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銀河輸入雑貨店


最近では、宇宙から様々なものが入ってくるので、地球人たちはそれを楽しみにしているのだという。



「ねね!最近何してる!?あたしパパ活!」

と恥も外聞も無く言うのは当然バルキン・パイである。一体誰がパパになってやろうというのかこの馬に。

「意外と多いよ、単価も高いし、アメリカから来た人もいたね~」

う、ううむ。

「まあ、そういう人もいるからね……本人たちの同意があれば、まあいいんじゃないの……」

とは言いつつも佐藤も若干引き気味である。

「ねえ、パパ活って?」

ラスが不思議そうに聞いた。そんな事は知らなくてもいいのだ。

今日は休日なので友人たちとファミレスでダラダラとだべっている。

「さとちんは何してる最近?」多分佐藤の事である。この馬はいつもこうやって謎のあだ名をつける。

「さとちん……? えっとねぇ、お客さんのガウラ人に色々と誘われてて食べたり飲んだりばっかりだよー」

なるほど、吉田が最近しょげ返ってるわけだ。

「まあでも、どこかの誰かと違って私はちゃんと人間が好きだから、変な事になったりするわけではないんだけど」

だそうである。よかったな吉田。……まるで私がちゃんとしてないような言い草である。

「って事はサトー、あんた太ったんちゃう? というか、パパ活について教えて欲しいねんけど」

「そうなのッ!」と佐藤はテーブルを叩く。ラスはちょっとビクッとした。

「太ったのよ結構!どれくらいかは言えないけど……」

そう言ってお腹をさする。飲み食いしてばかりでは太るのも当然である。

しかしながら、本業のペットのトリミングとかがあるので、そんなに暇そうには思えない。

「いやだってもううち宇宙人しか来ないし、宇宙人は宇宙人で、一度切ったらしばらくは来ないし……」

元はペットサロンだったはずが、宇宙人向けの美容室になってしまったようだ。法制定前なのでデカいシノギの臭いがする(かの有名な吉本フレンズ生コン社の騒ぎもあるし、暴力団は最近のトレンドであるし)。

「ええなぁ、ウチも今度行こうかな。それよりも、パパ活って何?」

「是非おいでよ、可愛く切ってあげるから」

「あたしも行こっかな!」

まあ繁盛してそうで何よりである。

「それでさ!何かいいダイエットはないかなーって」

そんなものがあればとっくにみんなやってるだろう。そもそも適度な食事と運動をすればいいだけである。

「まあそれはそうなんだけど、何か良いものがあればと思って」

むー……そういえば、一つだけある。ある宇宙人の営業マンにもらった名刺があった。

なんでも健康とかの薬品を販売するのだそうで、私は興味が無いのだが、名刺だけ押し付けられたのである。どこで売るのかも書いてある。

「そうそう!そういうの!宇宙時代万歳!店員さんケーキ追加で!」

これだもん。しかしながら、大体そう事は上手い事運ばないというものである。


そういうわけで後日、佐藤と二人で地球外輸入雑貨を扱う雑貨店……というにはかなりデカくて、スーパーみたいな所にやってきた。

一見して、普通のスーパーマーケットとさほど変わりはないのだが、駐車場、駐輪場、そして傘立てに厳重な警備が敷かれている。

更によく見ると傘立ては宇宙最先端のセキュリティシステムが導入されており、もし他人の傘を盗もうとするならきっと命はないだろう。

「おほー!こりゃ凄い楽しみ!」佐藤は大興奮である。

こういう店は法的にはちょっとアレなのではないだろうか。

普通の家具やインテリアはまだいいのだが、食べ物や薬品、機械類の取り扱いは問題があるのでは?

きっとグレーゾーンとか有耶無耶とかそういう感じのアレで成り立っているのではないだろうか、危険物は宇宙港で止まるので、被害と言えるものは出ていないと思うが……。

そういうのちょっとどうかと思うんだけど!?という事を外で万引き禁止の貼り紙をやり過ぎなぐらいベタベタと壁に貼り付けているエウケストラナ人(バルキン以外で初めて見たぞ!)の店員に問い質してみると、意外な答えが返って来た。

「大丈夫!日本国政府が買い上げて、それをここで販売しているのですからね!」目をへろりと逸らした。ホントかよー!

