セーブデータⅠ
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「……オオォ」
迷宮にて――。
弱々しい呻き声と共に粉塵を巻き上げて、倒れ込む大型モンスター。
「嘘でしょ? たったひとり一人で……」
驚愕の声が出るのも無理はない。
の大型モンスターはLv99+S。
Lv99+S。その数字はこのゲームでは最強クラスの強さをほこり、数人では万に一つも勝ち目がないとされている。
それをこの赤髪の男性プレイヤーはたった一人で倒してしまったのだ。
「……まさか!?」
想像を絶する光景を目撃した女性プレイヤーは呆気にとられている。
男性プレイヤーは苦笑し頭をふる。
「とりあえず、この迷宮の先に何かあるんだろ? 死に戻るようなことがなくて良かったじゃないか」
まだ半信半疑の女性プレイヤーだが、男性プレイヤーは「話は終わりだ」とばかりにオプションから、ログアウトを選択する。
迷宮から姿が消える男性プレイヤー。
消えた後も女性プレイヤーはその場から動けずにいた。
「あれが…… 無敗の双剣王」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
瞼を上げるとぼやけている視界。
しかしカーテンの隙間からもれる朝日によって視界がはっきりとし始める。
「夢か……」
先程の夢を想起し俺、白井裕翔は、頭を掻く。
一度も見たことがないあの光景。だが、俺は何故かあの光景を知っていた。
あれは『SKILLMAGIC』
VRシステム『DiveRoom』保持者の7割以上の人々がこのゲームをプレイしてる大人気MMORPGだ。
ーー数年前まで偶像の存在だったVRシステム。
それがもうこんなにも身近なものになっていた。
俺は視線を横に流す。
視線の先には埃をかぶったダイブルーム。
技術革命は今までの全てを否定した。
突然、扉が空いた。
「お兄ちゃん? ご飯出来てるよ」
「……ノックしろよ。着替えてるかも知れないだろ」
「っ!? 呼びに来てあげたんだから感謝しなさいよ! そ……それを!」
耳まで真っ赤にして激昂する16歳の現役女子高生は俺のたった一人の妹 白井 沙織だ。
「(朝方から元気なやつだ)」
布団から起き上がり、沙織を見る。
「あ! 今馬鹿にしたでしょ!」
ーーこういうときだけ勘が良いいんだよな、コイツ。
「おはよう、沙織」
背伸びをしながら部屋出口へと歩を進める。
急にバランスを崩す。原因は直ぐに分かった。
重心破壊者。
……もとい、バナナの皮。
勢いよく転んでしまう。
「イテテ……」
頭を多少打撲したようだが大事には至らなかったようだ。
(柔らかい床だな)
おかげで怪我をせずにすんだのかもしれない。
「きゃっ……!? ななっ……」
「どうかしたのか?」
顔を上げる。
俺は事態を把握し、声にならない悲鳴を上げた。
大事故だ!!
俺が柔らかい床だと思っていたのは……俺が揉みしだいていたものは……。
実の妹の胸ーー。
まだ発展途上でまだまだ幼げで主張が控えめであるが、とても柔らかい。制服越しでも伝わってくる沙織の体温。
天国か地獄。どっちに行くのかなぁ。
「ば……馬鹿あああああああ!」
俺の右の頬は沙織の甲高い悲鳴と共に強烈なビンタを受けた。
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「イッテ」
右の頬を優しくさする。が、痛い。
あの後、金属バットを引っ張り出した沙織に戦慄し家を飛び出してきた。現在進行中の目的は沙織の大好物、『唐揚げ様』を購入するべく『ラーソン』に向かっている途中だ。
ドローンに頼んでも良いのだが、こういうのは品物ではなく誠意を込めることが大事だと考えたためだが、こんな夏の日に誰も外に出ないのか、ドローンだけが空を飛び交う状況になってる。
ここ数年で色々な事が変化した。
技術革新。
2037年、日本は急激に科学技術、通信技術等が発達した。
その影響により、AI搭載のロボット『RORO』が
急速に普及。タイプは様々。
例えば、『ドローンタイプ』持ち主の要望の品を自動で配達、配送する事が出来る。
『人型タイプ』コンビニ、工場等で、24時間働いたり、接客などを可能とする。
自動ドアが開き冷房のきいた店内に入る。
『いらっしゃいませ』
聞き慣れた、まさに機械的な声で出迎えてくれる。
「唐揚げ様、北海道チーズ味1つ」
『承りました』
目の前に3Dの液晶が現れる。
ラーソン
唐揚げ様北海道チーズ味×1
お会計218G
宜しいですか?
yes no
俺は『yes』を選択。
これで買い物は終了。数年前までの硬貨は現在では仮想通貨となり、自動引き落とし。
高校も変わった。単位制になったのだ。
俺は現在17歳。普通に単位を取得し、普通に進級しているなら高校2年生だが、もう既に卒業できる単位を取得し終えている。
卒業後は大学に進学する予定。仕事を行う労働者が、人からロボットに代わりつつあるこの時代。
だからこそ、大学を卒業した後、仕事に就職する事にこそ意味があると俺は考える。
もう指示されたことを只するだけの時代は幕を閉じた。これからは、自分で考えて行動する思考能力と行動能力が仕事場では必要不可欠となり始める。
そんな自分の能力が問われる仕事場は憧れを抱くに値する存在だ。
まあ、確かに現在導入されている生活支給制度や、俺らの両親が残した莫大な財産により仕事をする必要は殆ど無いに等しいのだが。しかしいくら多いといっても無限ではない。せめて、沙織だけには不自由なく過ごしてほしい。
空を見上げると数十機のドローンが目的地へと飛んでゆく。
俺は特に意味もなく小さなため息をついた。




