漏れるのも仕方がないくらい、綺麗に飾り付けがなされていた。
「ありがとうな、沙織マジで嬉しいよ」
「そう」
沙織は金色の髪を乱暴に払って台所に消えた。
「おい、俺らには何もないのか?」
ふいに横から声がする。
「ありがとな。和也」
「おう」
グータッチ。
「痛っ」
「俺も同じだ」
二人で笑い合う。
コイツは、山葉 和哉。
俺や、沙織が小さい頃から和也とはよく遊んでいたらしい。親とも顔見知りで母の和代さんは両親がいない俺らをすごく気遣ってくれていて、たまに様子を見に来てくれたりする。
「なあ、裕翔。私のことを忘れてはおらんか?」
「ん? 何処かで声が聞こえる」
「ここじゃ此処!!」
俺の服を引張って存在を主張してくる小学生のような容姿の少女は、竝川一葉。この謎の口調が印象に残る。
家が隣の208号室で、コチラも小さい頃からの付き合いだ。
「おお、一葉。小さくて分からなかった」
「はははは、冗談が上手いではないか」
「え~と、一葉さん? 目が全然笑ってないし、そもそも冗談なんかじゃ……」
一葉の小さな拳が腹にめり込む。
「うげ」
「まだ言うか!」
黒色の髪をなびかせて俺に飛びかかってくる。
それを交わしながら部屋の中を逃げ回る。
(小さいだけあって、すばしっこいし、殴られると地味に痛いんだよな)
そんな風に一葉から逃げていると、パンッと手を打つ音が聞こえる。
「ケーキ食べよ?」
逃げ回っていて気づかなかったが、テーブルにはケーキが綺麗に四等分されてあった。
「おお! 何て美しいケーキだろうか……一先ず休戦じゃ」
俺はタイミングよくケーキの話題を出してくれた沙織に親指を立てて「グッジョブ!」の形を作る。
沙織もまた微笑んで、「グッジョブ!」と親指を立てるが、その親指は180度回転し「ブーイング」の形になった。
(あ……あれ~?)
背筋が寒くなった。
+ + + + + + +
「でさ、これらは沙織ちゃんがほとんど飾り付けしたんだぜ?」
「そうなのか! それはすごいな」
「別に凄い事でも何でもないし!」
「それに、とても楽しそうじゃった」
「どこが楽しそうだったって言うのよ!?」
「私が根拠も無しにその様なことを言うと? 沙織よ」
「これが、根拠って奴だよ。裕翔」
和也がスマホを見せてくる。そこに写っていたのは、沙織だった。
『今日は~♪お兄ちゃんの~♪誕生日~♪綺麗に飾って♪もてなっそう♪イェイ』
その中の沙織は最近見る事のない笑顔で変な歌を歌いながら誰がどう見ても楽しそうに飾り付けをしていた。
「……」
「何なのよ!?」
(知らない間にこんなの撮られて、お前も大変だな)
「う~ん。まぁ何だ。ありがとうな」
「もうっ! 本当に何なのよ!」
+ + + + + + + +
「「「プレゼントタイム」」」
「「「イェエエイ」」」
「三人で言って、三人で盛り上がる。悲しいな、お前ら」
「お前が喜ぶ素振りすら見せないからだろ!?」
「まあ、そうなんだけどな。フッ」
「殴るぞ?」
「蹴るぞ?」
「日本刀で……殴るぞ?」
「一人だけ狂気的かつ殺人的な発言が!?」
+ + + + + +
「では、私が最初じゃな」
「少ない小遣いで悪いな」
「子供扱いするなと何時も言っておろう!?」
こほんっと咳払いし、後ろに持っていたプレゼントを差し出してくる。
「これは、写真立てか?」
「そうじゃ。何か飾りたい写真があれば、飾ってくれ」
「と、言っても写真なんかないしな」
(お? この写真立て二枚飾れるのか……二枚ねえ)
「む? どうかしたのか?」
「ああ、気づいたことがあるんだ。この写真立て二枚入るんだよ。だから、今撮ろう。一枚目が俺と一葉の二人で。二枚目が皆で。どうだ?」
「良い案じゃ」
「よし! 決まり。なら和也、撮ってくれ」
「了解!」
一葉は俺の手を握ってピースする。
此方を見る一葉が「お前もしろ」と言っている。
多少恥ずかしかったが、一生忘れない思い出になる写真だ。仕方がない。俺もピースをして苦笑いする。
「良し、OK。撮れたぞ」
一瞬で画像から写真となってスマホから出てくる。
「笑いかたがおかしいではないか!」
「頑張ったんだぞ裕翔は」
「悪いな。これが限界なんだ」
一葉と一緒に一枚目を飾る。
「ありがとうな。一葉」
「何がじゃ?」
「一緒に写ってくれて」
「うむ」
「次は二枚目。皆で撮ろう」
皆でピースしてシャッターの切れる音を待つ。
この写真。先程撮った一葉との写真。あの写真立てに飾る事によって絶対に残る記憶となるのだ。と、らしくもなく考えてしまう。この四人の一人だって欠けてはいけないのだ。この四人が居たからこそ、三人と巡り会えたからこそ、この写真はあるのだと。
(俺は幸せ者だ)
静かにシャッターが切れた。
+ + + + + + + +
「最後は私」
「お前もくれるのか?」
「当たり前じゃない」
和也のプレゼントは後で持ってくると言っていた。
「お! 綺麗に包装されておるな」
「ホントだな」
「そ……そう」
髪を横に払う沙織。
「あ……それって沙織ちゃんが……グムグム!」
何か言おうとした和也の口を沙織が塞ぐ。
「何してんだよ」
「なにもしてないけど……」
「『なにもしてないけど』じゃないよ! 窒息死するどころだったんだけど!?」
「嘘つけ、元気そうではないか」
「一葉ちゃん……」
「……無事ならそれでいいんじゃね?」
「裕翔お前まで!?」
(仕方ないだろ!? 沙織が触れるなオーラを凄い出してるんだから!)
