表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/171

ハンガリー騒乱


オータムシーズン到来……やっとか!

秋の味覚を精一杯楽しもうではないか。

と、言いたいところであるが、町は予期せぬ来訪者たちで埋め尽くされていた。



数か月前、ハンガリー王国が成立した。どういうこっちゃ、と思うかもしれない。

ここ数年の世界情勢を鑑みて、突如現れた王党派が急激に勢力を伸ばし、国事詔書の再発布を宣言、ハプスブルク家の王の召喚をオーストリアに先んじて行った。

英国王室のスキャンダルにどうも嫌気が差していたらしいガウラ公館はすぐさまハンガリー王国と接触し、宇宙港の設置を打診する。

そうして先日、ヴァーチ宇宙港が完成し、地球で三番目の玄関口となった。

んで今日、まるでここが宇宙港ではないかのような錯覚に見舞われている。

入国者がハンガリー人だらけなのである。

「意外と黄色くないんですね!」

失礼な、ちゃんと黄色いわ!……ってそうじゃないか。

だからといってなぜこうもヨーロッパの田舎もんどもが多いのかというと、ハプスブルク家の帰還を記念して宇宙港利用が格安になるクーポンをハンガリー国民にばら撒いたのである。

とはいえ、流石に他の星系に行くのまで安くなるのは予算の関係で厳しかったらしい。

そういうわけで、星間航行よりは安くつく軌道ステーション経由での日本へと向かう便が新設されたそうな。

予算が足りないならそもそもばら撒くなよ、とは思うのだが……。


それはさておいて、秋、ようやっと涼しくなって来た。

ガウラ人らもこれには大いに喜んだ。まだまだ暑さには慣れていないのである。

秋と言えば実りの季節であり、秋の味覚のお楽しみがいっぱいなのだ。

メロードに誘われて、近所のスーパーに……ってスーパーかよ。

「旬の素材があると言えば、もちろんここだ」そりゃそーだけどもさ。

しかしながら、なんだかハンガリー人でごった返している。

タダ同然で渡航出来るので、どこもかしこもハンガリー人だらけだ。

色々と物珍しくてあらゆるものを手に取って行くのか、商品棚は寂しげである。

宇宙港周りのあらゆる店は全てこのような状態であった。

「うーん、これではどうしようもない」とメロードはしょげ返ってしまう。

しょうがない、と私は車を出してちょっと遠出する事を提案した。


小一時間ほど車を走らせると、なんとも長閑な田園風景が広がる。

「いつ見ても、我が故郷を思い出すものだ」

帝国は意外にも農業国であり、財政の40%ほどは食料品輸出高で賄っている(他は賠償金とか啓蒙政策とか、あと傭兵紛いの事もやって稼いでるらしい)。

その為田園風景というものはどこでも見ることが出来る。

というか、我々の言うところの都会というものがほとんど存在しない。流石に首都については東京を遥かに凌ぐものであるが(しかしそれ以外の地方惑星の首都は地方中枢都市の県庁所在地程度の規模である)。

さて、こういう田園に来たのは訳がある。

「あの小屋は……」

そう、無人販売所である。こういうところなら観光客は滅多に来ないだろう。

「我が故郷にもあったなぁ、まさかここにきて祖国を思い出すとは」

これが外国人相手なら日本ノ治安ガーと出来るのだが、そうはいかないのが宇宙人だ。

まあ見た感じノスタルジックな感じに、遠い故郷に思いを馳せている様子なので意外な方面に効いてしまったようだが。

野菜や柿や栗なんかが並べられている。どうやらハングリーなハンガリー人はまだ到来していないようだ。

「この甘い匂いのする橙色の実は……」

彼は料金箱に小銭を入れると柿を手に取りそのままかぶりついた。

「うーん、これは!アレだ、パルペイユに似てるな」

何それ。晩白柚みたいなものだろうか。まあなんかガウラの果物だろう。

「しかしながら、こうして異国の風景と自分の故郷を重ね合わせるなんて、随分遠いところに来たものだと実感する」

全くご苦労さんというものである、遥々このような治安も悪い原始惑星に来て。

「別にそう悪いものでもない。治安は悪いが、威光を感じるし、夏さえ慣れればね」

まあ夏は日本人でも慣れないものなので、寒冷出身の種族が過ごすのは堪えるというものだろう。

彼は柿を頬張りながらジッとこの田園風景を眺めている。

「……故郷の景色が似ているのなら、そこまで心配はしなくてもいいものだろうか」

何を心配しているのかは知らんが、声に出ている。

「やっ、別に、何でもないさ、忘れてくれ!」

と妙に恥ずかしがるのがいまいちよくわからない。

するとそこへ車が一台やって来た。

「すごいぞ!無人販売所は本当にあったんだ!」

「いや僕らの国にも農村に行けばあるよ……」

チィッ!ハンガリー人か!ここまで嗅ぎつけやがった!ずらかるぞ!

「え、う、うん」

と無人販売所の写真を撮るハンガリー人を尻目にその場から立ち去る。

まあ別にずらからなくてもよかったのだが。

今度はもっと落ち着いた時に来ようね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