ツラギ攻略―菊月の戦い
MO作戦始動です
5航戦の代替として2航戦が投入されることになり作戦開始が数日遅れMO作戦の第一段階、ツラギ攻略が開始されたのは5月5日であった。
1942年5月7日 0655
ツラギ沖
IJN駆逐艦菊月
駆逐艦菊月艦長森幸吉少佐は絶望感を噛み締めていた。上空に乱舞する米攻撃隊40機が現れたのは0624。そこから10分程で三隻の掃海艇があっという間に喰われた。海の男としての彼は三隻の乗員を-戦友達をすぐさま救助したい。しかし艦長としての彼は艦を-その乗員たちを無事生き残らせるのが責務であった。そして米攻撃機は彼の艦を狙っていた。
「敵雷撃機、左舷より近づく!数、6!」
「取り舵45!最大戦速!」
「宜候、最大戦速!面舵45」
森の号令により菊月は速力を上げ雷撃機の攻撃をそらす。投下された魚雷は菊月の左舷を通り過ぎる。雷撃機は悔しがるように後部機銃を放つが菊月にたいした被害は出ない。だが、菊月は攻撃の魔の手から逃れられた訳ではなかった。
「新たな雷撃機、本艦に近づく!数、6!」
「…面舵一杯!対空砲、何としても落とせ!」
だが菊月に装備された貧弱な対空兵器は雷撃機を落とせず一機が12,7cm砲弾の直撃で海に叩き落されもう一機がそれに驚き射線をずらし離れただけであり菊月には4機の雷撃機が攻撃態勢に入った。
「敵機、雷撃態勢に入った!」
「総員、衝撃に備え!」
誰もが菊月の運命について諦めを持ったその時、それを断ち切らせるような軽やかな、しかし力強い音が響き、上空から白く塗装された機体がダイブしてきた。
ツラギ上空 0650
台南空所属の笹井醇一は3機の僚機を連れ、ツラギに飛来した。他にも12機の零戦が来ており。米機動部隊に攻撃されているツラギ攻略部隊の支援のために台南空が放った最良の部隊であった。
正直言えば参加したい作戦ではなかったが空母が回収してくれるとの話のため参加していた。
ツラギの上空には米軍機が乱舞していた。
すぐさま他の12機は敵機に向かうが笹井はそれに参加せずに戦場把握に努めていた。そして菊月に攻撃をかける雷撃機を見つけた。
「あれをやれば、味方を救えるか…行くか!」
彼の愛機は育ちのよい猟犬のごとく主人に従い、駆逐艦を狙う雷撃機に20mm機関銃を叩きつけた。
駆逐艦菊月
菊月を狙っていたTBDは全てが海に落とされた。それどころか全ての米軍機が落とされたようにも見えた(実際にはF4Fが四機だけ母艦へ帰投することが出来た。)。
菊月は最終的に三番砲塔を損傷した以外はさしたる被害も出なかった。
(これも来援に来た航空隊のおかげだ)
森は安堵と感謝の入り混じった顔を外に向け、上空にいる零戦に帽子を振った。それに艦橋に居た乗員たちも習い、最終的に菊月の乗員ほぼ全員が上甲板に出て、帽子を振り続けた。
零戦隊は去り際に翼を振り、帰るべき巣へ、回収をするはずの2航戦の居る場所へ機種を向けた。
同日
IJN空母飛龍
「提督、ツラギ攻略部隊は無事な模様です。米機動部隊は我々の力を見たでしょう。」
「うん、これで少しはマシになるだろうね。」
二航戦司令山口多門少将は満足げな声で答えた。
「索敵は?」
「8戦隊の索敵機がすでに。」
「うん、じゃあこれからが気張りどこだね。」
山口はどこか不安げに上空を眺めていた。その空には菊月を救った零戦が現れたのみであったが。