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ギャンブラー No.56


「うわーん!助けてー!」

バルキンが叫ぶ。彼女は不逞宇宙人の人質となってしまっているのだ。

「こいつを殺されたくなかったらこの国の元首か、政治首班を呼べ!」

直立する爬虫類人種の不逞宇宙人も叫ぶ。彼はバルキンに銃を突き付けているのだ。

一体どうしてこんなことになってしまったのか……!



その日も、普段通りの仕事をこなしていた。

大きなトラブルもなく、ラスの方もなんだか眠そうな顔をしていたところ、バルキンの方が騒がしくなった。

「一体何事でしょうか」とラス。客たちにも動揺が走っていた。

彼女に様子を見に行かせたところ、なんとカウンターを乗り越えてバルキンに掴みかかる暴漢がいたという!

メロードに客たちを避難させ、私もちょっと様子を見に行ってみた。

「うわー!助けてー!犯されるーー!日本の成人男性向け書籍みたいに!日本の成人男性向け書籍みたいに!」

「誰がテメーみてーな四つ足に欲情するか!!人質だテメーは!」

「チッ……あーあ、はいはい、どうぞ、人質ね」

あの馬、自分の状況わかってんのかしら。

警備員は一瞬の隙を突かれたようで、バルキンが人質に取られてしまったことに狼狽えていた。


そして今に至る。警備員たちが犯人に銃を向けて取り囲んでいる膠着状態だ。

警備課の課長であるフィーダ、課長補佐のソキ、宇宙人対策係長のアクアシの三人が揉めている。

「普通にぶっ殺しちまえばいいのでは」「そうなると色々と問題がある。日本国内で揉めると主に野党がやかましい」

「左様の通りです、であるなら後ろから忍び寄ってやっつけてはどうでしょう」「どうやってだ」

誰が誰だかわからないが、とにかく揉めているという事だけはわかった。

「俺様の腕があればあいつを殺さずに行動不能には出来るぜ」とエレクレイダーは言う。

が、「でも失敗したら野党が騒がしくなるからなー」と肩を落とした。

局長も「殺すと野党がうるさいからなぁ……」と言うからどんだけ野党うるさいんだ全く。

不逞宇宙人、まあ犯人とでも呼ぶとしよう、犯人はこちらに要求を突き付けてきた。

「一時間以内に大日本帝国の国家元首、または政治首班を出せ!でなきゃこいつの命はない!」

もう大日本帝国ではないのだが、恐らくは天皇陛下か首相をご所望なのだろう。

無論陛下をこのような場にお呼びするわけにはいかないので、首相が来ることになるだろうか、仮に要求を飲めばだが。

「首相を呼んでどうするつもりだ」

局長が問いかけた。すると犯人は表情を歪ませてこう叫ぶ。

「この国のせいで俺の人生は台無しだッ!!」

渾身の叫びにも関わらず、辺りははてなんのこっちゃという空気になった。

「なんか知ってる?」と局長が私に聞いてきたが、全く心当たりがない。

宇宙人との接触は(帝国に隠し通したものがあるのでなければ)間違いなくガウラ帝国が最初であるはずだ。

「よくわからないな、一体どうして台無しになったんだ」

「大東亜戦争だ!あれに負けさえしなければ、俺は今頃億万長者よ!」

いよいよ意味がわからなくなってきたぞ。そもそもその頃に地球は『発見』されていたのだろうか。

「まあ存在は知られていたのかもしれない、我々は知らないが……」

「しかし、いかがいたしましょうか局長」とソキ課長補佐が遮る。

「首相を呼べば野党がうるさいでしょうが、かといって首相が行かないとなるとやはり野党がやかましいでしょう」

どっちにしろ面倒臭い状況になっちまったなぁこれ!

「ではなんとしてでも我々だけでこの事件を解決せねばならない」

局長が意気込むが、一体どうすればいいのか。

「まず原因を聞き出そう。一体大東亜戦争に何があったというのだ!」

犯人に問いかけると、こう答えた。

「大日本帝国が勝ち目のない戦争なんかするから悪いんだ!」

日本が負けた事と彼に何の関係があるのか。

「あいつ、ひょっとして戦争賭博の事を言っているのか」

戦争賭博とは、原始惑星の大きな戦争でどの国が勝つか賭けるというものである。

非合法のように思えるが、銀河全体で禁止されているわけではない。しかし、行儀のよい行為とは見做されていないようである。

1870年の普仏戦争以降の地球は優良な賭博場であり、特に第一次エチオピア戦争、日露戦争、冬戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争は大番狂わせの名勝負であったとされ、配当金も凄まじい量となったそうな。

しかしながら銀河の反社会的勢力の資金源の一つという側面もあり、帝国の地球への接触の動機の一つともなっている。

「お前、余程見る目が無いらしいな」「うるせえ!」

太平洋戦争開戦時の大日本帝国のオッズは682倍、人気が無いとか言うレベルではない。

「首相を呼んでもどうしようもないだろ!人質を解放しろ!」

「俺はなんか仕返ししてやらないと気が済まない!俺の父はこれに全財産をつぎ込んだんだぞ!そのせいで俺まで貧乏暮らしだ!」

「えぇ……」えぇ……。なんだかどうしようもない感じになって来たぞ。いつぞやのアンドロメダからの来訪者が思い出される。

ていうかバルキンはやけに大人しい。(だって、する事ないし……)ぐっ、直接脳内に!

なんか超能力的な何かで、ワープとか出来ないのだろうか。

「あ、そうじゃん!」「うわ!なんだ!?」

突然のバルキンに狼狽える犯人であったが、そんな彼に構わずバルキンはむむむむ、と頭を捻り出した!

「キテル・キテルヨ・デンキテル!!」

更に彼女は、呪文か何かの詠唱らしき言葉を叫んだ次の瞬間、フッと消えた!

「き、消えた!?」「確保ォー!!」

そして身構えてた警備員たちが一斉に犯人に飛び掛かった!


なんとも間抜けな事件であったが、どうやらこれで野党に騒がれずに済みそうだ。

犯人の彼は母国に帰っての生活保護とかそういう制度の利用を薦められると、涙を流しながら自身の苦労の半生を語ったという。

気になる点と言えば、消えたバルキンの行方である。彼女は一体どこへワープしたのだろうか?


……バルキンは四日後になってようやく帰って来た。

一体何があったのかと聞くと「いやー!飛びすぎちゃって!パリまで飛んじゃったよパリ!臭いのなんのって!」

ちょっぴりだけ心配していたのだが、呑気な彼女とフランスの現実にダブルショックである。

パリって、そんなに汚いの……ショックだなぁ……。


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