電気人間の怪
宇宙人というのは驚くほど現金を持っている。無論、カード会社が対応していないというのもあるが。
噂によれば宇宙人向けのクレジットカードサービスもあんまり好調ではないらしい。
さて、またかと思われるかもしれないが、宇宙には多様な人種が存在する。
菌類や機械生命体はもちろん、無機生命体ももちろんいる。
そして彼らの中の一つ、情報生命体というものがいるのだが、まあ地球人は信じないだろう。
私もこの目で見るまでは信じられなかった。なんと表現すべきだろうか。
一番近いのは幽霊だ。幽霊が実在するとすれば(ガウラ人は実在すると主張している)、それが彼らに近いだろう。
特殊な手段を使わなければこちらの世界には僅かにしか干渉できず、さらに彼らは電子機器に入り込むのだという。
そんな如何にもなものが存在しては堪りかねるのだが、彼らがパスポートを持ってこの地球の玄関口に現れたとなれば信じざるを得ないだろう。
「如何ありましょうか」と言うのはこの目の前の……何と言えばいいだろう、何も無い所に映写機で写したように透けていて、見てくれは所謂魂のような、そんな容貌だ。
想像できないかもしれないが、これを文章で伝えることは至難の業だろう。未だに信じ難い、目を疑うとはこの事だ。
「では、あれですかな、対有機生命体コンタクト用のヒューマノイドインターフェイスでも…」
なんだか懐かしい響きだがその必要は無い。彼の書類を受け取ると、これまた発音できないような名前が書かれている。
「はっはっは、よく言われますよ。こちらの世界の人間には読めないでしょうな」
彼らの便宜上の国家名は『第六意識』という。企業統治国家であるミユ社との戦争に敗北し、今はその従属国である(例の金持ちにゃんこの国。1企業がそのまま国家として機能している)。
「しかし、あの敗戦が無ければこうして私たちが出会う事もなかった。そう悪くもなかったのです」
なんとも悟ったかのような物言いである。どうやって戦ってどう負けたのかが気になるが。
とにかく、彼(彼女?)を皮切りにこういう情報生命体もよく見かけるようになった。
1週間ほど経った頃、クレジットカード会社からカード停止の案内が届いた。なんでだ。
「先輩、多分情報生命体連中だと思うんですけど」
そういう偏見はよくないと思うよラスちゃん。
「でも絶対そうですよ。あいつらは電子機器やネットワークに忍び込んでセキュリティを破り、電子通貨なんかを奪う事もあるんですよ」
ううむ、まあそういう事もあるだろうが……となると地球人には手出し出来なさそうである。
「やつらは特別なセキュリティをしておかないと犯罪し放題なんです」
「その通り」
おや、誰か他にいただろうか。
「ここですよここ」
と私のスマートフォンから聞こえた。画面に表示されているのはいつぞやの情報生命体である。怖い!
「きっと私たちの同胞の仕業ですね、申し訳ない」
「本当、迷惑なんですけど。早く止めて来てくんない」
「そうしたいのは山々なのですが、電池切れかけてますよ」
あ、ホントだ。「まあ私のせいなんですが」出て行け!
「すみませんが、この『HEAT/Great Honor』ってゲーム、面白いんですかこれ。なんか、課金してはずーっと同じステージ回るばっかりで……」
人のスマホに入って来てアプリにまでケチをつけるとは何てやつだ。否定は出来ない。
え、課金してないよね!?
「ご安心を。1万円ほどしかしていませんから」
なるほど、ラスちゃんがこいつらを疑う訳である。
「っちゅー事は、こないだからのあの、11payの事件もあんたらの仕業やな!」
「いやあれは単純にセキュリティシステムが存在しなかっただけです」
「そっか……」そうだよな。
「では事件の解決に動くとしましょうか。私のスマホをこのまま持ち出してください。あ、モバイルバッテリーあります?」
お前のじゃないが。まあバッテリーはあるけど……。しかしながら今は仕事中である。
「では、仕事が終わるまで待ちましょうか」いや普通に今すぐ出て行って欲しいんだけど。
で、仕事も終わった頃。
「終わりましたか」お前まだいたの。
「いやー、強敵でしたよ井上成美は。重慶無差別爆撃ラッシュは強力でした」
またゲームやってたのか。しかも今回のイベントクリアしちゃったのか!
「サラディン、杉原千畝、キング牧師、ナイチンゲールの人道主義デッキでなんとか突破しました」
そんな攻略法があったとは!……それはそうと事件の解決って話はどうなったのか。
「あ、そうでしたね。行きましょうか」どこへ向かうのだろうか。
彼(彼女?)とやって来たのは、駅前の客の多いコンビニであった。
「ここのWi-Fiスポットを使いましょうか」
Wi-Fiなら宇宙港にもあるが(宇宙人らは規格が合うものを持ってないので職員しか使っていないのだが)、ここでないとダメなのだろうか。
「いえ、足が付くと問題ですからね」……結局端末の情報は残るので、どちらにせよダメなのではないだろうか?
「厳密に言えば、どこからでも足が付かないようにする事は可能なのですが、まあフリーの方が楽なのです」
よくわからないが、彼らの事情というものがあるのだろう。
「それでは、接続してください」
まだ登録をしていないので、さっさと登録を済ませてWi-Fiに接続した。
「よし、すぐ済みますからね」
と彼が言うと、画面上からスッと消えてしまった。
するとしばらくして、緊急速報が届いた。この緊急速報というのは、日本政府と帝国が提携して地球上での帝国軍の活動を報じるものなのだが、どうやら帝国電脳軍というものが動き出したそうな。
そんな軍隊まであるのか!と驚くような名称であるが後から聞いた話によると、所謂サイバー対策課のようなものらしいので、ちょっと夢を壊された心地である。
それから数分後、彼は戻って来た。
「見つけて帝国軍に突き出してやりましたよ。いい気味ですなぁ」
これでクレジットカードも使えるようになるだろう。でかした。
「さぁ、帰りましょうか。私たちの家へ!」私の家だが。
家に帰りつき、『HEAT/Great Honor』を開く。早速さっき言っていた方法を試してみようとログインしようとするが、繋がらない。
不正なアクセスがあった為にBANされた、と表示が出ている。
「あっ。すみません、どうやら勘付かれたみたいですね。こういうのばっかり力入れて、ゲーム性に金をかけるべきなんですよ」
お前の仕業か!どうやらガチャをちょいちょいっと弄って星5の英雄をバンバカ出していたようだ。なんてことするんだ!
ていうかBANてお前……課金しといてお前……そんなに金はかけてないのでそう惜しくはないのだが。
「まあ、また始めましょうよ最初から。BANならちょいちょいっと解除してあげますんで」
それよりも、こいつはいつまで私のスマホに居座るつもりだろうか……。




