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それはさておき:ラスちゃん農家に会いに行く

そんな与太話が事実かどうかは知らない。

が、確かにここ最近ウキミ食品という会社が現れて、業績を伸ばしている。


長閑な農道をピンク色の毛皮で青い鬣の馬に乗ったキツネ人間が進んでいた。


「下に~、下に~」


「なにそれ」


上に乗っている、頭の上や体のあちこちに氷嚢を抱えている銀色でちっこいのはスワーノセ・ラス。

ガウラが母星、エレバンの名門貴族の娘である。すごい最高級な名門で、恐らくは読者の想像以上に名門なのである。

下で乗られているのはバルキン・パイ、ルベリー共和国のただの平民である。


「上に~、右に~」


「だから、それなに」


彼女らは、この田園風景を見に来ている。


「やっぱあれやね、田畑を見ていると心が落ち着くねん」


「別に……」


正確には、ラスが、であるが。


「ホントはチェルノーゼムが見たいねんけど」


「何それ」


そのような他愛もない事をダラダラとしゃべくりつつ、二人は散歩を楽しんでいた。


「それにしても一面緑だね。どうして池に植えているんだろう」


「これは水田てゆーてな、水稲を栽培するための農業施設や」


「へぇー!意味も無く水浸しって訳じゃないのね!」


ラスはバルキンから飛び降りて、水面を覗き込んだ。


「まあ、こんな臭い穀物よう炊いて食べるわ、茹でた方が上手いでコレ」


「あたしは好きだよ!」


「あーあ、うちやったらみーんな蕎麦にしてまうのになー。ほら、貝もおるで」


「貝?なんで貝がいるの?」


「知らんがな、差し詰め養殖でもしとるんとちゃうか」


「ゲー、貝食べるの……」


「こういう淡水の巻貝の味は悪かないで。まぁ良くもないけど……」


「果たしてそう言えるだろうか」


「いやこれは食ったことないから……えっ!?」


「わわっ!」


なんと、二人が気が付かぬ間にミミズクのような容貌の人種、アミ人の女性が立っていた。


「ビックリしたでホンマ」


「いつの間に!」


鳥類人種であるアミ人は地球で言うところの猛禽類から進化した人種であり、無音飛行能力をそのまま受け継いでいる。

そして彼女は宇宙でも有名なグルメ旅行家であり、地球においてはまず日本を回っているのである。


「私が以前紹介したランチョンミートはご存じかな」


「ランチョンミート!?何それ楽しそう!」


「いや、食べ物だ」


「ケッ、食べ物かよ」


バルキンは悪態をついた。


「まあ名前ぐらいは聞いたことあるで。せやけどうちら地球で仕事してるから、外で紹介されてる事はちょっと疎いねんけど」


「それもそうだな……」


彼女はめちゃくちゃ露骨に残念そうな顔をした。


「そ、そんなに落ち込まなくても……」


「えっと……せや!コレ食べてみた?この貝!」


「これは……いや、まだだ」


「食べてみたらええんちゃう、話の種にでも」


「しかしこれは養殖池だろう」


「そんなん聞いたらええがな!」


「多分あそこの建物だよ!行こ行こ!誰が一番に着くか勝負ね!」


三人は一斉にこの田んぼの持ち主の家と思しき建物へと駆け出す。

バルキンは二人にぐんぐん引き離される。


「え!?おかしくなーい!?身体の構造的にぃーー!!」



三人は農家の家の玄関に辿り着く。

ラスとアミ人の女性はケロッとしているが、バルキンは息絶え絶えである。


「はぁ……はぁ……二人とも足速いね……」


「短距離ならな」


「私は飛んだから」


「はぁ……そう……」


そうして、ラスはインターホンを鳴らした。


「ごめんくださーい」


はいはーいと中から男性の声とドタドタと慌ててこちらに向かう音が聞こえる。

扉が開くと、この初老の男性はギョっとした表情になった。

彼にしてみれば、宇宙人が訪ねてくるだけならまだしも、3種類もの宇宙人が扉を開けたらそこにいるのだから、彼の胸中を推し量るのは容易だろう。


「え、えっと、その、何か御用でしょうか……っ!」


「すんませんけど、そこの池の貝を買いたいんですけど」


「池、貝って……?」


要領を得ないような様子である。


「見てもらった方が早いんじゃない?」


「それもそうやね」


「おじさん、見てもらってもいいですか?」


「え、えっと、はい、どれですかね……」


初老の男性を連れて水田の中の巻貝を指さす。

彼は注意深く覗き込むと、すぐ合点がいった様子である。


「あー……これはねぇ、これは害虫なんだよ」


「え?養殖しているわけじゃないの?」


「国によってはしているみたいだけど、日本じゃ食べないからね。元は食用らしいけど」


「では食べられる、ということかね」


「そうだね、寄生虫がいるからちゃんと火を通さないといけないけど」


「それじゃあいくつか貰うよ!いくら?」


「いや、いらないよ、害虫だし……ひょっとして、これって宇宙では売れたりする?」


「味によってはな。ジュルリ、すぐにでも食べたいものだ」


「そうだよね……日本でも同じ理由で食卓に上がらなかったらしいし」


「まあまあ、宇宙人の口には合うかもしれんで!」


アミ人の女性が水に手を入れて、その巻貝を掬い上げた。

その手は羽毛に覆われており、手というよりは翼に指と鉤爪が付いたようなものであり、その掌に当たるであろう部分に山盛りの巻貝が乗っている。


「ああ、袋に入れよう」


男性は急いで家に入り、ビニール袋を手に取って戻って来た。

彼が袋の口を広げると巻貝を流し込む。小さな袋はすぐ満杯になった。


「かたじけない、御仁」


「今度会うたら感想聞かしたりますわ」


「ありがとう!優しいおじさん!またね!」


「ああ。手?は洗ってな……あ、それと写真を撮ってもいいかい?」


「ええですよ」






「そう、これこそが、かの有名な食品輸出会社『ウキミ食品』の始まりだったのです」



「……なんですか先輩、その変な顔は。本当ですよ!」



「いや、冗談じゃないんですって!ほら、写真もありますから!」


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