「開けても良いのか?」
渡されたプレゼント見ながら沙織に問う。
「良いよ」
綺麗な包装を剥がすと、VRのソフトが入っていた。
「スキルマジック? これは?」
「それはね、VRの大人気ソフトでVRシステム『ダイブルーム』保持者の大半が持ってる2~3年前のゲームなのにそのゲームはまだ一人にしかクリアされてないの! 私もヒトちゃんもカズ君も持っていて一緒にしてるんだよ! お兄ちゃんゲームしないのに、何故かダイブルーム持ってるでしょ? ならやるしかないよ!? お兄ちゃんがゲームしないのは知ってるけどでも……絶対に楽しいと思ったから!」
「落ち着け、沙織。大体わかったけど、次からはもっとゆくっり喋ってくれ」
沙織はゲームの事になるとテンションが急に上がるんだよな。
一瞬、俺は今朝の夢を思い出していた。しかし、それだけでなく何かが、何かどす黒く嫌なものが夢を黒く塗りつぶしていった。
「大丈夫? お兄ちゃん」
沙織の声で我にかえる。
「顔色が優れないぞ、裕翔」
「いや。大丈夫だよ、少し貧血なんだ」
「そうか。驚かせんなよ」
「悪い悪い」
「そうじゃ、今からゲームしないか? せっかく裕翔も持っているわけだからな」
「お、賛成」
「じゃあ、此処で一旦解散。そしてゲーム内でまた合流ってことで」
「「「了解」」」
+ + + + + +
「おーい沙織。これはどうやって動かすんだ?」
扉が開く音がして、沙織が入ってくる。
「これなんだけど……おい、ふ、服」
「へ?」
顔に疑問符を浮かべ沙織が自分の格好を見る。
「きゃああ!?」
沙織の格好はYシャツだけで、ボタンは止めていない。水色と白の縞模様のパンツは丸見えでしかも、ブラも見えている。
「何も見てない!ホルターネックのブラと、フルバックのショーツなんて見てないから……って」
ちょっと待て。自分で自分の首をしめてどうする。
「!? なんで種類まで知ってるのよ変態!」
涙目の沙織が睨み付けてくる。
「もうっ! 洋服着てくるからちょっと待ってて」
待つこと暫し。
「で? どうしたのお兄ちゃん」
「この機械ってどうすれば動くんだ?」
「あー。これは水が必要だね」
「水?」
「うん。2リットル位」
「分かった。持ってくる」
+ + + + +
「持ってきたぞ?」
「ここに注いで」
沙織が指したダイブルームの後ろ側にはポットのような機械があった。
言われた通り、水を入れ終える。
『ダイブルーム 起動します』
「あとは、指示通りやれば出来るから」
「サンキュー」
『お久しぶりですね。マスター』
「どうすればいい?」
『まず、下着だけになられて鉄の扉を右へスライドし、ダイブルームの中にお入りください』
だから、沙織は服を着ていなかったのか。沙織に抱いていた疑問が解けた。
下着だけになり、ダイブルームに入る。
『その後、マスクを装着してください。その際、きっちりと呼吸ができるかご確認下さい』
「これか」
マスクを装着して呼吸を行う。
『大丈夫でしょうか? 10秒後、このダイブルームは液体で満たされているでしょう。しかし、焦らず【ダイブ】と口にしてください。』
本当に液体で満たされ始めるダイブルーム内。
液体は緑色。視界も緑色に変化していく。
(なんだ? この心が震える感じ)
何処か笑い声が聞こえてくる。
(俺は……笑ってるのか?)
この先見るであろう景色に胸が踊る。
この気持ちは言葉では言い表せない。
俺は小さく深呼吸し、心の中で蠢く全ての気持ちを言葉に込めて一つの単語を口にした。
「ダイブ!!」