「大丈夫って言ってるし、見てみよっか」まあ、大丈夫だという事にしよう。反社会的勢力に金が流れるわけでもあるまいし。

中に入ると、見た事も無いような品々が棚にズラリと並べられていた。こりゃすごい。

「わぁ、これは、薬を見に来たんだけど、ちょっとそれ以外も見てみたくなるね」

全くその通りである。


「いらっしゃいませ、万引きはせぬようお願いします」

普通なら地球人を何だと思ってるのか、とムッとするところだが、私ほどになるとどうって事ない。

だが佐藤は「あはは、やっぱりそういう扱いなのねー……」と微妙な顔をしていた。

とはいえ、中には傘立てほどのセキュリティらしきものは今のところ見当たらない。

「あ、これなんだ!」と佐藤が手に取ったのは……何それ。なんかグニグニした粘土みたいな見た目だが、触るとサラリとしていてヒンヤリする……よくわからない。

「何だろうこの……何だろう……」近くにいたガウラ人の店員を呼び出して聞いてみた。

「わかりません……我が帝国にもこんなものはございませんので……あ、万引きはしないようにお願いしますよ」

お前もわからんのかい!誰かがわかるから置いたのではないのだろうか……。

「よし、買った。値段も500円弱と手頃だし」なんかよくわからないやつお買い上げ。

ヒンヤリしていて頬に当てると気持ちがよいので、多分そういう冷却グッズなのだろう、知らんけど。

他にも何の臭いも味もしない試食とかどういう類の種なのか想像もつかない生物とか何かを放出している鉱物とか用途不明の怪しげな機械類とかホントにこれ適法なの?というものがずらずらと並べてあった。

特に特徴的であったのが傘である。傘はどのような星でも変わらず、銀河傘連盟なるものも存在する、と何か変なネズミっぽいキツネっぽいマスコットと共に手描きのポップが貼られていた。

が、なんと全面が金属の格子で締め切られ、欲しい時は店員に頼んで開けてもらうしかない(どんだけ傘盗むと思われているのか日本人)。


かくして、寄り道しながら歩くこと二時間半、ようやくお目当ての薬品コーナーに辿り着いた。

「二時間半?楽しすぎて疲れを感じないね!」

佐藤の買い物かごはいっぱいである。

「喋る鉱石はヤバいよねこれ」「限られた」「ほらまた喋ったよ」「限られた」

なんでよりによってその言葉なのかはわからないが、日本人の耳にそう聞こえるってだけなんだろう、多分(ちなみに声は最近結婚したという人気男性声優に似ている、らしい)。

そんな事より「限られた」ちょっと静かにしててねカジ鉱石くん、色々と薬品を物色しようじゃないか。

「色々あるね……これは、『痒くなる薬』?何に使うのよ……」

なんだか妙な薬ばかりで、これは薬事法的に大丈夫なのだろうか。

メウベ人の店員に聞いてみると「さぁ、興味ないから。万引きはするなよ日本人。見てるぞ」とのことである。無法地帯である。免税店ならぬ免法店である。

「ダイエットに効きそうなのは……この食欲減衰とかはちょっとなぁ……」

体内の油分を溶かす薬とかあるけどこれどう考えても処刑用のやつではないだろうか。

「あ、これいいんじゃない!?体内の栄養を排出する薬だって」

いや、それは……絶対具合悪くなるやつ……ってか死ぬだろ……。

「やっぱりそうかぁ……なんか死ぬやつばかり置いてあるね」

ロクでもないものばかり置きやがって!と二人でモチャモチャと愚痴っていると、いつぞやのサーヴァール人営業マンが現れた。

「おや、おやおやおや、これはこれは入国審査官殿、ご来店ありがとうございます。あ、万引きはやめてくださいね」

彼にダイエットにいい薬品はないのだろうか、と尋ねてみる。

「運動されるのが一番ですね」まさしく至言である。

「どうしてもと言うのであれば、こちらですかね。栄養の吸収を抑える薬です。メメ教徒の修行僧が使っていた漢方を元に作られました。まああまりオススメはしませんが……」

「それいいね!買った!」とすぐにかごに放り込む佐藤。かごは溢れんばかりで、随分と羽振りのいいものである。

「ま、まぁ、自分へのご褒美ってやつかな……」そうすか……。

「お買い上げありがとうございます。もっといっぱい買っちゃってください!」


そうしてその後も二人で一通り見て回り、佐藤は合計24点でおよそ六万四千円の買い物をした。加減しろ莫迦!

更に、薬の効果であるが、後日彼女から連絡があった。

「ヤベーのなんのって、もういくら食べても」「限られた」「ちょっと黙ってて!全然栄養吸収されないし効果1週間ぐらいあるし、助けて!」

とりあえず、病院に行くように勧めた。世の中そう上手い事いかないものである。


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