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這い寄る簡単


インスタント食品、我々の味方である。

宇宙には進んだ技術があるのできっと優れたインスタント食品が存在するのだろう。



星間航行はとっても時間がかかるものなので、狭い宇宙船内では当然娯楽というものが重要になってくる。

その中でも特に食事は重要だ。初期宇宙時代の宇宙船には多くの場合キッチンなんて大層なものはついていない。

ただし、保管庫はそれなりのものがついているので、軍用の携行食品とはまた別にインスタント食品が発展した。

日本を含めた地球各国の食品会社もこの業界に参戦しようと武者震いをしている。(まあ宇宙人らとて同じものばかりだと飽きるし新商品はとりあえず手に取るので基本的に発売すれば売れるのだ)

さて、本日の客はクートゥリューからの営業マンである。

勤務も終わりさあ帰ろうと日本人職員らでだらだらと喋りながら歩いていたところである。

「やあ地球人、俺はインスタント食品の営業マンだよ。簡単フードをめっちゃめちゃ売りに来た」

タコを頭にかぶったヒューマノイドのような容貌の人物があごひげみたいな触手をうねうねとうねらせている。

「いっつも忙しいおみゃーたちはさもしい食事ばっかりしておるやろう」

いきなり失礼な、まあ半分ぐらいは事実だが。「ちゃんと自炊してるよ!」と吉田が反論する。

「ふっ、よく言うわ。自炊なんか週に一回ぐらいやろうが」

ぐっ……この野郎勝手な事ばかり言って!

「ちゃんと毎日自炊だぜ!弁当だって自分で作ってるぞ!」

おぉ~と声が上がる。凄い男だ……。

「ほんだら、おみゃーさんに用はないよ、あばよだのん」

あ、それじゃあって感じで吉田は普通に帰った。普通に帰るこたないのに。

「さて、あとはおみゃーたちの毎日の貧しい食事をバッチリ変えてやっからよ、よう見てちょ」

なんか商品紹介を見る感じの流れである。

「あの、あとはよろしくお願いしていいですか?」

「先輩こういうの得意っスよね!」

と残りのメンバーも私に押し付けて帰ってしまった。えぇ……。

「おや、おみゃーだけか。まあよかろう」よくない。

そう言うと彼は自分の鞄の中から小さな箱を取り出した。

「これはめっちゃめちゃうみゃーインスタント食品でよ、香辛料やら肉や野菜がいっぴゃー入っとるスープ、『イスの大いなる前菜』だがや!」

要するに、クートゥリュー風スープカレーとでも言うべきか。それは確かに美味しそうだ。

「調理方法はたった30秒ぬくとめるだけ!しかもこの紐を引けば勝手にぬくとまるでよ!」

そう言って箱についた紐を引っ張った。

うーん、どっかで見た事があるぞ。もう地球にあるような気がする。

「たーけっ、あんなちょこっとぬくといだけで、誰が喜ぶがや」

流石にリサーチ済みである。まあそりゃそうか。

「ほーれ、出来たがや。食ってみてちょ」

箱を開けると、スパイシーな香りが漂う。カレーとはちょっと違った趣だ。

そしてその箱とスプーンを手渡される。確かに、地球のあったかくなる弁当とは違ってまるで火にかけたかのようにほっかほかだ!

どれどれ、一口。口に入れ辛ッッッッッ!!!!!しかもツンと来る!!!!

私がむせていると、彼はすぐにスープカレーを取り上げてしまった。

「この程度で大袈辛ッッッッッ!!!!!しかもツンと来る!!!!」

お前もかよ!やっぱ辛いでしょ!?

「何これ、あ、超激辛だがや……」

全く、ちゃんと確認して欲しいものだ。

「そいじゃ、お次はこいつだがや」

まだあるのか……これは洋画でよく見る奴である。

「こいつは『ミ=ゴ=ディナー』だがや、確認したもんだで味はバッチリのはずよ」

これにも温め機能が付いているらしく、彼は紐を引っ張った。

「作り方簡単、紐を引っ張って30秒ぬくとめるだけ!」

30秒間待つ……しかしながら、意外と言えば意外である。銀河を征服しようとしたというから、極悪なイメージを抱いていたが。

「ほんだら聞かしたろう。クートゥリューがどういう訳でこの銀河の旧支配者になったかをよ!」

なんだかめっちゃめちゃうれしそうである。


「あれはおみゃーたちの西暦で言う、紀元前4000年頃。クートゥリューは宇宙に飛び立った。新たなる開拓地を探しによ」

今から6000年も前に宇宙に出ていたとは驚きである、流石は天の川銀河では最古の星間国家だ。

「そして、三つの種族を見つけた。ロン人の住むシン国、メウベ騎士団、アヌンナキ人のアッスラユ。連中も同じ時期に宇宙に飛び立ったがや」

これらが、天の川銀河四大古文明とされている。

「俺たちは最初は手を取り合った。だがよ、シン国が作り出した翻訳機だ、そう、それだよ。今付けているよ。これがいけなかった」

そんなに昔からあるのこれ……。

「初期の翻訳機は出力の調整が出来なくてよ。あらゆる謀略を暴き出した。各国の外交部はえりゃー混乱した」

つまりは、あらゆる機密が漏れ出てしまい、軍事計画も何もかもが暴露されたということか。

「その通り、3ヵ国ともクートゥリューを狙っとった!」

えぇ……何か悪い事でもしたの……。

「まあ、頻繁に宙域侵犯しとったのが悪いんだがや、それで袂を分かつこととなった。そしてクートゥリューは銀河を征服する事を誓ったんだ」

とんでもない逆恨みである……まあただ逆恨みするってはずもないので、外交交渉で何かがあったのだと推測されるが。

「しかし、現代は戦争のない実に平和な時代なんで何よりだがな」


っと、そろそろ温まる頃だろう。

「ほんだら、この『ミ=ゴ=ディナー』を食ってみろ」

見た目は、まさしくアメリカ映画で見るようなレトルトっぽいプレートである。

フォークっぽいものでハンバーグ?を口に入れると……魚だこれ!しかし美味しい!

「そうだ、クートゥリューの一級品、とはまあ言わねえがよ、うみゃーだろ!」

これはかなりいける、が、見た目がどうもハンバーグなので、違和感がぬぐえない。

さらに付け合わせのサラダ?らしきものを食べると、グニグニしているが味はいける、どうやら海藻のようだ。

「そうかそうか、うみゃーか、ほんだらな……」

と彼は鞄を全部押し付けてきた。なんでだ。

「おみゃーはええやつだで、話も聞いてくれたし。これ持ってってみんなに宣伝してくれな、簡単フードってな!」

え、いやその、急に言われても。っていうか自分の仕事だろ!

「次来る時はもっとうみゃーもん持って来るげな!」

そう言って彼は出国ゲートへと立ち去った。

えぇ……どうしようこれ……。呆然と立ち尽くす他ない。

どうしてこう、宇宙人ってみんな突飛な真似をするのだろうか……。

あの野郎、勝手な事ばっかり言って、なんで3国に睨まれたかってそういうとこやぞ!多分!


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