代替案
戦闘はまだです
1942年4月14日
柱島泊地
IJN戦艦大和
柱島泊地には第一戦隊をはじめとする帝国海軍の戦艦群が停泊していた。その中でも目立つのは就役したての新造戦艦であり、名を大和と名づけられていた。その艦内では新造艦特有の完熟訓練が行われており、兵士たちにとっては敵よりも恐ろしい兵曹の怒号が飛び交っていた。だがその怒号に勝るとも劣らない罵り合いが士官たちの間で繰り広げられていた。
山本は参謀たちが―殴り合いに発展しそうなほど―紛糾している会話を眺めてるしかなかった。つい二日前、翔鶴が被雷し速力が落ちた。その報告で第二段作戦の一つMO作戦への投入する戦力の再検討が行われることになった。先日の会議では結局、中止案、瑞鶴単独投入案、二航戦投入案、赤城・瑞鶴投入案などが出たがその中でも有力なのが黒島参謀の赤城・瑞鶴案と宇垣参謀長の中止案であったがどちらも参謀たちが賛成せず紛糾していた。
宇垣も黒島、どちらも意見を譲らず、会議は一向にすすまなかった。山本もついに意見を挟もうとしたその時、ドアが乱暴に開けられた。部屋にいた全員がそちらに向いたとき、そこにいたのはまだ帰投途中であるはずの二航戦を率いる男、山口多門少将であった。
「山本長官、是非とも我が第二航空戦隊をMOに投入してください。」
開口第一声がこれである。参謀たち―特に黒島、宇垣は―驚いた。そのなかで山本だけは喜んだ顔をして山口を見た。そして一言、「準備はいいのかね?」だけであった。
参謀たちはその言葉を聞くと同時に山本を見た。宇垣と黒島など親の仇を見るような目であった。そして黒島が反論を始めた。
「長官、何をおっしゃいますか。まだ赤城・瑞鶴が使えるのです。唯一無事な二航戦を使う必要なんてないんです!」
宇垣は何も言わないが山本を見ていた。判断しかねているらしい。
「黒島君、二航戦は行けるというのだ。それにかけてみるのも悪くはないんじゃないかね?」
「…それは長官お得意の博打ですか?」
黒島は苦いものを噛むような顔で言った。理解しかねるとも言いたげだ。山本はそれを無視した。
「そうとも言える。しかし現地の第四艦隊、そして二航戦が望んでいるのだ。そして米軍はおそらく二隻以上の空母を投入する。ならば練度で勝る二航戦を投入したほうがいいのではないか。」
「…。」
黒島は黙り込んでしまった。知性で他人を馬鹿にしているような顔もこの時ばかりはその片鱗が消えうせていた。
「では、決定ですな。二航戦はすでにトラックに向かわせました。他にも数隻ほど。」
「ちょっと待ちたまえ。何を連れて行く気だ。」
さすがに宇垣は口を挟んだ。二航戦とその護衛なら兎も角、他の戦力なら別だ。
「とりあえず護衛に近くにいた16駆逐隊と八戦隊をもらいます。空母戦をやるなら八戦隊は必要です。南雲長官には許可をもらってます。」
なんと南方作戦遂行中の16駆逐隊(雪風、初風、時津風、天津風)と一航艦にいた八戦隊(利根、筑摩)を連れて行くと言ったのだ。GFの許可も得ずに。だが山本は
「他に必要な戦力はないね?」
と言った。流石に参謀たちの言いたいことには気づいて、
「次は許可を取ってからにしてくれよ。」
と言い山口を二航戦に戻らせ参謀たちも解散させた。
かくしてMO作戦には二航戦の投入が決定された。
第二話投下です。
次はMO作戦です。あれ?翔鶴主役なのにしばらく出せない(汗)。
MO終わったら出る…。たぶん…。